馬車とデーモン

第21話 何をしようか

「ふぁぁ~、眠い」


ゴキゴキと背を鳴らし、脳も体も目を覚まさせる。


全く、昨日は馬鹿共の会話に巻き込まれて夜の寝るのが遅くなってしまった。その分収穫もあったけどね。




「ん?アレ?」


つまらない考えが朝イチに登った事に驚愕し、私は胸元に手を当ててしばし無言になる。


(罪悪感が、極端に少ない?)


罪悪感に毎朝襲われ、ごっそり体力を消耗してた私が、今極端に罪悪感がない。


心の傷はやはり時間が解決するのか。


まぁ、理由はどうあれ朝の嘔吐がなくなるのは良い事だ。


「もっとも、背負わなくていいやって心が判断したのじゃなければね」




そう吐き捨てると、私は筋トレ、、、、は腹部の傷が痛いので今日は却下するとして、久々にあの人と話そう。


「あーあー聞こえますか?雲さん」


「おう聞こえてるで。久々だねー空ちゃん」


ブンブンと手を初日以来使った事がない紙に向こうで振り、元気に挨拶をする雲さん。


「いや~、多分一ヶ月ぶりかな?いや、まだ経ってなかったけ?」


「多分経ってませんね。でも、体感的には一ヶ月はゆうに超えましたよ」


「そうかぁ。辛いのは分けるけど、そこは頑張って乗り切りな」


若干申し訳無さげに雲さんはそう言うと、デスクに目を逸す。正しくは、そこにあるだろうポイントカウント装置に。


そういう事なら話が早い。




「えぇ、頑張りますよ。で、その頑張りを応援する為に少々手助けして欲しいんですよね」


「よし来た!この雲さんにまっかせなさーい!」


キラキラと目を輝かせ、この日を待ってたと言わんばかりに要求を聞く。


「何が欲しい?あまり凄いのは渡せないけど、毎日皆んなでコツコツ余ったのを貯めてるから、そこそこ良いのは渡せるよ。剣?それとも弓?もしかして杖?」


「そこそこと言われても私まだよく分かってないんですよね、この世界の平均とか。一応地味に上位に入りそうな人は一人知ってますが、、、、」


「じゃあ、多分それをワンランク下げたのなら渡せるよ」


「へぇーそうですか。あぁ、でも思い付きませんね。私どうやって戦うかも決めてませんもん」


「それじゃあ、一体何が欲しいんだい?」


腕を組み、私の要求に首を雲さんは傾げる。


大丈夫、武器はまだ欲しいと思っていないだけだから。




「武器はまだいいですよ。それよりも、情報が欲しいです。ありますか?アメリカの“ゴールドラッシュ時代”の経済に関する本とか」


武器なんて後から金で買えばいい。それよりも欲しいのは、私の世界の情報。ゴールドラッシュ時代誰がどの時期にどういう事業で一番稼いだのかを知れば、金が手に入る筈。


その思惑を知ってか知らずか、雲さんは大いに笑うと一言。


「オッケーオッケー。要望通り調べて送るからそれまでテキトーにしてて下さい。多分明日には出来ると思うんで」


ピースサインを作り、笑顔で資料作りの準備だろう事を始める。


「ありがとうございます。資料作り頑張って下さい。ばいなら」


手をフリフリしてそう言うと、雲さんも同じく手を振り答えて通信?を切る。


「ばいなら~」




「さて、おーい先輩。そろそろ起きて下さいよ。何時もの睡眠時間で寝てたら確実に馬車の出発に遅れますよ」


「ぬー。もう朝?」


「えぇ、朝ですよ。ご飯も今日は少し多く食べて良いので、早く起きて下さい」


2つの意味で餌を先輩にぶら下げるが、先輩は布団から離れない。なんで?


「もしかして、朝ごはん食べたくないんですか先輩?」


地味に起きない先輩に対して笑いながらそう語り掛けるが、先輩はコクリと頷く。




「あのね、空ちゃん。なんか私ね、頭がボーとして力が入らないんだよ」


私に真っ赤になった顔を見せ、先輩は辛そうに訴える。


「先輩。それって、“風邪”なんじゃ?」


「うん。かもしれない。どうしよう?」


コホコホと、先輩は咳をして布団をより深く被る。


「そうですね、、、、取り敢えず先輩はここで寝て下さい。ご飯は私が食べ易そうなのを後で持ってきますから」


私は急いで財布を持つと、下の階へと向かう。







「あっ、ソラさんおはようございます」


「セレナさんおはようございます。ところで、風邪に聞きそうな料理って、何かありますか?」


なんかこう、異世界パワーで風邪を治す物がさぁ。


「ん?風邪?ソラさん今風邪なんですか?」


「いや、私じゃあないんですけど、先輩がね」


「あぁ、昨日廊下で寝てましたからね」


「お恥ずかしい事に」


目を細めてああだっけなぁと思い出すセレナさんに、私は申し訳なさそうに頷く。




「風邪に効くものですか。そうですね、野菜が沢山入ったスープが良いってあっしは思いますね」


「まぁ、確かにビタミンとかは風邪に良さそうですね」


「ビタミン?」


おっと、口が滑ってしまった。


「いや、何でもありません。大丈夫です!助言ありがとうございます!ちょっと頼みに行きます」


「あっ!えっと、ビタミンに関して教えてくれませんか?」


「ついでにセレナさんの分も買っときます」


「マジですか!?あっ、それとビタミンも、、、、あぁ、まいっか」


ビタミンが気になって仕方ないセレナさんだが、私は無理に誤魔化す形で話しを諦めさせた。


まぁ、実際言うにしたって説明できる程知ってもいないしね。




「えっと、ジギルとハイドちゃーん。注文とか良いかな?」


カウンターを指でコツコツと叩きながら、そういえば料理運びにメニューのオーダーでギルド内を歩き回る二人に、私はセレナさんには何をあげようか悩む。


「良いよソラお姉ちゃん。何頼む?今日はおいしい野菜が沢山あるよ~」


「それとね、今日は卵のふわふわしたのがオススメだよ」


「ふーん。じゃあ、野菜スープを一つと、その卵ふわふわしてるの一つと、いつものサイドウィッチ2つでいいかな?」


「「いいよ」」


ハイドちゃんがオーダーを取ると、キッチンらしき所にオーダーを届け、ジギルちゃんは料理を運ぶ。子供が頑張る実に微笑ましい光景だ。児童労働である事に目を瞑れば。


しっかし、今回もこんな所にいる私の声が聞こえたな。


ちょっと、耳が良すぎやしないか?




「まいっか。セレナさーん。頼みましたので、来るまで適当に話しませんか?今後の方針とか」


「そうですね。あっしも放浪の旅から定住することになりますし、決めることいっぱいですから話し合いましょう」


つい先日セレナさんを仲間にするにはしたが、セレナさんに元してた旅を止めさせる以上、新たな拠点に私が馬車に乗る日にセレナさんがどうするか等決めることがある。


「そうですね、今まで何処で寝てましたか?まさかですけど、野宿ですか?」


「流石に金のないあっしでも野宿はしませんよ」


「あぁ、だよね。流石に可能な限り宿で泊まるよね」


「えぇ、流石に街の中で野宿はよくありませんししませんよ。余程じゃないと」


ん?結局するの?




「まぁ、宿云々かんぬんはお金さえあればどうにだって出来ますよ。それよりも重要なのはあっしが普段何するかですから」


頬を掻き、自信なさげにセレナさんは零す。


「所詮仲間になると言っても、別に私達の専属って訳じゃないから他の人と行ったらどうですか?」


「許してくれるならそうしますが、沢山の人と組んだりすると時には『こっちを優先しろよ~』的なトラブルが起きたりするので、ソラさんの迷惑になるかと、、、、」


「なるほど」そう言い、私は以前のセレナさんならぶつかることのない問題に頭を悩ます。


色んなパーティーと関係を持っても、どっか行けば関係ないが、定住するなら話しは別だ。


沢山の人と折り合いを付けながらやるしかない。




どうしようかと悩む中。ジギルちゃんが手を差し伸べる。


「ねーねーお姉ちゃん。やる事がないならさ、ギルドのお仕事手伝ってよ」


二人いる従業員うちの片方であるジギルちゃんは、お皿を両手に持つのは当たり前で、両腕にも頭にも載せて、更に良く見れば手だけで三枚程のお皿を握ってた。アレだ、テレビで時々見るヤツだ。


小さい子供がここまで荷物を載せ、やっとこさ回るギルドの料理。確実に従業員が欲しいだろう。だが。


「まぁ、仕事をくれるなら嬉しいけど、何で他の人雇わないの?」


そう、セレナさんを雇うなら金欠でもないし、かと言って雇う程に困っているのなら他の冒険者を雇えばいい。


「うん。そうなんだけど、おじさん達が『野郎にメシ運ばれて誰が喰えるかって』言ってて、皆んなそういう事って言って誰もしなかったの。昔は他にもお姉ちゃんがいたけど、お仕事で外に行ったの」


おい、何で目を逸らしたオッサン達。




オッサン達にする説教は後として、私はセレナさんに「する?」と聞く。


「そうですね、、、、あの~ここで働くついでに、一つ部屋を開けてくれますか?ギルド運営の宿を」


「あっ、うん。手伝ってくれるならいいけど、今一杯だから誰か追い出さないと」


「じゃあ、この宿に泊まってるオッサン達を誰でもいいから追い出そうぜ」


「待って!頼む!待ってくれ!俺の第2家を取らないでくれ!ギャンブルでつくった金は必ず返して元の家は取り戻すから、、、、」


「おっし!コイツを追い出せ!大丈夫、ギャンブラーよりも元修道者を泊まらせた方が色々と良い筈だから。多分」


ペコペコと頭を下げるオッサンの提案を蹴り飛ばし、悩むジギルちゃんに私は提案する。




「別に開けれないことはないけれど、そんなの良くないから、、、、」


「大丈夫!徳が詰めるよ。ジギルちゃん達が不当に働いた分を返してやれ」


泣き喚くオッサン。家を奪う私。仲裁に入るか悩むセレナさん。優しいジギルちゃん。


目を背けたい酷い光景の中。ジギルちゃんは「そうだ!」と言って閃いたアイディアを口にする。


「ねぇねぇソラお姉ちゃん。宿泊費安くするから、セレナお姉ちゃんも一緒に泊めて」


子供にとっては名案だったのだろうが、頼まれた私はまぁたまったモンじゃない。


「いや、ジギルちゃん。私の部屋はちょっと、難しいかなぁ?荷物が増えて部屋が狭くなったし、そこにセレナさんが入るとさ」


「え!?お姉ちゃん達荷物とか変な所に置いて、部屋に何にもないんじゃないの?」


「そうなんだけど、最近欠点が見つかってさ」


「どういうの?」




キラキラと眩しい視線に、私はどう説明するか悩んだ後に、子供に説明できる程噛み砕けないと判断し、一言。


「あぁ、いいよ。荷物全部仕舞った後、クエスト行く前に出せば問題ないから」


「すみません。ソラさん」


「いいよセレナさん。ジギルちゃんが悲しむ事をさせるのは良くないからね。あっ、あと大きい荷物は我慢してね」


「え!?仕舞えない荷物があるんですか?」


「うん。先輩って名前の荷物」


私の渾身のジョークに、セレナさんは苦笑いを浮かべ、「そうですね」とコメントする。その苦笑いはどっちの理由でそうなったか教えてくれ。




「お姉ちゃーん!料理出来たよ」


「今いくよ~!」と、元気に返し。いつの間にか手に持つ料理を全部配り終え、料理を新しく取りにジギルちゃんは走る。


出来た中には私の頼んだのがあるのかなぁと期待を膨らませながら、雲さんが用意する資料とか受け取ってどうするかも考える。


(こっちの生活にも馴れたし、暇があれば色々とやってみたいな~。次は何をしようか)

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