銭ゲバ僧侶

第9話 悩み

さて、最初に荷物輸送の仕事を引き受け、2週間が経った。


私は、馬車に揺られてドンブラコドンブラコと昨日も今日も特段危険な目にも会わず、苦労もせずに私は金銭を容易に稼ぐ。


あぁ、何て天職であろうか。汗水垂らさず、血一滴も流さない労働。


正しく楽園エデン、、、、「んな訳、ないでしょぉぉぉぉ――――――――!!!!!」




椅子を倒し、机を皿が浮く勢いで叩いて、私は絶叫する。


「いや、確かに楽して稼げるのは嬉しいですよ!えぇ、不満なんてこのボンクラには零すレベルには、“一切”ありません!でも、ここは仮にも剣と魔法の、ファンタジー世界ですよね?なのに、何でこんな一人だけズルをしなけりゃならないんですか、、、、」


それに、コレをしていたら、絶対に戦闘技術等身に付かんし、目的である『魔王』討伐も出来ない。と、続く言葉を私は黙りお酒で流し、この悲しみを吐露する。


「まぁ、確かにボンボンの天使様達には、モンスターと戦うクエストの方が有難いわな。でも、実際命はこれ一つしかねぇんだ。俺は、本当なら冒険者やらずに畑耕して、かあちゃんに親孝行すべきだろう。だからさ、そんな俺のわがまま聞いたかあちゃんの為に、俺は先には死ねねぇな。おっと、関係ない話しだったな」


「そうそう、命は一つ。確実に死なないクエストなら、受けるに越した事はないさ。竜や吸血鬼に挑むのは、専門の奴等の仕事さ。俺等は死なない程度に治安維持。と言うか、剣と魔法の世界だなんて、今更な事言うなぁ空ちゃん」


私の贅沢な悩みに、男達は私の肩を持ちながら、迷惑な顔一つせずにニコニコと応じる。




「まぁ、ここ数日。私と先輩は、馬車に乗るだけでその日おいしいお酒が飲める程度に稼いますけど、冒険者を始めた目的を達成するには、あまりにも目標に前進していませんよ!」


「アッハハ!ほうほう、天使族のお嬢さん達が冒険者になるだなんて、おかしいと思っていたが、、、、何か目的があってなったのか。で、教えてくれよ、どういう目的か」


「乙女の大事な秘密なので、お酒の席で口が軽くなっても、絶対に言いません!」


「ふーん。お~~い!ジギルちゃんとハイドちゃ〜ん!ギルドで一っ番強いお酒を頼むよ〜!一口飲んだらブっ倒れる様なヤツをさ!」


「ちょっと!お酒を追加して口を割らせようとしないで下さい!そんな事をしても、私は絶対に言いませんし飲みもしませんから!」




慌てて注文をキャンセルし、私の秘密と余命を守ると、馬車に揺られて2日後位に先輩と話した魔王抹殺プランを思い出す。


結論としては、満場一致でとっとと強くなって魔王城にカチコミする事だ。


天界で見せられたが、魔王は産まれて間もないどころか、つい数日前に産まれたばかりだ。なら、成長して魔王が脅威的な力を得る前に、殺す。


だが、現状では魔王殺しどころか、スライム殺しに苦戦を強いられる状況だ。そもそも、スライムって実際に戦ったら強いんじゃ?


更に言うなら残念な事に、物資運送は町の為にもなる故。余程の腕をつけない限りこの仕事をやめさせないと、ジギルちゃんとハイドちゃんも言っている。ちくしょう冒険させてくれよ。




私の能力による取り巻く状況が、私に冒険を許さないこの言葉に言い表せれないこの不満を含めて、私はお酒を控えながらヤケになって料理をいただいた。







日がまた新たに昇り、朝チュンが私の耳元で囁かれる。


昨日も一日無駄にしたなという不安と共に、薄く鳴る頭痛を抑え、「嫌な夢を見た」と一言漏らして服を着替える。


残念な事に全く努力せずに買ったこの服は、異世界での文明レベルとでも言うのか生地が粗く、どうも長い時間は着たくない。


その為、服を買ったらおさらばすると思ってたこの布は、未だパジャマ代わりに働くようだ。ちなみに、先輩は女の子の勝負服は肌という主張を変えず、あの布を平時でも着続けるらしい。


先輩の主義主張はそれとして、私は布を脱ぐと以前買った服を着る。


麻か絹か、はたまた全く別の繊維で作られたかも知れないTシャツっぽい服と、ショートパンツを身に付け、一応腰周りのポーチを装備する。


ポーチに関しては空間から取り出しゃ、そもそもポーチなぞ要らないが、瞬時に出したりする時はきっと役に立ってくれるだろう。




きっちり防具以外は着替え終えると、私は下に聞こえない様に注意して日課にした“筋トレ”を敢行する。


先輩とどうするか話したあの日から、私達はどうせ馬車に乗るのなら、ある程度の冒険に向けての準備をすると誓った。


一つは、私の筋トレ。どうやらこの世界も、RPGよろしくパーティーを組んでクエストに行くらしい。


パーティーの人数に決まりはないらしいが、沢山で行けば行く程一人の取り前が減るから、パーティーはやはり最小限の人数に留めるらしい。竜でも100人連れるとちょっとプラスどころか、むしろ赤字らしい。


現状私と先輩しか仲間はいない為、クエストに行くなら誰かを誘うか、自分達二人でカタをつけなくてはいけない。誘うにしても、天使と一緒に行きたい人居るかなぁ?いや、一人知っているけどね。


そうなると、真っ先に回復魔法が使えた先輩を後衛にして、余った私は前衛と決まった。


となると、現代日本と天界で快適ライフを過ごした私の体では、もしも前衛をやるとなると役不足となった。だって、鎧とか剣とか意外と重いし。




そして、その二としては、、、、「ふぁぁ。えへへ、おはよ~空ちゃん」


「おはようございます先輩」


「うん。おはよ。にしても空ちゃん殺生だよ~。私にもう3日もお酒を飲ませないだなんて~。毎日あの一杯の為に、日差しに耐えながら働いているんだよ」


「先輩お酒入ったら、少量でも悪酔いするでしょ。それでしたら魔法の“練習”。出来ませんよ。ていうか、主語を忘れてますよ。馬車に乗りながら日差しに耐えるが正解です」


「ん~~細かい事気にするね空ちゃん。でも……そうだね。じゃあ、私は練習するよ」


お酒が入っていないせいか、快眠した先輩は短刀と盆栽を手に取り、魔法の練習をする。ちなみに、盆栽と言ってもただ小さい木が植木鉢なんだけどね。


その植木鉢に生えた木を、先輩は折らない程度に切り傷を付け、傷に手を添えて魔法名を唱える。


「――『回復ホイミ』」


すると、当たった切り傷驚く早さで治る。




そう、先輩の準備は回復魔法の練習。


木に傷を付け、それを治すという驚く程にドシンプルな作業の繰り返しだ。


成果があるかどうか気になる所だが、先輩曰く自分の魔力量がなんとなく分かり始めたり、様々な発見もあって結構この方法は勉強になっているらしい。ちなみに、コレはザッコさんが教えてくれたこの世界で良くある回復魔法の練習らしい。


あと、先輩は何がなんでもホイミを通すらしい。この世界では普通にヒールらしいのに。




「あぁ、そうそう!空ちゃん嫌な夢見たって言ったけど、どんな夢見たの?」


「聞こえてたんですか先輩。まぁ、別に悪夢って程の夢ではありませんよ」


「なになに?一体どういうの?」


「私が、筋トレを続けて、、、、“バッキバキの腹筋”を、手に入れてしまった夢ですよ。もう、本当にボディービルダー並みのって言っても通じるかなぁ?」


考えてもみよう。かわいらしい女子が、もしも男子よりも強靭そうな腹筋を持っていた場合を。


「、、、、ねぇ、空ちゃん。筋トレ、やめないでよね?」


「正直言いましょう。ノーコメントで」




まぁ、出来る事は少ないながら、私と先輩は自分に可能な事を無言で朝食までに終わらせ、下へと向かった。







ギルドの宿を出て、私は夜程はやかましくないがそれでもガヤガヤと賑わうギルドで、見ない顔の人物に片っ端から私は声を掛けた。ただ、同じ一言の質問を。




――「貴方の『職業』は、何ですか?」




しかし、その質問に返るのは全て望むべきものではない。


何故なら、皆一様に「商人です」、「鍛冶屋です」、「農家です」、「冒険者です」と、私が望む『戦士』や『剣士』に『魔法使い』等の、RPG的な職業を誰一人として言わない。もしも戦士か、魔法使いがいるならクエストに誘い、冒険しようと思ってたのだが。


不思議なものだ。明らかにファンタジーな世界で、どうして誰もこういう職業を名乗らないのだろう。学校の男子だったら、、、、竜殺者って書いてドラゴンスレイヤーと読んだり、暗黒騎士と書いてダークナイトと読んでワイワイ騒いでたのに。




脅しに使えそうな彼等の黒歴史を片手に、私は一通りギルド内の人間を周り、誰もそう名乗る者が居ないと知るとメニューを頼む。


「ハァ、全くどうしたものですかね先輩。皆んな全然名乗りませんよ。剣士とかの響き、純粋にカッコいいと私でも思うんですけど。もしかして、その程度の職業じゃこの世界ドヤれないんですかね?それとも、贅沢を言って冒険しようとした罰ですかね?」


「かもね~。でも、流石にそれはおかしいんじゃない?私の世界じゃ、むしろ皆んなして俺ヴァンパイアハンターだぜとか、この十字架が血に染まるって皆んな言ってたよ」


「先輩の世界の知識。ここ数日で結構ここと違うって、私知っていますからね。それ、何も参考にならないどころかむしろ足引っ張りましたよね?」


「あはは、、、、ソウダッタケ?」


「先輩、、、、現実直視しましょうよ。先輩のそれ、何だかゲームシステムみたいですよ。でも、やっぱり冒険者なりたての人でさえドヤりませんし、変ですね」




うんうん。と頭を悩めながら、私達は議論を深める。


具体的には、もしかしたらここはRPG的な職業等はないのではないのかと、今日も馬車に乗るかに、ここのマヨネーズの味がクドいかクドくないかを考えた。


そんな中。朝食が運ばれて、手を伸ばそうとしたまさにその時。入り口の蝶番の嫌な音が高く鳴った。


人が新しく入る事自体は珍しくないが、入ってきたその人間に、、、、思われず目を奪われた。


それらしいローブで身を覆い、か弱そうな腕にはガッシリと杖が握られてある。


あぁ、多分間違いないであろう。『僧侶』だ。


RPGで言うと、僧侶の様な格好をした女の子が、大きなバッグを抱えて弱々しく歩くながら席に着いた。




そう言えば、まだこういう我こそはファンタジーの住民なり、的な人間は敷居が高そうで声が掛けれなかったな。もう2週間の間時間を無駄にしている気がするし、無茶を承知で私は僅かな希望を抱いて私が立ち上がると、先輩も同じ事を思ったのか私と同時に立ち上がった。


お互い思っている事が同じと確信すると、多分僧侶に近付き問いを投げ掛ける。


「「ねぇ、君の職業は何かな?」」


続いた言葉に、私と先輩は嬉しくて抱き合った。


「職業?あっしは、冒険者ですけど、、、、もしかして、『クラス』を聞いているんですのか?なら、あっしは僧侶です」

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