第15話 デート

「じゃあ、さて。俺は見回りを続けるとするか。という訳で、お嬢ちゃん達はデートを楽しみな」


「いや、ザッコさん。デートって意味理解してますか?私達女の子同士ですよ?というか、これが観光の案内だって、ザッコさん知ってますよね」


「いや~俺ももう歳でね。記憶が既に曖昧なのよ」


「ザッコさん、、、、歳と言っても、ザッコさんは多く見積もっても50ですし、ボケるのにしては早過ぎますよ」


「いや、俺はもう駄目だな。おじさんはもうおバカちゃんなんだよ。誰がなんと言おうとな」




半笑いでスリを片手で器用に縛り上げると、ザッコさんは多分牢か何かにブチ込もうと向かうが。


「あっ、ザッコさん!こちらでスリが現れたと噂されたので来ましたが、既に縛っていましたか」


肩で息をし、やって来たのは冒険者のザッコさんとは違う正規の衛兵らしき男だ。


「おう、今回は随分と早いな。まぁ、俺程早くないと、スリを逃しちまうぜ」


「はい!これからより一層精進致します!」


「そうかそうか。じゃ、俺はコイツを預けに行くぞ」


先のない左腕をちょいっと上げて、犯罪者を預けに行くザッコさんに、男は心底以外そうに声を上げる。




「え!?今日はザッコさん非番じゃないんですか?」


「いや、俺は基本毎日警備するし、今日も警備中だぜ」


「でも、そこの“三人と”デートしているんじゃないですか?ザッコさんは」


指を差し、サラッと三股掛けている発言をするが、そんな事実よりも勘違いされた事に、私達は訂正の言葉を三者三様に挙げる。


「いや、デートとかじゃありません!私は財布を盗まれた被害者なだけです!」


「そうだよ~。私はおじさんとじゃなくて、空ちゃんとデートしているんだよ~」


「あっしは宗教上の理由がアレがコレでソレなんで、、、、」


一人ジョーカーがいたが、そのジョーカーのセリフは信用に足り得ないと判断したのか、男は「そうでしたかすみません」と謝罪する。




「まっ、そういうこった。俺がモテモテと思ってくれるのはありがたいが、キャーキャー言われれば、俺は満足だからコレで」


三度犯罪者を預けに行こうとするが、今度はザッコさんが自分の足を止める。


「そうだな。じゃあ、“今からデートという事にするわ”。という訳で、このスリよろな」


この場に居る4人全員が理解出来ない言葉を吐くと、ザッコさんは男に犯罪者を押し付けてこう言った。


「さて、デートの時間だ嬢ちゃん達」







「うん。まぁ、私は常々思ってましたよ。先輩は超かわいいって」


「俺もそう思うぜ。あの子は1000年に一度の美少女だって」


「千年に一度かどうかは知りませんが、あっしもセレナさんはかわいいと思いますよ」


「アレで頭が良かったら良いんですけどね」


デートの時間だと言われ、一体何をされるかと思ったら裏路地に拐われたり、馬車に拐われたりとかは一切せず、ザッコさんは私達を綺麗な教会までエスコートした。


それと、今居る教会は異世界でも立派な方らしく、私が驚くのは当然にしてセレナさんもおぉと声を上げた。無論それを案内したザッコさんは立派なドヤ顔を浮かべてた。




ただ、実は私達はこの教会の外観をちょっと眺めて次に行こうとしてたのが、、、、それで終わらなかった。


何故かって?


それこそ私が聞きたいのだが、要するにこういう事だ。


「にゃっははっは~~。私を崇めよ讃えよ~みたいな?」


「おぉ!なんと神々しい!これは正しく神の使者に違いない!」


「いや、彼女は女神だろう!間違いない!私の目は節穴じゃない!」


「違う、彼女は女神ではなく天使だ!」


教会の中央で笑いながら変な踊りをする先輩を取り囲むように僧侶が居て、その僧侶達が先輩を兎に角褒めちぎり、それを私達が見ているという、、、、


ごめん、やっぱり分からない。


まぁ、それよりも大事なのは、別の方だけど。




「ねぇ、セレナさん。宗教って、、、、もう少し性に厳格じゃないんですか?」


苦笑しながら私は現実世界での宗教のイメージと、こことでの違いを口にする。


「さぁ?そういう文は、うちの文言にはありませんでしたね。ただ、あっしが教会に初めて行った時、皆んなにナデナデされましたね?あっしって、自分で言うのもアレですがそこそこかわいいですし」


「じゃあ、ザッコさん」


「俺も知らねぇな。俺は神に祈るだけで、別に聖書とかは読まん。というか読めん」


ザッコさんが頭を掻き、分からねぇとでも言いたげな白けた視線を彼等に送るが、意図せずしてザッコさんは答えらしき答えを言ってた。


「あー。もしかしたらあの人達読めてないかもしれませんね、聖書。目が節穴ですし」


まさかね。確かに目は節穴だけれども、聖書の内容を理解出来てない訳はないでしょうと、そう思った私に二人は「うまい、玉座一席」と2つの意味で重たい座布団を投げる。




「そういえば、ザッコさん。なんで私達とデー、、、、観光の案内だなんて引き受けたんですか?見た限り仕事でしたし、簡単に抜けて良いんですか?」


確かに、地元出身のザッコさんに案内されるのが本来は一番だが、それをしない為に私達はわざわざ前日に聞いたのだ。それを丸々無為にする理由が私には想像がつかない。


あと、観光の案内で仕事を開けるのは良くて、私達二人に雇われるのは開ける理由にならないのも分からない。


「まぁ、おじさんも毎日警備すると暇になる日があるんだよ。そういう日は、かわいい女の子をナンパして話したりしたいのさ。だから、目の前にこんなにかわいい子がいて暇なら、誘わん理由はないのよ」


「うぅ、かわいいって言われるのは嬉しいですけど、デートって言い方とか、ザッコさんはそういうの気を付けた方が良いですよ。事実、ザッコさんは、その、意外とカッコいいですから、勘違い女に刺されるかもしれませんよいつか」


「はっはっは!ご忠告ありがとうソラちゃん。でも、おじさんは女の子と会話とか出来れば良いから、恋をさせる様な事はしないさ!」


豪快に笑い、私の肩を叩くとザッコさんは小声で、一つ。




「ソラちゃん。くれぐれも、“絶対”に俺に惚れるなよ」




フリなのか、そう聞きたくなる発言だが、ザッコさんのこの一言は、全くふざけている様な声に聞こえない。


何を言おうか、それを考えるとザッコさんは私から離れ、教会の長テーブルと一緒にある椅子に座り、手を組んで目を瞑って数秒程祈ると人の波を割って先輩を引っ張り、、、、お姫様抱っこして快活に答える。


「さて、ちょっと遠出するぜ。少し歩くが、夜は俺が奢ってやるよ」


ジュルリと鳴った後ろの音と、嘆く多分僧侶の音を背に、私も生唾を飲み込んで食事を楽しみにする。







少し歩くぞと言われ歩く事数十分。ザッコさんは私達を街の外に連れ出し、更にもう数十分歩いて森の中へと足を進めた。


陽はかなり傾き、空も朱色に染まりつつある中。風が優しく頬を撫でる森林で、私は確信に近き疑問をザッコさんに投げ掛ける。


「ねぇ、ザッコさん」


「おう、なんだ?」


「今、この街。冒険者の大半は街に出ていますね?それも“長期間”で」


常々思ってた疑問。どうして私達はセレナさん以外の僧侶を見かけなかったのか。


理由としては、僧侶の数がこの世界では実は少ないんじゃないかと思ったが、それはない。


何故なら、教会で先輩を取り囲む程度に居たからだ。


だが、そうなると、何故それ程の数があってどうして見かけないのか。


理由は分からない。だが、本来居たのが、今は居なくなっている筈。そう私は思ってザッコさんに聞く。




「あーー。もしかして、二人共知らないのか?アレが起きている事が」


頬を掻き、ザッコさんが言い辛そうなに表情をしかめると、二本タバコを取り出して火を付けると答えを語り始める。


「まぁ、別に知らなかったら知らなかったで良いんだ。そうかそうか、だから僧侶の子に喰い付いたのか。まぁ、結論言ってソラちゃんの言った通り今この街には冒険者の多くが出掛けてるんだわ」


「街中の冒険者が長期で外に行くとか、中々の出来事ですよね?」


「あぁ、一生に一度どころか、数世紀に一度の出来事が起きてな。所謂ゴールドラッシュってヤツだ。この国に掘っても掘り切れない程の金鉱が見付かってな、一攫千金目指そうと冒険者が出て行った訳さ」


ゴールドラッシュ。それは私の世界でも聞いた事ある話しだ。


歴史の教科書に載っている訳じゃないから詳しくは知らないけど、確かアメリカのカリフォルニア州で大量の金が見付かって、それを採掘しに沢山の人が来る事を指してた筈だ。




「なるほど。そういう事ですか、そりゃあ収入が微妙い冒険者なんかよりも、一攫千金狙えるかもしれない仕事があるならそっちをしますもんね。しかも、冒険だなんてする位だから体力が有り余っているでしょうし」


もっと早く転移してたら私も採掘に行こうかなぁ~と後悔しながら、私はここに残ってた冒険者がザッコさん程の年齢の冒険者しか居なかったのを思い出す。


「まぁ、そういうこった。だがな、アイツ等は得しねぇよ。見たろ?あの冒険者御用達の商店街。若手冒険者が居ないにしちゃ、随分と品が満ちてると思わねぇか?」


「そういえば、銃とかもありましたね。確かに、冒険者が居なくて需要が低下している割には、結構賑やかでしたね」


「だろ?冒険者を中心に売るのに、その肝心の冒険者が居なくても景気が良いって、、、、変だよなぁ?」


ゲスい笑みを浮かべ、ザッコさんは若手が利用されている事を指摘して馬鹿だねぇと笑う。




「ふーん。だからザッコさんはここに残っているんですか?商人にいいように利用されている事を知っているから」


あと少しで私もいいように利用される所だったが、その利用される事に気付かさせたザッコさんに私は軽い気持ちで聞くが。


「いんや。俺は、この街が好きなんだ。だから、残ったんだ」


哀愁を漂わせ、口から煙を吐き出すと一粒。


涙を流した。


目頭を赤くし、本当に一滴だけツーと。




「ザ、ザッコさん。大丈夫ですか?あの、泣いていますよ?」


「あぁ、大丈夫さ。問題ない。ちょっと、昔を思い出してな。でもホラ、着いたぜ」


裏返った声を抑え、ザッコさんは指を差す。


指の先には、物質が突き刺さってた。


なんというか、紫色の鉱石の様なガラスの様な物質で、物資の表面は鏡の様に光を反射して綺麗だった。




「綺麗、ですね」


「わー、綺麗だね空ちゃん」


「本当に綺麗ですねコレ」


だろ。私達の反応を見て、コレを見せて正解と思ったザッコさんは照れ隠しじみた笑顔を浮かべると、この物資の表面に指を滑らせる。


「コイツぁな。古代文明の何かでな。色々調べた結果、害がなければ良い事もないから回収も破壊もせずに放置したんだよ。でも、そんなコレでも一つ不思議な事があってな。指を滑らせると、滑らせた場所が光るんだ」


言葉の通り、ザッコさんが滑らせた所は薄く光が浮かび、それが指を離した後にも残る。


「でな、この文字は普通消えないんだわ。でも、水をやると消えるんだ」


そう言い、汚いけどなと前置いてザッコさんは自分の指を舐めて、ビッと光る所に唾液を引く。


すると、さっきまでキラキラ光ってた光が見事に消えた。




「凄いですね、コレが古代文明ですか」


原理は不明だし、コレが作られた意図も不明だが、それでも分かる凄さに私は驚愕する。


「はは。スゲェだろ?古代文明は。でもなぁ、凄過ぎるせいで、世の中コレでどうにかしたくなるバカが現れちまうんだ」


そう言うザッコさんは声が掠れ、喋り声に嗚咽が混じり始める。


「スゲェから、あるバカは合るかも分からないし、合っても使うべきか分からない物が欲しくて、ずっと泣いて生きてんだ。でも、分かっているんだよ、そのバカだって。合っても使うべきじゃないし、あるならもうとっくに知ってるって。でも、バカだからさ、実際に自分の前にねぇと分からねぇんだ。バカだから、、、、」


誰を指しているかは、一目瞭然な言葉。


それを私はあえて質問せず、聞いてた。きっと、苦しかったんだから。




「悪りぃな。変な話し聞かせちまって。さて、そろそろ帰ろうぜ。帰ったら丁度晩飯時だから街の露店でうまいモンたらふく食わせてやるよ。それに、明日は皆んな“働いて”貰うからな」


またも流れた涙を拭くと、ザッコさんは私達の肩を押して足早に街に戻った。

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