第14話 ザッコさんのお仕事

「いやぁ~、すみません。お腹が減ってまして。本当にお恥ずかしい事です」


「ん。まぁ、どうせ観光ですよ。気にせずゆっくり回りましょ」


「ねぇ~空ちゃん。私のお小遣い増やしてくれるかなぁ~?セレナちゃんが食べている横で、私よだれを垂らす事しか出来なかったしさ~。良いよね?」


「先輩。お小遣い増やすのは構いませんが、それに見合う管理能力と、収入源を手に入れてからですよ」


まさかまさかの二度目の食事を終えると、私達は雑談を交わしながら目的地へと散歩をしてた。


散歩途中に先輩が4度程小遣いアップの交渉をしたが、それを私は一つ残らずバッサリと却下した。




「え~と、確かこの角を曲がればもう目的地ですね。とはいえ、今回のは少々地味ですかね?さっきのと比べると」


ザッコさんから事前に聞いた情報では、正直私でも驚くか微妙な具合だが、それでもワクワクしながら角を曲がる。


すると、一際目立って綺麗な物が視界に映り込む。


「これは、、、、噴水、ですね。結構綺麗」


キラキラと昼の陽光を澄んだ水が反射し、その周りには小さなベンチと水汲み場があり、そこそこ良い感じの雰囲気だ。


しかし、そこそこ良い感じなだけであり、案の定周り二人は不満げな視線を私に向ける。




「ん~空ちゃん。ここに来たは良いものの、お散歩ルートの一つに組み込んでみるか程度で、あんまりおもしろくないよ~」


「いや、先輩。私に言われても、、、、」


頬を膨らまえると、一瞬。ニヤリと口元を上げ、先輩は口を開こうとする。


(あぁ、これダメなヤツだ)


確実に先輩にイジられる。そう判断した矢先に、先輩の足元にボールがぶつかる。




「んにゃ?なーにコレ?」


自分の足にぶつかったボールを拾い上げ、マジマジと見詰める。


そして、ボールを見詰める先輩を、マジマジと見詰める持ち主らしき子供が直ぐ近くに一人。


「先輩。そのボール多分その子のですよ。早く返して下さい」


「分かったよ~空ちゃん。そこの君、コレ君のだよね?」


ボールを差し出し、持ち主に返そうとするが、、、、


子供は気不味い感じに先輩からジリジリと距離を置く。


「ん?どうしたの?コレは君のじゃないの?そ・れ・と・も、お姉ちゃんへのプレゼント~?」


「いや、そんな事は、絶対ない、です」


「え!?そうなの?欲しかったなぁ~。で、君の?」


「えっ、と、えぇ。その、、、、」




優しく詰め寄る先輩に、子供は無意味にハッキリとしない返事を返し、先輩を困惑させる。


いっぺん子供にちゃんと返事させようかと思ったが、子供の泳いだ視線の先に、先輩の翼があった。


「あぁ、そういう事か。せんぱーい!その子、先輩の翼に怖がってます!」


「翼?あぁ、そういう事ね」


私の助言に先輩は子供の気持ちを理解すると、顎に手を添えて「ウ~ン」と悩むと、手を叩いてボールを宙に投げる。


ボールを投げ出された事で青ざめる子供を横に、先輩はボールを一度頭で弾くともう一度頭で弾いた後に、膝を使ってポンポンポンとボールを蹴る。そして、次に足でポンポン蹴る。


なんて事はない。ただのリフティングだが、先輩はボールを蹴り上げ、肩で弾いたり背中で弾き、終いにはボールを完全死角の真後ろから踵で蹴ったりと、凄い芸を披露する。あと、翼で弾いたりもしてる。


先輩のこの一発芸に、恐怖心よりも好奇心が上回った子供は、先輩を羨望の眼差しで見詰める。




「ホイパス!」


丁度頃合いと判断したのか、先輩はボールを少年に返し、「君のだよね?」と確認する。


「うん。そう、、、、です。ありがとう、お姉ちゃん」


「えへへ、良い子だね~。お姉ちゃんは良い子は大好きだよ~。次からは人に当たらない様にやってね」


人ではなく天使に当たったのだが、それは閉口するとして。先輩は天使な笑顔を浮かべて、子供の頭をポンポンと撫でる。


撫でられた少年は耳まで真っ赤に染めるが、「あっ」と声を上げてまた気不味い表情を浮かべる。


「あっ、あの、、、、僕お金持っていないけど、お姉ちゃん達大丈夫なの?」


「ん?どういう事?」


「え!?お姉ちゃん達は『大道芸人』さん達じゃないの?」




心底以外そうな顔を浮かべ、小首を傾げると「ホラ、ああいう人達と一緒なんじゃないの?」と指を差す。


その指の向こうには噴水で隠れて見えなかったが、少々大きな道が敷設され、その上で露店が賑わってた。


無論。重要なのはそれではなく、露店の隣に立つ変わった格好をした人物達だ。


彼等彼女等は球体の上に乗ってお手玉を回したり、あの笛を吹いて蛇を操る様な事もしたり、もう多分本当に種も仕掛けもなく剣を浮かせてたりしてた。


「あぁ、なるほど。先輩はああいう人達と間違われたんですよ。さっきのボールの扱いとかで」


「あぁ、そういう事ね。大丈夫だよ君。お姉ちゃん達は別に大道芸人さんじゃないから、君はお金を払わなくても」


「ん?本当?」


「うん。うん。本当っ、、、、いやぁ~。あるならくれると、お姉ちゃんは嬉しいよ。お姉ちゃんはこの隣の怖い怖いお姉ちゃんに殆どお小遣いを貰ってなくてね~」


「先輩。この子お金持っていないって言ってましたから、先輩にはどうやってもビタ一文手に入りませんよ。あとそこの僕。私に鬼畜を見る様な視線を向けるな」




別に悪い事をした訳でもない私は、取り敢えず二人の手を引き、この大通りを歩く。


子供から離れ息を整えると、くるりくるりと改めて見渡す。


どうやらここは街の中でも人が集まる所らしく、さっきの様な遊んでいる子供に、買い物をする主婦の皆様で賑わっていた。


それと、この道は商店街っぽくはあるが、商人の格好や品物を見る限り生活向けや、観光的な側面がさっき行ったのと比べて強い。そりゃあ、変な物が隣にある状況で買い物も商売もしたくないね。


すると、私が先程見たのとは比べ物にはならない芸が連発していた。


お尻から火と水を同時に吹き出す人に、胸板でノコギリの刃を壊す人に、変な水に鉄の棒を突っ込んで何かが出来る事に喜んでいる人。


魑魅魍魎かな?と思う芸があちらこちらと。


そういえば、魔法があるんだこの世界。なら、大道芸も理屈を無視して出来るから日本とは別の意味で比じゃないわ。




物理法則が泣いて喚き散らしそうなこの光景。だが、私は不安でチラリとセレナさんの表情を伺う。


大道芸なんて、普通に考えればファンタジー世界でそう珍しい物ではないだう。これで楽しめて貰えているのかどうかが心配だ。


だが、その心配は杞憂な様で、結構目を動かして楽しめている。というか、お尻のアレで爆笑している。


「あはっは、見て下さいソラさん。アレ!鼻の穴から虹色の煙を出していますよ!」


「ウワ!?マジだ!虹色の煙だなんて、物理法則どうイジったら出来るんだ?」


「わっはは!見てみて空ちゃん!あの人おもしろいオナラの音がするよ!」


「へぇ~。魔法って、こんな事も出来るんですね。そもそも、自由自在にオナラが出せる時点で凄いですけど、、、、というか汚い」




現実世界じゃ一生拝めそうにない光景を眺めると、腕が引っ張られる。


「どうしました先輩?じゃなくて、セレナさん。もしかして、またご飯ですか?」


「いや~。お恥ずかしながら。いや、でも今回はレストランによりませんよ!ホラ、アレを一つ買ってみませんか?皆んなで」


そう言って指したのは、露店にあるジュース屋だった。


箱に入ったフルーツを、搾り機に入れてその場で飲むというサービスだ。


「あぁ、良いですね。喉も結構渇きましたし、飲んでみましょう。おじさん、これお幾らよ?」


財布に手を伸ばし、中から大体の予想される金額を私が先んじて取ろうとした時ーー




「貰い!!」


人混みの中から何かを待っていたかの様に飛び出し、私の財布を大きなローブを着た男が盗む。


所謂スリだ。まさか会ってしまうとは実に運がない。


咄嗟の判断でスリのローブを掴んだが、男はローブを脱ぎ捨てて逃げる。


捕まえる事に失敗した私は、そのまま追い駆けようと地面を打つが、相手は魔法の類を使っているのか私の倍の速度はあった。




先輩が食事で有り金を溶かした上で、私も有り金をスられてしまうと今後の生活に影響が出るが、もうあの財布を諦めるのかと思ってしまう距離まで離された時。


「おいおい。最近の盗人は、盗んじゃいけない物の区別も出来ねぇのかい?」


ふと、横で聞いた事のある声が響き、次の瞬間。あの泥棒を追い越す速度で、私の横から誰かが白い煙と共に飛び出した。


私の二倍早い足を、シュンシュンと距離を詰め、男の腕を掴むと地面へ勢い良く叩き付ける。


「もしも、、、、テメェのママに教わらなかったら、俺が教えてやるよ。かわいい女の子を泣かせる様な事をする奴は、糞を喰って生きる糞虫以下だってな」


気取ったセリフに、左腕のない体。そして、風にたなびく白い煙。


そう、「よう、ソラちゃん。べフェルトちゃん。それと、そこの僧侶ちゃん奇遇だね。俺さ、ザッコさ」


ヘラヘラと笑ってザッコさんは、私達に挨拶をする。




基本ソロでしか動かないザッコさん。


そんなザッコさんを護衛として雇った私達は、当然高くとももう一度雇うつもりでいたが、それはどうしても出来なかった。


何故なら、ザッコさんは仕事があると言っていつも私達の依頼を断っていた。


その仕事こそは、今現在進行系でやっている街の警備。


つまり、、、、




「ザッコさん。ありがとうございます」


「おう、当然さ」


ザッコさんは、思っている程実は暇じゃなかったのだ。

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