第8話 本当に初めてのクエスト

朝日が差し、異世界の来て初めての夜明けを迎えたが、、、、


肝心の朝を迎えた私は、ガンガンと鳴る頭蓋を抱え、死にかけの芋虫が如く固いベットの上を這いずり回り、後ろの悲鳴をBGMに激痛で溢れる涙を飲んで苦しんでた。


つい昨日の夜かなり決定的な恥を舐めた私は、それを記憶ごと抹消しようとお酒をガブ飲みしたが、お察しの通り現在進行形で私はその恥を忘れていなかった。


まぁ、恥は忘れずとも、混濁した記憶の奥隅では冒険者の皆さんが私を抜きにして、あのガブガブに飲んだ酒代を割り勘してくれた。更に、親切に私のギルドが経営する宿屋にも連れてってくれた。




(ありがとうございました)


脳が爆発しそうな激痛を我慢し、両手を合わせて私はあの親切な冒険者の皆様に心の中で礼を言う。


まぁ、、、、ただ、その曖昧な記憶の中に誰か一人が『このお代はいつか出世払いな』と言って、私はそれにうんと言った気もするが、きっと気のせいだろう。


感謝の礼に若干戸惑いながら、私はベットではなく地面に倒れ込んでいる先輩。またの名を爆音スピーカーに近付き、近況を聞く。


「いつつっ。先輩どうですか〜?酔いは」


「ギャー!!だっ、だっ、大丈夫だっよよぉっっっ!!ア――――痛い痛い痛い!!!!」


ただでさえ酒を控えても悪酔いするのにも関わらず、昨日ガッツリと飲酒したツケが回って来たと言わんばかりに悶え、私の「うぐっ」という僅かな呻き声を掻き消してくれる。




そんな事情聴衆もままらない先輩は、余計に痛くなりそうなのに地面の床に自分の頭をぶつけ始め、いい加減流石に止めなくてはならなくなる。見るだけで私も辛くなりそうな苦痛だが、これを止めなければ私の人格云々が悪い評判になりそうだ。


「あの〜〜先輩。痛いのは分かりますし、先輩が途轍もなくお酒に弱いのも分かっている私から言いますけど、少し。少し声を抑えてくれますか?」


「おっ、オッケーぇええ!?アァァァァァァァァァァァ、頭が痛いィィィィ!!!!」


地獄の様な苦痛とはまさにそれを指すのか。


迷惑を掛けないようにと必死に頭を抱えて我慢する先輩だが、我慢出来る限界値と痛みが釣り合わず、先輩は後半人間のものかどうかすら怪しい唸り声を上げて悶絶する。




自分の限界ギリギリを攻めてまで我慢しようとする先輩に、私は先輩が苦しいと承知で何度も頑張れと自分も頭痛で痛む中応援する。


だが、幾ら頑張ろうとて、声を抑えられないのが事実。


二人して激痛で頑張る中。バンッと宿のドアが鳴る。


「もー!さっきからずっとうるさいよ、二人とも!今他の冒険者が少ないから、二人の声が下までハッキリと聞こえるよ!!」


「そうそう。飲み過ぎなのは分かるけど、流石にうるさ過ぎるよ」


赤い髪を二つお団子にしたジギルちゃんと、青い髪を一つお団子にしたハイドちゃんが、ほっぺを膨らませて私達に正当性が100パーセント保証出来る文句を言う。




「すっ、すみません。声を抑える様に先輩も努力しておりますので、少々多目に、、、、」


「ダメ!」


「流石にその声は、皆んなに迷惑が掛かるから」


「ですけれども、、、、」


責任の非は私達にある筈だが、私はそれでも先輩を責めないで欲しいと言い掛けた途端。陶器で作られた凹凸の激しい瓶が、二本私の元に投げられた。


「それを飲んで寝てね!もう、わたしは怒っているんだから!」


「それは頭痛を良くする薬だから、それを飲んで暫く横になってね。あと、、、、実は、あたしもお姉ちゃんも怒ってないから、悲しまないでね」


そう言われ、私は一瓶コルクっぽい蓋を開けて飲むと、若干トロミがある苦い味と共に、途轍もない早さで痛みが引く感覚がした。




「あっ、先輩!コレ凄いです。痛みが凄い早さで引きます」


そう言い、私は悶絶する先輩の手にコレを握らせた。


無論効くと聞いたら、先輩は驚く早さで蓋を開けてコレを飲み干す。


「っぷぅ。あっ、本当だ!痛みが引くよ!」


先輩が効いたと口にすると、薬効ありで喜んだのかハイドちゃんよりも大きく頬を膨らませてたジギルちゃんに笑顔が戻り、二言程言葉を残して部屋から立ち去る。


「お薬効いたみたいだから、もう叫ばないでね。それと、後で呼びに来るから部屋からは出ないで。あと、わたしは本当に怒っているんだから、、、、」


「二人共良く寝てもっと酔いを覚ましてね。あと、このお薬は出世払いにするから。“昨日みたいにね”。それじゃ、バイバーイ!」


立ち去る二人にバイバーイと手を振り、私はあの微かな記憶が事実だった事に、涙を飲んだ。







さて、一体何時間寝たのか、時計がないから分からないが既に太陽が真上に登り始めた時。私はジギルちゃんとハイドちゃんに呼ばれ、ギルドが経営する宿屋をチェックアウトした。


そして依頼紙?とでも言うのか?それを渡されて外に出れば、立派な馬車があるじゃないですか。


隣には、ギルドの商売の一部と思わしきモンスターの骨や、謎の鱗等に剣や弓の数々。


はて、コレで一体何をしろと言うのか?もしかして私達に、ト○ネコしろとでも言うのだろうか?


しかし、答えは違った、答えはもっと単純で頭も体も使わない仕事だ。




「ねぇ、先輩」


「ん〜?なーに空ちゃん」


「私達。所謂剣と魔法の、ファンタジー世界に来たんですよね?」


「うん。来たよ、間違いなくね」




じゃ――「この状況。一体何ですか?」




馬車に揺られ、悪路をゆったりと馬のペースで走る。


脇の生えている樹木の木漏れ日が、毎秒変わる影のジグソーパズルとして私の瞳を楽しませる。




そこは良い。景色は綺麗で、ただ眺めるだけでもここ一時間の暇は潰せた。


だが、重要なのは見えるけど、見えない物。


つまり、、、、


「先輩小腹空きましたか?ジギルちゃんと、ハイドちゃんからサンドイッチ的なのを貰いましたので、一緒に食べませんか?あと、商人の方もお一ついかがですか?」


「うん!食べる食べる!私お腹ぺこぺこだよ〜!」


「おぉ、そうか。じゃ、ただのパンとチーズだけじゃ味気ないので、俺も一つ貰おう」


私の質問に二つの返事が返ると、私は空中に魔法陣を作り、そこからバスケットを手繰り寄せ、中から二つのサンドイッチを先輩に渡す。


私が渡したサンドイッチを、先輩はこの馬車の持ち主である商人に一つ渡して、「いただきます」と口早に言ってパクリとかぶりつく。




「ん〜。おいしい〜。パンの表面が“カリカリ”して、更に薄っすらと残るバターの良い香りが、挟まれた具材を引き立たせるよ〜」


「あぁ、うめぇなコレ。行商で食う粗食とは訳が違ううまさだな」


モチモチと幸せそうな顔でサンドイッチを咀嚼しながら、よだれが出る感想を零す。


文字通り天使な先輩の、おいしそうに食べる顔を一瞥し、私はサンドイッチを見据える。


手に持つサンドイッチは、食パンをハンバーガーの様に挟んだ物ではなく、フランスパンを縦に切ってそこに具材を挟んだヤツだ。絵面的には、サンドイッチよりも焼きそばパンに似ている。


だが、具材は勿論そばではなく。輪切りにした何かの野菜に、ローストビーフと思わしき肉。更にはスクランブルエッグと、黄色めのマヨネーズを絡めた具材達を溢れんばかりに入れてた。




確か、マヨネーズって海外発祥だっけな〜と思いながら、私も両手を合わせた後にこのサンドイッチを頂く。


「ん?コレは、、、、えぇ、凄くおいしいですね」


具材一杯で、お互いの味を壊したりしないか心配だったが、見事にお互いの味を引き立てる。


先輩の言ってた通り、カリカリのフランスパンはパン特有の良い香りを私に楽しませ、卵やローストビーフと言ったコッテリとした味を、この輪切りにされたアッサリとした野菜が引き立ててくれる。


確かにコレは仕事で食べるだろう粗食とは、訳が違う気がする。日本が誇る粗食カップ麺だって、もしも直ぐにサンドイッチなりの食べ物が食べれるなら、私はサンドイッチを選ぶだろう。




あまりにもおいしすぎるサンドイッチに、私はバクバクと口へと頬張り、二個目に手を伸ばしてた。


「ねぇ、先輩。先輩は回復魔法が使えるって、ザッコさんの前で言いってましたけど、私この世界で先輩が使ったのを見た事ありませんよ?」


サンドイッチを口に運ぶと、ふと先輩が以前言った言葉が気になり、どうせ先輩も暇だろうと問い質してみた。


「え!?ザッコ?誰、その人?」


「あぁ、そうでした。先輩その時には、確かぶっ倒れてたんでしたね。えーと、ホラ私達のクエストに一緒に同行したあのおじさんですよ」


「あぁ、あの人にね!うん。言ったよ、出来るって!」


笑顔で不思議な事を言い切ると、先輩は二つめに手を出して頬張る。




「でも先輩。先輩は私とずっと一緒に居ましたよね?ですけど、先輩は私と居る間に一度も魔法らしき物を使いませんでしたよね?もしかして、地面に刺さった時に使ったんですか?」


「ふほほほ。ごごごがががむぐぐ、、、、ううん。使ってないよ!でも、私の元居た世界では使えてたし!」


ハムスターみたいにほっぺを大きく膨らませて、先輩は向こうとこっちじゃ間違いなくこういう原理が違うだろう事を無視して、堂々と使える事に胸を張る。うわ、先輩最期の一個のサンドイッチ取って食べたよ。




「んじゃ、先輩。試しに魔法使って下さいよ。回復魔法と言ってましたし、それ直したらどうですか?」


私は先輩の肘にプイッと指差す。


先輩の肘先には、朝の一連のやり取りで床で擦ったのか、ちょっとした擦り傷があった。


「あぁ、コレね!分かったよ!じゃあ、、、、」


サンドイッチを片手で持ちながら謎の構えを取り、先輩はホワーと奇声を上げて呪文を詠唱する。




「――『回復ホイミ』!!!!」




と、某ゲームの呪文を、大真面目に叫ぶ。


ちなみに、肘の怪我は治らない。そりゃ、天界で各々の世界にはその世界なりの法則があると知ってたし。




「アレ?おかしいな?あっ、そうだ!『オープン』!って、アレ?見えないよ!?えぇ、どうして?『オープン』!オ――――プン!!!!」


魔法が使えない事に心底驚いている先輩は、今度はホイミではなくオープンオープンと大声で連呼し、行商人さんにちょっと静かにしてくよと注意された。


「ねぇ、先輩。ホイミは、、、、まぁ、まだ分かりますけど。オープンって、何ですか?」


「えっとね、空ちゃん。オープンって言うのはね、そう言うとステータス画面って言って、自分の強さが分かる物が見れるけそ、見れないんだよ〜〜。どうして〜、私魔法使えなくなちゃったの〜?」


「落ち着いて下さい先輩。あと、泣かないで下さい。恥ずかしいですよ!というかソレ、ゲームの話しじゃないんですか?」


「違うよ!ゲームじゃないよ!ちゃんとした魔法の一種だよ〜!」




泣きじゃくる先輩は、「空ちゃんが信用してない〜」と声を上げ、行商人さんから二度目の注意を受ける。


「あぁ、分かりました!ゲームじゃないんですね、じゃあもしかして先輩の“元居た世界”じゃないんですか?そういうと魔法が使えるのって?」


行商人さんに頭を下げながら、私は先輩の言う事に当てはまる可能性がありそうな事を予想し、聞くと、、、、先輩は目を輝かせて「そうだったよ〜」とその事を思い出す。この人本当に天界で200年も仕事したのか?


てか、ステータス見れるとか、先輩の元居た世界はゲームの様な感じなのか。




「じゃあ、先輩。先輩のその傷治れってイメージしてみません?この世界では、魔力が動くイメージを想像して使用するらしいですので」


「おっ!良いねソレ!むふふふふ。傷が治るって感じね〜」


「そうそう。あと、魔力の流れをイメージしながらやってみて下さい」


ザッコさん曰く。魔法を使う事自体は簡単と聞いた私は、試しにダメ元で先輩に方法を教えて、使えるかどうか見守ってみた。


幾ら簡単とは言っても、流石に初手では出来ないだろうなと息巻き見たが。


私の予想を超え、先輩の肌の赤い部分が、肌色に染まった気がした。




見間違いかと思ったが、先輩が力む目の先にある傷が、徐々にだが埋まっていくのを、私は直視した。




それを目撃したお陰で、私は本当に魔法を使う事自体が簡単な事と、無音詠唱自体が可能な事を知った。


あと、私達は馬車に揺られるだけ揺られて、目的地に着くと空間魔法から合計約“14”トンの荷物を降ろし、クエストを満了した。


そう、私達のクエストは、空間魔法に荷物を詰め込めるだけ詰め込み、それを運ぶ事だ。


馬車自体が7トン程の輸送が可能な為、私達は二人で馬車を上回った訳だ。どうりでザッコさんが働いて貰おう云々言ってた訳だ。


ちなみに、私達はおじさんを雇って命に関わり掛けた仕事よりも多いお金を貰ったよ。


それで服を買ったけど、、、、嬉しくないや。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る