第11話 洞窟探索
剣で木を切り、地面に打てそうな杭を10本程集め終えると、私は同じく準備しているだろうセレナさんの元に向かう。ちなみに、先輩には特に何もやれる様な事がないから、私と一緒に杭を集めた。
「杭は一応10本程集めましたが、もっと取った方が良いでしょうか?」
「いえいえ、どうせあの報酬金から考えて大した事ない洞窟でしょう。ここの地理は知りませんが、深い洞窟ならもっと報酬金が高いの当然ですから」
「ん?洞窟が深いのかを知らないのって。もしかして、セレナさんは地元の人ではないんですか?そういえば、今日の今日まで一度もギルドで見かけませんでしたし、、、、」
ん、と来た疑惑。その疑惑を、地面に杭を剣の持ち手のお尻で叩きながら聞く。
というか、私はそもそも我ファンタジー世界の住人的なのを、セレナさんが来るまで一切見かけなかった。
僧侶なんて、神が信じられた中世ヨーロッパ的なファンタジー世界では珍しい物ではない筈だ。そもそも、魔法が存在しているからきっともっと神が信じられるし、回復魔法の価値として僧侶が少ない理由なんてあるとは思えない。
気にはなっていたが、放置した疑惑を丁度良い機会として私は改めて問いた。
「えぇ、あっしは地元の人ではないです。少々用事がありましてね、世界中を回っているんですよ」
「へぇー。世界中を回っているんですか。この街は大体何番面に来たんですか?」
「えーと、確か7番目でしたっけ?村も入れればもっと多くの場所に行きましたが、実際色んな所に向かっても最初に出発した地点からあまり離れていませんね」
セレナさんはそう言うと布を破り、そこに油を浸して近くで拾っただろう木の棒に巻き付けて、ザッコさんが持っていた灰皿っぽい物にあった魔法陣そっくりの陣が書かれてる小さい鉄の棒を押し付け、火を灯す。
ボウっと多分動物性の油が燃える音と共に、ゆらゆらと燃える松明が完成した。
私はその松明制作の横で、セレナさんから縄を受け取って先程の杭に縛り付ける。
「まー、あっしもこの街に長く滞在する予定がありませんので、チャチャっと終われせてあっしに観光の名地とかでも教えて下さいよ。そっ、それと、出来ればおいしいご飯も一緒に」
ギザギザの歯がキランと輝きそうな良い笑顔で、街にほとんど住んでいない私に案内を頼む。
その笑顔を受け、私は「あぁ」や「そうだね」と受けているようで、受けていない様な答えを返すが、セレナさんは頬を膨らませて私の中途半端な答えに無言の圧を掛ける。
正直NOと言っても良いが、いっそ私も街を楽しむついでに案内すりゃ良いと諦め、空間から私にとってはまだ重い防具を取り出しながら、武器を仕舞って了承する。
「、、、、うん。クエストが終わりましたら私の知っている所は、案内しますよ」
◆
薄暗い闇の中。私達は私を最前列として、次に先輩。最後尾にセレナを配置して、狭い洞窟を帰る道標となれる杭に打った縄を手に持ちながら探索をする。
洞窟内の環境は非常に寒い上で地面は泥だらけであり、おまけに松明を全員持って三つあっても、洞窟内はあまり明るく感じなかった。
「ウヘェ、視界も足場も劣悪ですね。私達靴を買ってなければ、足ズタズタでしたね。というか、何故かザッコさんとクエスト行っても足は大丈夫でしたけど」
「うん。そうだけど、それを今度は回避しようと買った靴がね。お金がないからって、この布みたいな服にロングシューズはないんじゃないかなぁ?すっごいちぐはぐだよぉ〜。ねぇ、空ちゃん」
「いやぁ、確かにちぐはぐですが、先輩はそのちぐはぐさに負けない美人さんなので、その靴でもめっちゃ似合いますよ。私なんて、胸当てや鎖帷子着た上でファンタジー世界で剣士とかが使う靴を履いてるんですよ。この靴ってエンジニアブーツって言うんですね、防具屋のおちゃんから聞いて初めて知りましたよ」
「ぬっふふふふ。もう、空ちゃんは良い子だなぁ!私がそんなに美人さん?えへへ、褒め過ぎだよ、、、、プギャ!?」
褒められたのが余程嬉しかったのか、先輩は一人その場で未だ褒め続けているだろう私の“妄想”に対してハグをしようとして、、、、スッ転んだ。
「せんぱーい。何やっているんですか?セレナさんドン引きですよ」
「イテテテ、転んじゃった。テヘペロ、、、、ってうわぁ!?服が汚れてるよぉ〜!」
「転んだら当然そうなりますよ。下は泥が薄っすらあるんですから。ホラ、立てますか?」
汚れていると訴える先輩に手を伸ばし、腕を引っ張って引き上げる。
引き上げた後に、先輩を見ると服どころか顔まで泥だらけで、選択で落ちるかどうか疑問な汚れっぷりだ。
「えへへ、ありがと空ちゃん。やっぱり空ちゃんは最高の後輩だよ〜」
そう言い、先輩は顔の泥を腕で拭き取り、キラキラとした視線を私に送ってハグしようとする。が、私も汚れるのは嫌なので、手を出してお断りする。
「んまぁ、先輩は最低の先輩ですけどね。色んな意味で」
「ん?なんか言った?」
「いえ、何も。それよりも先輩。あの箱の感じ覚えていますか?」
ボソッと吐いた本音をそらそうと、私は先輩に答えがどうだって良い質問をする。
普通に考えてその箱以外の箱が落ちている可能性がなければ、箱一つ見付けたらそれがもう答えだ。
「ん〜箱ねぇ。汚い絵で描かれてたから、良く分からないけど、四角くて上が膨らんでいる感じだったね」
「ふ〜ん。そうでしたか。そうそう、セレナさん。洞窟では大体どんなモンスターがいますか?出来れば、この防具で防げれる程度でしたら楽ですけれど、、、、」
「アレ?反応が薄いよぉ〜空ちゃん〜」
「まぁ、まだ規模は分かりませんが、あっしの予想では一番凄くてゴブリン。もしくは無人の洞窟だと思います。あぁ、でもネズミ辺りは出て来ると思いやす」
「ねぇ〜。聞こえる空ちゃ〜ん」
「基本的にネズミで、一番強くてゴブリンですか、、、、なら、この防具でもいけますね」
「そういえば、ソラさんは天使族なのに『クラス』は戦士か剣士なんですか?あっ、すみません。魔法使えないんでしたよね、ソラさんは」
失言だと思ったのか、セレナさんは直ぐに頭を下げて、私に謝罪をする。
だが、魔法が使えない事は本当だし、私は望んでやったのだから別に良いですよと返す。
「私は今の所魔法が使えないから、出来る事をやろうと先輩と決めたんです。だから、セレナさんが謝る理由だなんてないですよ。それよりも、防具屋のおじさんからコレは初心者にオススメって言われて買ったんですが、、、、実際効率良いですか?」
詐欺にあってないかな?と、買った時から少々気になってた事を、私は一旦立ち止まって防具をセレナさんに見せながら聞く。
今着ている服の上に鎖帷子を着て、その上に胸当て。靴はエンジニアブーツと言われる種類で、手には軍手の様な手袋もある。
ロマンを全捨てして、本当に冒険に必要そうなのを集めただけだが、私がそうだと断言に足る知識は一切ない。ので、セレナさんから聞いて実用性があまりなければ擁護のない詐欺であろう。
「で、どうよ?あのおっちゃん殴れると思う?」
「ソラさん。あっしに見させた目的が変わっていますよ、、、、まぁ、結果から言えば殴れませんね」
目を細めて私の希望を断つと、セレナさんは防具の評価を下す。
「本当に、ちょっとお金持った初心者向けですね。胸当てや鎖帷子は機動力を保ちながら、防御力をある程度保証しますしね。特に鎖帷子は本当に雑魚相手は強いんすよ」
「え?本当?鎖帷子って、刀でバチバチに斬られて殺されるイメージしかないんだけど」
「えぇ、有効ですよ雑魚相手は。前提として、刃物は肉に当たらなければどうって事がないんですよ。でも、鎖帷子のせいで阻まれるんですよ、肉までの距離が。まぁ、そんなの鎧も同じですが、鎖帷子の場合鎧程の防御力がないお陰でソラさんの様な評価を貰いやすいんですよね〜。特に安いのは」
更に不幸なのは、雑魚相手でも突き系の攻撃を喰らえば、鎖帷子は存外直ぐ切れると不安が残るが、鎖帷子の評価を一変させる評価点を知った。
「基本的には本当に初心者に十分ですが、、、、やはり兜がないのが不安点ですね。やっぱり、頭と言うのはあっし等人間どころか、ほぼ全亜人の弱点ですし。まぁ、本当にお金を持った初心者向けです」
最後にそう締め括ると、私達は前を向いて再び歩き始める。
「そうですか。じゃあ、今度お金貯まったら兜買いましょう先輩」
「そうだね。でも、私の世界では頭なんか着けなくても、全部ステータス化されていたから、防具さえ良いの揃えばオシャレで強く出来たよ」
「先輩。その世界、世界としてどうかしていませんか?頭と体の防御力が同じって、ありえないですよ」
「そうだね。今考えると、すっごくゲームみたいな世界だったなぁ。空ちゃんもそう思うでしょ?」
「え!?今考えなくても、普通にゲームっぽいですよ」
どうも変な先輩の世界に、困惑しながら話しを返してたが、チラリと後ろを見るとセレナさんは話しの意味を理解出来ず、目をおどおどさせてる。
「あー。そうですね、セレナさんは最近良い事ありましたか?私は逆に不幸しか起きてませんね」
例えば、天界で働いてたら異世界に飛ばされる的なの。
「あっしですか?最近起きた良い事ですと、、、、お二人に、朝食をご馳走頂いた事でしょうか?」
「確かに最近だね。でも、そんなに嬉しかったの?確かにあのギルドの料理はおいしいけどね」
気の効いたお世辞だな〜と、笑って返すが、セレナさんは全く笑わずに一言呟く。
「実は、、、、あっし昔から金運がなくて、ギルドでも良くタダ働きになったりしたんですよ。で、あっしこの街に来る前に財布を“紛失”してしまって、もう、数日間旅の保存食のみしか食べてなかったんです」
あぁ、うん。
「正直あっし、お腹が減って力が出なくて、、、、「大丈夫!大丈夫!こういう力が出ない時程、元気100倍で行こう。ホラ、先輩だって泥で汚れてて力が出ない筈なのに、元気100倍なんですから!」
顔が汚れた時程元気を出そう。どこぞのパンの妖怪と真逆な元気を要求するが、先輩は私の足を引っ張る。
「空ちゃ〜ん。私別に元気100倍になんてなってないよ〜」
「チッ。間違えました。正しくは、、、、元気“1000”倍でした」
私の苦しい言い訳に、セレナさんは顔色が優れない表情で私を見詰めて、「善処いたします」と答えた。
無理矢理やる気を出させて一安心。
強引な手をなかった事にして息をつくが、眼前の暗闇の先にペチペチと音がした。
一体なんなんだとは思ったが、何なのかは重要ではない。
重要なのは、この小さい洞窟に私達は“以外”の何かがいる事だ。そして、その何かは着実に音源を私達に近付ける。
狭い通路。三人が縦に並ばないと進めない場所で、回避は不可能。
ならば、相手が何であろうと答えは一つ。
空間に手を入れ、私はショートソードを引こうとするが、何かは私に動作に呼応する様にして音源をより早いテンポで刻み、私へと近付く。
次の瞬間ーー
松明を私は空間に仕舞うと同時に剣を引き出し、先輩達が持つ松明の若干の灯りを頼りに、パンと飛び掛かって来た何かを刺す。
もしも人間なら気の毒だが、幸いセレナさんがいる。怪我を負わせたらキッチリ治療しよう。
皆んな守ろうと剣を突き出した私へスゥーと、肉の繊維を断ち切る感覚が刃先から伝わり、次にゴリっとした感覚も指先へ振動する。
間違いなく何かを刺した実感と共に、酷く臭い匂いが鼻をつく中。私は自分が刺した物を確認する。
短くボウボウと伸びた毛に、大きな出っ歯。
それは、私が初めて見たこの世界のモンスターであるあのネズミの別種であり、同じく猫程の大きさをしてた。
違う所は毛色が黒なのと、、、、“私が”殺した事だ。
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