第22話 決闘

「ふぅ、今日は早めに終わったな。そういえば、先輩大丈夫かな?」


一応出発前にセレナさんに先輩の面倒を頼んだが、あの先輩の事だ。何かイレギュラーがありそうで心配だ。


ふわ~と欠伸を一つ、馬車に揺られながら夕焼けが美しいこの街を眺める。


一つ一つ建物が過ぎ去り、次の次が過ぎたらギルドに到着かなと思い、お尻の埃を払う。


そして次の次が過ぎると馬車が止まる。


私は「今日はありがとうございました」と運転手さんに別れを告げるが、返事がない。返してくれてもいいのに。




まぁ、そんな事よりも大事なのは先輩だ。


私は馬車を降り、ギルドの門を潜ろうと、、、、は?


はてはて、私の目が壊れたのか、それとも目の大きいゴミか。だとしたらかなりユニークな上に、カラフルなゴミだ。


私の目には、今ギルドの前で病気の身である筈の先輩がセレナさんの杖を持ち、大量の群衆に囲まれながら『悪魔』と戦おうとしてるではありませんか。


正直アレが悪魔かは微妙だが、なんというか紫色の如何にも悪い肌色と、コウモリの様な羽。明らか人間と違う体つきに、ツルツル頭に生える二本の角と、悪魔と言わなければ何と呼べばいいか分からない生物だ。




うん。そうだな。えーと。


「え!?先輩!何やってるんですか!?というか、何で誰も止めないんだよ!」


人垣を掻き分け、私は悪魔を一瞥すると先輩に寄り添い、立ってるのも精一杯な先輩をおぶって宿に運ぼうとするが。


「おい!何勝負の邪魔をしてるんだ!」


と、悪魔に呼び止められた。


「病人に勝負持ち込むクソ野郎が邪魔とか言うなよ!つーか、何で私達だよ!」


この世界に来て決闘を受ける様な因縁を作った覚えはない、という言葉は隠して。


私の言葉に反論がないのか、悪魔は言いどもると一言。


「だってよ、その。オレサマは、ここの村に最近来た多分変なヤツを殺せって言われただけで、、、、」




その命令が誰に下されたのか、そもそもなぜ殺すかと、聞きたい事は沢山あるが、その中で私はいの一番に聞きただしたい事があった。


「なぁ、何で知ってるんだよ。私達が来たって事を」


多分変なヤツというのは、所謂天使族である見た目をしてる私達であろう。でなければ最近来たヤツではセレナさんも含まれるし、もっと言えば頻繁に馬車が通うからその運転手も含まれてしまう。


加えて、天使族はボンボンみたいな事を以前言われたから、その知識を事実として推察すれば冒険者やってる天使は変なヤツだろう。


しかし、最も重要なのはそこじゃない。


私達がここに来た方法は、“天界からの転移”だ。


超常現象もいい所のこの移動方法で来たってのに、何故来た事を分かる。


観測手段がゼロとは言えないが、少なくとも私の元の世界では異世界からの使者を観測する手段がなかった。


謎は多いが、間違いなく私がここに来た事を知れる者は一般人ではない。




さて、そんな奴等からの使い?ならするべき対応は明確だ。


「そうか、じゃあ命令した奴に伝えな。悪いがこっちは死にたくねぇって」


ヤバイ奴の手下もヤバイ奴。私は相手にしないべきと判断し、踵を返す。


だが、お前を殺したい。嫌だと断ってはいそうですかと帰ってくれる訳もなく、悪魔は私を呼び止める。


「ふざけるな!逃がすとでも思ったか?オレサマと勝負しろ!」


三叉の槍を取り出し、悪魔は私に戦いを挑む。


仕方ない。作戦一つは“成功”したんだ。相手がバカだと信じてやるっきゃない。




「――そうか。じゃあ1、2の3で勝負だ」


そう言い、私は先輩を近くの建物に掛ける。


去り際に、今まで口を開く体力すらなかった先輩から「死なないで」と懇願されたが、うんと言えずに戦いに挑む。


挑む際、私は槍を相手に手が届かない距離に立つ。


「お前の武器はその槍でいいんだな?」


「そっちこそ、武器はなしでいいんだな?」


「あぁ、私の武器は拳なんでな」


勝利を確信する悪魔の眼光に対し、私も勝利を確信して笑う。




煙草と酒の匂いが入り混じる風が一陣吹き抜けると、私と悪魔は同時に1と言う。


周りの人間が息を飲み、視線の熱に見を焼く中、2と呟く。


緊張で心臓が高鳴り、一つ大きく跳ねると3と叫ぶ。


悪魔は掛け声と同時に、槍を私の前に突き出し、私は地面を蹴る。


眼前に迫る槍を、私は“剣”でそれを受け止める。


そう、地面に空間を作り、そこで剣の持ち手を蹴って空間内を飛んだ剣を悪魔の槍の射線上に空間を作り、そこに剣を飛び出させた。


自分でも驚く程に計算通りに飛び出た剣を掴み、悪魔の後ろへ回って後頭部に一撃。




よし勝った。


「おうコラ悪魔!私の勝ちだ!さっさと村から出て行け!テメーの上司には何の成果も得られませんでしたとでも言って許しを請いに行け!土下座教えてやるからそれで謝るんだな!」


ペテンに見事引っ掛かった悪魔に、周囲は大爆笑の声を上げて私に皮肉を飛ばす。


「ソラちゃんありがとよ。俺はアンタがペテンでアイツに勝つって信じてたからよ!」


「待って!私が来て間もないあの間にペテン張って勝つって分かったんだよ!?信用ないな私」


「安心しろ!中にはカウント待たずして斬り掛かるって言った奴もいるからよ」


「ちょっとソイツの顔覚えてくれませんかね?後でお礼参りしに行きますんで」


「あぁ、ソイツならもう逃げたぜ」


「逃げ足早っ!?」




飛んで来る皮肉を適当に一通り返すと、鞘付きの剣で悪魔を滅多打ちにしながら、足でゲシゲシと蹴ったりしてる悪魔に文句を投げ掛ける。


「というか、お前バカだろ相当な」


先輩と決闘してたのに、話し相手が変わっただけで決闘相手を忘れる程度にはな。


「げっ!何故分かったんだ!?」


「お前の命令はなんだぁ?あぁ?」


「変なヤツを殺す事」


「決闘申し込んで殺すなんて何処に書いてるんだよ?殺すなら黙って暗殺一択だろ?」


「そんなダセェ事が出来るか!」


「お前本当に悪魔か?」


ソレ、悪魔というよりかは天使だろ?いや、天使ならそもそも殺しに来ないか。




「あぁ、アレだ。お前最後に誰に命令されたか教えろ。そしたら返す」


私達の転移を察知出来る相手。それは多分に相当な強さを持つのだろう。故に私はソイツの情報が知りたいが。


「言えねぇ。口が裂けても、そのことだけは言えねぇ」


そう言い、悪魔は固く口を閉ざす。


口を閉じる悪魔に対して、私は「じゃあその口を割らせて貰うぜ」と言って剣を悪魔の尻 、にブスリ。


「おんぎゃあああぁぁぁぁぁ!!」


「どうだ?口を割るつもりになったか?」


「絶対に言わねぇ!」


「じゃあもう一丁」


「ああああァァァァァ!!!!」




苦しみ悶えて悪魔は叫ぶが、私は溜め息を一つついてコイツを皆んなに任せる。


「ダメだ。多分コイツ口を割らないや。もしも皆んな暇ならさコイツの口割っちゃくれないか?成功したら報酬は出すからさ」


「おう了解!ソラちゃんを殺そうとした犯人を探してやんよ」


「残念だったな悪魔ヤロー。うちのソラちゃんを相手したのが最後だぜ」


「ソラちゃんは結構エゲツねぇからな。まぁ、相手が悪かったて諦めな」


後ろで何かいわれてるが、私は言い返すのを止めて先輩を部屋に運ぶ。


「へへ、カッコよかったよ空ちゃん。それとひきょー」







風邪なのにも関わらず外に出た先輩の体は、私と比べて数度も高く火照ってた。


汗もびっしょりと掻き、苦しそうな先輩をベッドに寝かせ、水を飲ませる。


「どうですか先輩。具合は良くないましたか?」


「うん。水を飲んだだけで少しね」


私に気を使わせないように先輩はにんまりと笑う。


それにつられ、私も笑う。




「しっかし、先輩なんで決闘なんて引き受けたんですか?部屋でじっとしてればいいのに」


私が今日早めに帰って来たからよかったものの、もしもいつもの時間なら、、、、。


「だって、あの悪魔が空ちゃんにバーカマヌケなんて言うってセレナちゃんから聞いちゃったから、怒ってさ」


布団を深く被り、照れを隠す様に先輩は小声で答える。


そんな先輩に、私はとびきりの笑顔で返す。


「ありがとうございます先輩。私の事にそんなに怒ってくれて。でも、これからはしないで下さいね」


「難しいけど――ソラちゃんが言うなら、少しだけそうしてみるよ」


「そうして下さい先輩」




そう言って、私は今晩先輩にきっと良い儲け話しが転がるよと話しながら看病した。

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