第7話 魔法原理と恥
夕暮れの遠い空を背にして、私は近い騒音を耳元で聴きながら、私は所謂新人歓迎会に身を落としていた。
「ガッハハハ!!そりゃあ災難だったな嬢ちゃん!まさか狩猟中の『シヴァウルフ』に出逢うとはな。アイツはあの森での最強格で、あの群れを倒したパーティーは実力は中堅認定レベルの猛者だぜ」
豪快なビール髭を生やし、目の前の如何にも悪そうな男が私に語り掛ける。ちなみに、クエストについて来てくれたおじさんは門の一番前で葉巻をふかしている。
「えぇ、災難でしたよ。でも、このおじさんを連れて出掛けたお陰で、死なずに済みました」
「えっへへへ〜。あのおじさん凄かったんたよ〜。剣でズバシューンってやっれ、魔法がぎゅにゅにゅにゅにゅ〜〜てっへへへ〜〜」
「先輩もう酔ったんですか?たったジョッキ一杯とちょっとでそんなに酔うとか、、、、」
グルグルと先輩の目の視点が宙を舞い、最早碌に喋れない舌で何かを身振り手振りで必死に伝えるが、一瞬顔が青ざめるとバタリと机に倒れ、そのまま先輩はzzzzzzと寝息を立てて机に突っ伏した。
「あーあー。先輩お酒に強くないのに、こんなにも飲んじゃって、、、、お酒じゃなくて料理を食べれば良いのに。ん!?これおいしい」
先輩の背中をさすりながら、私は皆んながジャンジャン頼んだ料理を突くと、これが意外とおいしかった。
「おうおう。嬢ちゃん。折角の大宴会なのに、料理ばっかじゃなくて酒をがって、飲めよ!どうせ今日は俺達皆んなの奢りだ!遠慮せずによ」
「いや〜お酒は悪くはないんですけどね、でも料理の方がおいしくてついつい手がですね。あっ、コレもおいしいし、コレもおいしい!」
「かぁ〜!これだから酒の旨味を知らない奴は。まぁいい。どうせ冒険者なんてやってると、明日を生きる意味がこの一杯になっちまうからな!」
男はそう言うと、ジョッキをグビッと喉に流し込み、“冷えてる”と明言する。
私がお酒を控えているのは、次の日にクエストを行ってお金を整えて基盤を安定させたいのと、純粋に料理がおいしいからである。
無論。今飲んでいるビールそっくりのお酒はマズイ訳ではないが、天界で飲んだ物と比べれば見劣りする。
そんなビールだが、実を言うと飲めば存外においしく、見劣りが特に感じられなかったりする。誤解なきように言うが、味自体はちゃんと味わえば天界に劣っている事がハッキリと分かる。
だが、仕事終わりの一杯と言う特別感と、男が先程明言したようにビール自体が冷えている事にある。
ちょっと頭を回せばわかる事だが、人類が製氷技術を得たのは火を手に入れたずっと後の話しだ。
元来物理法則上熱を与えるよりも奪う方が簡単で、極寒の大地でさえ摩擦で火をつけて暖が取れる。けれども、灼熱の砂漠では何をどうしても人間一人の力では氷を作れない。
そんな製氷技術がなければ間違いなくお宝物の氷が、彼等はホイホイとそれが入ったビールを飲み、氷を噛み砕く。
まぁ、こんなに簡単に使用するのなら、ファンタジー世界では理由は一つしかない。
「ねぇ、おじさん」
「おっ、俺か?」
「いや、そうじゃなくて、あの片腕ないおじさんの方」
「そうか。おーい!お前ちょっと来てくれよ!ここに居る嬢ちゃんがお呼びだぜ〜!」
男はうるさいギルドでもよく通る声でおじさんを呼ぶと、おじさんは葉巻を地面に擦って消すと、ヘラヘラと笑顔を浮かべてやって来る。
「どうした空ちゃん。俺に何の用だ?」
「いやね、一つ聞くけど、、、、」
疑問を聞こうと開口して、疑問を言葉を乗せようとしたが、『この氷はやっぱり魔法で作ったの?』とでも聞くと、この周りの様子からしてバカにされる事請け合いだろう。
となると、私は相手が答えられ、時々質問されるだろう質問を選んで聞く必要がある。何故か私はおじさんに箱入り娘的な感じに見られているから、少々の違和感はここで誤魔化して貰おう。
「、、、、えっと、あの〜〜氷を出す魔法って簡単?私一度もそっち系を練習した事なくてさ」
困った様な表情を作り、私はビールを一口啜る。魔法ななら確か、努力をすれば誰でも使える様な世界だと雲さんも言ってたし、自然な質問な筈。
私は自分の言葉に矛盾がないようにと祈り、少し訝しむおじさんの視線をハッキリと見据える。
「空ちゃん。アンタ、、、、」
(ーーアンタ?)
「、、、、アンタ。もしかして」
(――――――もしかして?)
「親御さんは魔法が使えなかったのか?」
「あっ、うん。そうだよ!だからちょっと、分かんなくてね。教えてくれるかな?そういうの」
含みのありそうなおじさんの喋り方に、もしやと思ってたが、どうやらそういう様な事はなく、安心した私はちょっと食い気味な感じに質問をした。
「おっ、おう。分かった、分かったからちょっと待ってくれ空ちゃん。そうだな、まずはどこから話せば良いのか、、、、」
生えている方の手を突き出し、先のない方の腕の断面を、本人は顎に手を当てる感覚で顎にくっつけてウンウンと唸る。
「じゃあ、まずは魔法の使用の仕方から言った方がいいか?空ちゃん空間魔法が使えるから、別に言う必要がないと思うが」
基礎の基礎が大丈夫?出来ているか?と聞かれるのと等しい質問に、後ろの冒険者達は「空間魔法が!」と驚く者も居れば、「分からない訳ないでしょ」とからかう者も居た。
主に2パターンの驚き方をした男達だが、私が「教えて下さい」と言葉にすると、全員がえぇ!と声を上げて驚く。やめて下さい。本当に恥ずかしいんですから。
「そっ、そっか。まぁ、いいちゃんと説明してやるからよく聞けよ」
流石にコレは分かると思っていたのか、おじさんは苦笑しながら葉巻を地面に擦って消すと、指をコンっとテーブルに叩く。
「魔法ってのは、使うだけなら正直案外“簡単”なんだよ。空ちゃんは『魔力』は、、、、分かってたりするかい?人間に皆んな必ずある見えないし、重さも感じない不思議な力で、端的に言えば、魔法の根元でありどれだけ魔法が使えるかでもあるさ、魔力は。魔力が多ければ多い程、沢山魔法が使える」
ただ、自分の中にある魔力は何度も魔法を使わないと具体的に把握が出来ないと、おじさんは言葉を付け加えると自分のポケットから何かを取り出す。
それは何やら汚い字で、2239/2378と書かれてある懐中時計に似た物だった。
「コレはな、めっちゃ便利な『魔道具』でな、あぁ魔道具ってのは魔法を使った道具の事さ。で、この魔道具なんだが、残りの魔法の残量を一定の単位で統一してそれの残りを教えてくれる物だ。金が余ると買うと良い」
おじさんは自分の魔力残量が書かれた数字を指差しながら、再び机を指で小突くと、、、、その突いた所からニョキッと、一本の小枝の様な木が生えた。
その小枝の様な気がし生えると同時に、魔道具に書かれた2239の数字が僅かに減った。
「っんま、この様に魔法を使えばそれの対価として魔力が減るんだ。さて、ここで大事なのだが、魔法自体は使うのが簡単な件についてだ。魔法の使い方だが、基本的には自分の体にある魔力を手にだったり、足にだったりから放出するとイメージを創造するんだ」
放出するイメージに関しては、やはり手から噴出させる方がイメージしやすい。おじさんは小言の様に助言を語ると、目を細めて指を小枝に向けて何やら集中する。
「この世界には、基本的に『火魔法』、『水魔法』、『土魔法』と三種類があってだな、無論その他にも種類はあるが、今はこの三つについて語ろう。火魔法なんだが、コレは正直一番簡単な上で、一番使いやすい魔法だ。何せ、火を出したり燃やす程度しかイメージする事がないからな」
火魔法軽視的な言葉を発言すると共に、男が突き出してた指の先から小さい炎が吹き出し、小枝をパチパチと燃やす。
「魔法のイメージは、放出した後の魔力の操作が重要になり、ブワっと広げる様にイメージしながら燃え広がる炎を考えると、火魔法の一丁上がりで他も似たり寄ったりだ。魔法が上手い奴はこのイメージの仕方がハッキリとしていて、逆に下手な奴はそれが出来ないんだよ。最も、出来たとしても水魔法と土魔法じゃ出来る事が少ないし、イメージがし難く向いていない奴ばっかりだ」
「でも、おじさんは木魔法?なのかな?スネア・ツリーって言うのを使ってたけど?」
「あぁ、俺はちょっと腕に自信があるからな。第一火魔法以外の魔法は実用的に使うにしては、必要魔力が多過ぎる。水魔法は『
半分まで燃やし切った小枝を、おじさんは根元から折ると、再び目を細めて小枝を見詰めると、小枝がカッと燃え出す。
まっ、ざっとこんなもんさと目で語ると、私はあの魔道具に視線を向ける。
そこに書いてあった数字は、確かに少なくなっていたが、指から炎を出した時の魔力よりもかなり低かった。
「うん。大体分かったけど、、、、じゃあ、皆んなやり方さえ掴めば、難しい魔法とかも簡単に覚えれるのかなぁ?」
男が語るこの世界の魔法原理に感心しつつ、雲さんが言ってた『どんな魔法も原理的には全員出来る世界だよ』の意味を理解して、だからこそコツさえ掴めば誰でもチート魔法が使えるんじゃないか疑惑が過った。
「うん。まぁ、正直この話しを聞けば誰でもそう思うが、実際はそうじゃねぇんだ空ちゃん。コレに関しては、まだ空ちゃんには早いから言わないでおくから許してくれよ」
そう言い、おじさんは舌をペロッと出して謝罪する。
「そうですか。まぁ、魔法を使うという感覚が掴めてない私に対して深く言っても、理解が及ばなければ意味がない事ですので、いつかにしましょう。それを聞くのは」
今日一日でこのおじさんが悪い人ではないと信じた私は、おじさんの言う事を素直に聞いて一口ビールを飲む。
おじさんは私の返事に「話しが分かっているね〜」と私を褒め、また魔法陣的なのが書かれた魔道具と思わしき物に葉巻を付け、二本燃やして口に咥える。やっぱりソレ、見てておいしくなさそうだ。
「あっ、そうそうおじさん。おじさんの名前教えてよ、私確かまだ聞いていないよ!」
「おっ、そうだな。名乗るのを忘れちまったぜ。え〜と、俺の名は『ザッコ』。ザッコさ、名字は覚えなくて良いさ」
訳がありそうなセリフを吐きながら、何だか強くなさそうな名前を名乗るおじさんもといザッコさんは、皆んなに「このお嬢ちゃんの名前は天次空だぜ〜」と知らせ、私の名前を知った全員はよろしく空ちゃんと名字を呼ぶつもりで下の名前を呼んでくる。アッハハ、、、、やめて、お願い恥ずかしいから!
「アレ?どうした空ちゃん。顔色悪いぜ、もしかして空ちゃんも酔ったのか?」
「え?私顔色悪いんですか?おかしいですね、別に酔っていないのに何故でしょうか?」
そりゃ――下の名前を、大量の男にちゃん付けで呼ばれたからだろう。
「まぁ、酒がキツイなら無理しない方が良いぜ。折角の空間魔法が使える“天使”だ、明日から仕事一杯だぜ」
「お気持ち。有り難く頂きます。まぁ、空間魔法と言っても、別にそれ程持てれる訳では、、、、今。さっき何て言いました?」
(まさか?いやそんな筈ない。どうして、ザッコさんは私を天使だと“知っている”!?前世なんかじゃない。完全死後の世界での私が、どうして天使だと知っている!?)
サラリと言ったトンデモ発言に、私がそれをどこで知ったと聞くが、ザッコさんは私がさっきと言った言葉が何を指すか分からずに首を傾げる。
「さっきって、さっきの言葉のどこ?」
「えーと、『折角の空間魔法が魔法が使える』の後です。その時何て言いましたか?」
「あぁ、はいはい。『折角の空間魔法が魔法が使える天使だ』って言ったが、それが何か?」
ポカンとした表情で、私が天使だと知っている事を言うと、ますます私が言いたい意味を理解出来ずに首を傾げる。
だが、「あぁ、そういう事ね!」と何か閃いたのか、手を打ち鳴らしてザッコさんは口にする。
「そうか、そうか。なーるほど。空ちゃんその“羽”と“光輪”隠して遊んでたつもりなんだな!残念だけど、見えちゃっているぜ。にしても、『天使族』のお嬢様等が、冒険者に興味を持つとは、、、、何だかおもしろおかしいな」
え?と自然に口から疑問符が出てしまい、状況の把握が出来ない中。私は言葉の意味を確かめるべく背中に手を回すと、、、、コンッと人間には間違いなく生えていない羽が、そこには生えていた。
つまり、こういう事だ。どうやら私はこの世界に来る際。確証もないのに自分が転移時に人間になった思い込み、それを今の今まで気付かなかったって訳だ。
世間知らず的な感じに思われていたのも、多分にこの世界の『天使族』とやらのイメージのせいだろう。
まさか転移先の世界でも天使だったとは思わなかった私は、テーブルの料理をマナーを忘れてかき込み、ビールを一気に飲んで空にする。
隣からいい飲みっぷりと褒められるが、それに勝る羞恥心のせいで煽り聞こえてしまう。
もう、今日位は、、、、恥を忘れて良いんじゃないのかなぁ?
忘れようとしてもこびり付く恥に、私はひたすら目を逸らしながら飲んで、酔いでブっ倒れるまで酒と料理を煽り続けた。
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