第10話 物拾い
若干変わった口調で答えた私達が待ち望んでいた答えに、それを聞いた私と先輩は嬉しくて抱き合ってワイワイと喜ぶが、途端に周りの視線が刺さって恥ずかしくなってしまいう。
先輩を離して、私は顎に手を当て冷静に少々相手の発言の内容を反芻する。
(『クラス』?それって、一体職業と何が違うんだ?冒険者は職業で、クラスは僧侶?)
職業とクラス。一見同じ意味に聞こえる言葉だが、しかしそれは重要ではないと判断すると、私はこの子を誘ってクエストを受けようと口説き文句を考える。
この言葉の二つの意味は大きく違ってて、普通に聞かれても気付かない違いなら、その意図を理解したこの子との出会いは天使権限で運命としよう。
つまり、誘わない理由はない。
「そっ、僧侶なんだ。ヘェ~。じゃあさ、私達とクエスト行ってみない?私達初心者だから、人数が一人でも欲しいんだよね。君は、、、、良いかな?」
気丈に振る舞おうと思って口説くが、逃したくないという緊張で声が強く裏返り、失敗したと自分を叱責する。
けれども、大失敗をかました私に目の前の子は全く私の声に対して関心を示さず、品定めする様な視線を滑らせながら、一瞬の逡巡を得て私達へ言葉を投げ掛ける。
「あっしを?でも、お二人共『天使族』ですよね?なら、あっしなんかよりも、剣士とか戦士を探せば良いじゃないですか?」
「い、いやあ、実は私達二人天使の落ちこぼれも良い所でね。天使なのに回復魔法も全く使えないんだよ〜〜。ね!先輩!?」
「ん?私は使えるけど空ちゃ、、、、ムゴゴゴゴ!!」
「ははは、先輩。見栄はいけませんよ、使えるって言っても、木の皮を治す程度じゃないですか。切り傷なんて、先輩治せませんよ!」
「ふ~~ん、、、、」
全く先輩は見栄っ張りだなぁ、と苦笑を浮かべて取り繕う私に、この子はやはり品定めする様な視線を送って私達を見ている。
ふうん。そう一言この子が言葉を漏らすと、口角を上げて口を開く。
「良いですよ。お二人がもしも本当は回復魔法が使えたとしても、沢山の僧侶を連れるのはリスクヘッジとしては当然の判断です。それに、あっしも天使様と同行出来るなら、修道者としても鼻が高いですんで」
そう言うと、僧侶の子は立ち上がりクエストボードへと向かい、良さそうなクエストを見繕って持って来た。報酬金は少ないが、冒険らしい冒険が出来るのならこの際無視をしよう。
クエストはやはり絵で書かれている為、読み解くのが非常に難解だが、要するに『村の真南に箱があるから、それを拾え』だと思う。
無論。この予想が間違えてる可能性は十二分にあるが、ここ周辺の地図っぽい絵にバツ印。更には、箱と思わしき絵も描かれており、多少の誤訳あれど基本的には大きな間違えはないと思う。
とはいえ、、、、何故この簡単そうなクエストが残っているんだろうか?あぁ、朝だからかかな?
「まぁ、確かに簡単そうですね先輩。箱を見付けるだけですし、途中の移動や探索時に危険はあれど、死ぬ様な傷を負うとは思い難いですし」
「だね~。じゃあ受ける?空ちゃん」
「えぇ、受けましょう。あの人から選んでくれたので、却下するのは申し訳ありませんし」
僧侶の子に聞こえない程度でこのクエストにしよう決めると、僧侶の子にオーケーと伝えて共にかカウンターへ向かうが、、、、
「ありゃりゃ。ジギルちゃんとハイドちゃんが忙しそうですね。朝食が終わるまで時間がそこそこありそうですし、どうしますか?」
そう、現在は朝食の時間で、ギルドが経営する食堂は掻き入れ時。更には、このギルド人件費節約なのか、ジギルちゃんとハイドちゃん以外碌な従業員を見ない。コレって、歴史の教科書に載ってた児童労働の現場だよね?
「別に待っても良いですけど、もう一時間位は忙しいと思いますねあっしは。どうします?多分物拾い程度でしょうし、物を拾って帰るだけですから許可がなくても大丈夫だと思いますし?」
「あぁ、それ良いですね。どうします?先輩」
「ふふふ、この私がそんな天才的なアイディアを拒否するとでも?勿論朝ご飯食べて早く出発だよ!君も食べる?朝ご飯」
サラリと言った先輩のセリフに、この子は目の色を変えて声を上げる。
「いっ、良いんですか?食事を頂いても?」
「うん。もちのろん!皆んなで食べた方が良いよね~空ちゃん」
「頂いてもっ、良いの、、、、ですよね?」
勿論良いですよ。そう答えると、先輩のセリフを聞いてから急に鼻息が荒くなった僧侶の子に、私は馬車で食べたのと同じサンドイッチを半分切り、どうぞと渡す。
その他にも頼んだ料理を幾らか分けると、さっさと胃に運んでクエストに私達は向かった。
◆
「うーん。ちょっと、変だとは思ってたんだよ。たかが物拾いのクエストだから、受ける人はどうしていないのかなぁ?って思ったんだよ」
「え!?空ちゃんこのクエストが変だって気付いてたの!?私全然気付かなかった!」
「朝だからって理由があったので、どうせ誰も取ってないと思って口を特段挟みませんでしたが、先輩気付いてなかったんですか?」
「えへへへ、、、、全く」
しっかりしてくださいよ、と私は半眼で文句を言う。
だが。まぁ、私も先輩を責めれたものではない。
だって――「やはり疑うべきでしたね。落し物は、十中八九“洞窟”ですよね。ゲームでは大体そうですし」
半笑いで現状を嘆き、私はゲームとは何ぞやと聞いた僧侶の子に対して無視を決め込み、洞窟の探索法を考える。
とはいえ、無論洞窟の探索経験なぞない私は、必要品として松明に、、、、松明位しか思い付かない。
「あの〜。僧侶さんは、洞窟の探索経験とかってありませんか?」
「『セレナ』です。自己紹介を忘れてましたね、あっしはセレナです。そうですね、ない訳ではありませんが、あまり危険な洞窟ではない為、あまりあっしの経験はアテになりませんよ」
「私達は経験どころか、一度も行った事ありませんので、セレナさんの経験をアテにしますよ。あと、私は天次そ、、、、“ソラ・アマツグ”です。こちらはカナリエ・べフェルト先輩です。自己紹介遅れて申し訳ありません」
遅れた自己を紹介すると、コホンと咳払いを一つして先輩にも自己紹介を促す。
「へへへ、べフェルト先輩だよ~」
「いえ、こちらこそ自己紹介が遅れてすみません。えーと、“ソラ”さんと、カナリエさんですよね?よろしくお願い致します」
深々と頭を下げ、私達の名前を呼ぶが、、、、待ってくれ。私下の名前で呼ばれたくないからわざわざ上下変えたのに、その労力を一発で破ったよこの子。まぁ、悪意やセクハラとかじゃないから恥ずかしくはないし、嫌ではないけど少し恥ずかしい。
「正直。洞窟探索なら、あっしの経験では特段用意せずとも案外あっさり行けましたね。そもそも物探しなら、小さい動物が興味本位で箱を取っていなければ、人間が通れる大きさの所で見つかりますんで、重要なのは光源と迷わないようにする綱でしょう。幸いあっしはロープを持ってるので、木の杭さえあれば問題はありませんね」
どうせ見付からなかったら狭い隙間に入っただろうし、そう最後に言葉を付け加えてセレナは、背中に背負ったバッグの中を漁る。
そんな中。私は「じゃあ、私は木の杭に使えそうなのを探しに行くよ」と言い、セレナさんがバッグに手を入れるのに対して私は空間に手を入れて馬車クエストで稼いだお金で買ったショートソードを取り出す。
しかし、それが良くなかったのか、セレナさんは私に指を指して驚く。
「そっ、それ空間魔法じゃないですか!?どうして回復魔法が使えないのに、それが使えるんですか?」
「あっ、いやぁそのね、、、、なんてゆうか、特典とでも言うのか、サービスとでも言うのかねぇ?」
手を前に出し、私は問い詰めるセレナを止める。
疑問、、、、ではなく、興奮に似た声で問うセレナさんは、一度静止した私の手を無視して膝を地面に付けて大声でこう叫んだ。
「その魔法。もしも教えれるのでしたら、マジであっしに教えて下さい!この通りです!」
セレナは頭を下げて頼むどころか、所謂土下座までして私に魔法を教えてくれと要求するセレナに、私はどうしても教えれないと返す。
教えたくても、多分この世界の法則的なのを捻じ曲げて使ってそうなこの技。生粋のこの世界の人には、間違いなく使えないだろう。確かに貴重な技だが、出来ないものは出来ないとでしか言いようがない。
だが、この食いつきっぷり。貴重と言えでも、流石に異常だと私でも思う。
だって、、、、
(ザッコさんは、私が空間魔法を使えると知っても、“一切”教えて欲しいと言わなかった。もっと言うなら、酒場の誰一人として、私にこんなに本気で教えて欲しいと頼んでない――)
反応は確かに人それぞれと言えば、何も私は反論が出来ないが、それで言い包めるには、、、、ちょっと異常な反応だろう。
一度断っても何度かしつこく聞いたセレナに、私が全てダメと返事を返して木を切りに私は向かった。
踵を返す時。最後に見た彼女に瞳は、お宝を目にした様な言葉に出来ない目をしてた。
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