第18話 危機

「っく!っそ、、、、超痛い。平気な顔はしたけど、本当にギリギリだった。魔力障壁マナフィールドを“二重”で張っても通るとか、強すぎ」


木の裏に回った私は、冒険者を土の上に寝かせるとドクドクと首から溢れる血を止めようと奮闘する。


ついこの前にセレナさんに聞いた魔力障壁の使い方。使いたい所に意識を集中させる的な抽象的な説明だったが、手の甲が貫かれたのに首は肌を浅く破る程度で済むのを見ればちゃんと発動したらしいし、私が天界から貰った能力にプラスする形で強くなる様でもある。




(成功して嬉しけど――完全運任せ過ぎて生きた心地がしないなぁ)


幹を背に後ろを覗こうとしたが、第六感とでも言う奴が動くなと告げ、私は首を反対に振る。


首を振ったのと同時に、ついさっき私が向こうを覗こうとした場所に矢が飛ぶ。


もしもあのまま向こうを見てたらと思うと、心臓が潰れそうだ。




しかし、命を運良く二度も拾ったが、流石に動く勇気がなくなった私の元へ先輩とセレナさんが駆け寄る。


「空ちゃん!ダメだよあんな無茶したら!空ちゃんが死んじゃったらどうするの!」


「ソラさん。無茶が過ぎますよさっきのは。アレ完全なぶっつけ本番だったでしょ。魔力障壁使用も、飛んで来る矢の先読みも。一つでも欠けたら死んでましたよ」


駆け寄った二人は私に文句の一つを投げ掛けると、セレナさんは冒険者の体に刺さった矢をブチブチ抜いて回復魔法をかけ、先輩は私の喉元へ今出来る全力の回復魔法で血を止める。




「というかソラさん。先程の矢、よく見えましたね。魔力障壁を使用する位置をジャストで決める程度には」


さすがセレナさん。ここに気付いちゃったか。


実を言うと私は矢“全く”見えなかったけど、別に見なくたってちょっとした工夫があるからね。


「いや、全然見えませんでしたよ」


「じゃあ、なんで首に刺さるって分かったんですか?」


「そりゃ、私だったら首を狙うし、何よりも矢が見えないなら軌道を見ればいいじゃん」


そう言い、私はあの宙空に舞わせた木の葉を思い出す。


狙うのは首。それは確実なら、首の何処かか大体知れば首自体の面積が狭い事もあって魔力障壁の範囲に矢が入る筈。そう踏んだから矢の風圧的なので動く木の葉を見た。


「まぁ、こんな曲芸私だって嫌ですのでもう一度やったりする心配はしないで下さい」


血が止まった傷跡を擦りながら、私は引け目を感じながら嘯く。




「そうそうセレナさん。結局『クラス』ってなんですか?『狩人』とか言ってましたけど」


「クラス?そりゃクラスって、、、、あぁ、そういえばソラさんはクラスを理解していない節がありましたね」


お恥ずかしながらと、私はセレナさんと初めて会った日の事を思い出す。


「えっとですね。クラスって言うのは、その人の戦闘スタイルを呼んだ物であって、基本的に冒険に欲しいメンバーを探す指標となっています。剣や盾を使って前に出れば『戦士』に『剣士』、魔法を使えるのなら『魔法使い』とか『僧侶』。あとは『盗賊』に『召喚師』等がありますね」


「あぁ、なるほど。戦闘スタイルをそう呼んでいるのね。いや、でも普通に皆んなは『俺は剣士だぜ』とか言わないの?」


「アレじゃない?空ちゃん。職業何かって聞かれたのに配属部署を聞かれる感じじゃない?」


「わー先輩流石元異世界出身者。マジで例えが分かりやすいですね」




質問と軽口を一通り叩き終えると、微かに残ってた首の痛みも気になくなり、何よりもおじさん冒険者達が念入りな追撃に出た為、私を狙っているという感覚も消えた。


つまり、ここは安地となった。


私は、この安置にて皆の帰還を待つべきかと頭を悩ませる。


私が助けたおじさんとて、ザッコさんの様なプロではないにしても、この歳になるまで生き残ったベテランだ。そのベテランを、危うく殺しかけた男だ。


それを追うと?


追えても私は良い的だ。それどころか負傷して足も引っ張りかねない。


なら、ここで先程張っ倒した奴らの監視も十分な貢献だろう。




私は客観的な予想を想像すると、先輩とセレナさんに目を配る、、、、のだが。


「ねぇ、二人共?な~んでそんなにやる気なんですか?先輩も、どうして顔に戦おうなんて書いているんですか」


殺させるには十分過ぎる実力差。


私はそれを味わって懲り懲りって思っているのに、二人は戦いたいという表情を浮かべる。


「あのねあのね。私はね、許せないんだよ。空ちゃんに矢を撃って、殺そうとするアイツの事が」


「あっしは、、、、まぁ、金が欲しいのが一番の理由ですが、短い間でも良くして貰った人が傷付けば、ムシャクシャしますね」


「――――ふっ」


「あっ、空ちゃん笑ってる~」


「そりゃ、笑いますよ先輩。だって、私は幸せ者だなって嬉しくて」







多数の冒険者が一つ前のある程度なだらかな坂と違い、かなり急な坂を上がる。


素早く、まるでうさぎが地を蹴るが様に軽やかに上がるのだが、そのうさぎをいとも簡単に狙撃する狩人が遥か彼方に立つ。


矢を弓に番え、狙いを絞って放つ。


簡単な2つの工程に、何人もの冒険者が倒れる。


遠距離という、カバー不可能なアドバンテージが男を有利に立たせる、のだが。




(矢が、もう殆どない)


無駄にやる気と勇気がある冒険者に、男は冒険者一人に矢を二、三本使うのをやめ、足に矢を放って兎に角矢を節約する戦術に切り替えたのだが、それでも矢がもう殆ど残っていなかった。


全員が全員、周りで矢を撃たれた冒険者を目にしながらも、撃たれた人間さえ走りを止めずに駆け上がった。


そのせいで一人に二本程使用する羽目になったが、、、、


(もう、誰も来ないな)


シュッと二発。その二発を放つと、最後に走ってた冒険者二人は地面に倒れ伏せた。




(予想以上に相手が強かった。まさかジジイ相手にこれ程苦戦されるとは)


男は冒険者の猛突撃にある種尊敬の念を抱くが、直ぐに短刀を取り出す。


(このジジイの事だ。今から喉を掻っ切るにしても、やれるのは6人が限界だろうな)


横目にチラリと、突撃が失敗と察した冒険者の一人は自分の周りの冒険者を担いで逃げる。それが何人も。


ダメージは足のみ。無論何人かには即死の攻撃を与えたが、大部分は狙い易く外しても機動力がガクッと下がる大腿骨頭。


故に、逃げれる者が多数。しかも――




「死ねぇ!!」


既に折れているだろう足で無理に立ち、冒険者に近付いた男を斬ろうとする。


しかし、その程度の攻撃はすまし顔で避け、男はため息をつく。


もしやコレを狙っていたのかもしれないかな、と絶対にありえない作戦を心配する程の戦意。弓に撃たれて未だ進む以上の強い意志力に、男は殺すのは止めてさっさと逃げるかと思ったその時。


「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」


咆哮の様な叫び声を上げた冒険者は、自分が持っていた武器を男目掛けて投擲する。


不意を突いた形。ヤバいと思ったが、男は咄嗟に頭を動かし武器を避け――反対の頭部に鈍い痛みを感じる。


ゴリッと、頭皮がめちゃくちゃくちゃに捲れる感覚と、コレが刃物や弓矢の様な人工的な物ではない事を男察すると同時に、貴重な矢を弓に番えてこの凶器が飛んだ地点に引き絞る。




「で、こーやると結構な威力で石が投げれるんですよ」


「原理は、、、、魔力障壁と“同じ”かぁ。アレも火事場の馬鹿力的なヤツがありえそうだから難しそうだなぁ」


「ん~~私は全然だなぁ」


「先輩は投げれてもコントロールとか出来なさそうですけどね、、、、って!?あぁ、見付かってしまいました!エイッ!」


「「エイッ!!」」


ゴチャゴチャと、随分と下にいる少女三人が談笑を交えながら石を手に取ってコチラへと投げ付ける。


一人は飛距離もなく、デタラメな方向に投げたが、残りの二人は正確にこちらへ向かって全速力の投石が放たれる。


男は一撃を避け、残る一つは素手で受け止める。


ミシッと骨身に入る攻撃。確かにこの投擲なら頭皮を捲り上げる程度の破壊力はあるだろう。




この危険な少女二人に、男はピュッと弓を放つ。


目で捉えれる速度を超える矢は、黒髪の少女の喉へ向かう。


一方で少女はそれを予想してたのか、喉にまた魔力障壁を張って喰い止める。


グサリと刺さった矢。だが、その痛みを泣いて堪える少女は剣を持ってコチラへと突撃する。


(クソッ!またか!あの冒険者達でさえ、魔力障壁を発動しても骨にまで到達するのに!)


焦りに汗が一筋。


まさか自分の矢が二度も喰い止める謎の少女に、男は矢を弓に番えようとする。


だが、「させるか」と少女はコケるような姿勢で石を拾って投げる。


パンッと弾かれた矢。そしてドンドン近付いて来る少女。


しかし、距離はまだある。なら逃げるが良策か。


一瞬の逡巡。その思考の果に男は今ここで決着をつけると、男は短剣で戦う事を決意する。




弓以外にも短剣に腕の覚えがある男は、少女に向けて短剣を突き出す。


目指したのは心臓。だが、実際に刺さったのは少女の盾代わりの左腕。


そして、剣の方を持っている右手に男は鈍器で打たれた激痛と、脳の振動を覚える。


その脳目掛けて、少女は追い討ちで頭突きを二発敢行。


「お前の矢が少なくて助かったよ。この無謀な突撃、皆んなが絶対にしないと思うから、それこそに理由があるからな。だって、何人か担いで逃げれる位体力は残ってたし」


左腕の激痛に悶える少女は、必死に言葉を振り絞って彼等の命を賭した功績を自慢する。


「お前にとってはここが最後の戦いじゃないからな。例えこの襲撃を乗り越えても、次に渡る第2第3の街の冒険者がお前の敵になるからな。もっとも、第2第3じゃなくとも、今から来る私達の別の部隊とかな?」


歯を見せる程の笑いを少女は作り、腕にあった短剣を抜き取ってからの本番を始める。


「さぁ、私から逃げれるかな?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る