第1話
毎日の学校は代わり映えのしない平凡な時間。
僕はいつの日か、授業を窓から見える遠くの山を眺めて過ごすようになった。
何故かって?理由は明白だ。
“授業がつまらない” ただこれに限る。
他に綺麗な理由を探したが何も見つからなかった。と、言うよりも、授業をなんとなく過ごしている時点で既に汚点だ。
など、と考えていると1つの授業が終わる。
とても楽だがとても憂鬱だ。
何も得ないし、何も変わらない。
そんな日々を暮らしている。
しかし、自分自身に何も取り柄がないという訳ではない。
一昨年にバイト代を叩いて買ったアコースティックギターを嗜んでいる。
だが、学校ではこの事を話したことがない。
それ以前に話す人がいない。
俗に言うボッチだ。
そうこうしていると、HRが終わって放課になった。
「帰ろう」
誰もいない教室で一人ボソッと呟いた。
去年の夏ぐらいだろうか。
既存の曲には弾き飽き、自ら作曲するようになった。
こっちの方が断然楽しい。
自ら生み出した音を自分のリズムで自分好みにできるからだ。
だが、所詮は高校生。
想像力があっても、経験は無いに等しい。
どんなにリズミカルでも心から踊れない様な曲が出来上がってしまう。
経験と言っても僕が経験してきた事は大抵学校内の事ばかりだ。
学校が終わったら、まっすぐ家に帰って、それからはずっと家に居る。
そんな生活を小学生の頃から繰り返していたと言うのもあって経験が浅い。
だが、まだ高校生だ。
これからでも少しずつ経験を重ねていけばいい。
そう考えた僕は、海に行こうと思い立った。
休日に暇を持て余していたのでその時間を有効活用すればいいのだ。
そう決めて今日は眠りについた。
翌日、学校に行くといつもの雰囲気ではなかった。
なんだが静かだ。
僕はいつも学校に着くのが早過ぎるが、過去にこんなことに遭遇したことはなかった。
異常な雰囲気に煽られながらも職員室に教室の鍵を取りに行く。
そこには担任の谷口先生含め、数人の教師しかいなかった。
「生徒はまだいいとして、教師の寝坊はまずいんじゃないか。それも複数人…」
僕は呆れて、思わず口にしてしまった。
担任がこっちを見ている気がしたが、僕は何食わぬ顔を貫いた。
「失礼します。3年A組の青海 翔(あおみ しょう)です。教室の鍵をいただきに来ました。」
「は、はい。どうしたの?忘れ物?青海君にしては珍しいね。」
僕は先生の言ってる事が理解できなかった。
ただ、今日もお美しいと言う事だけは言える。
「まぁいいや。はいこれ教室の鍵。あとでちゃんと返してね。あ、そうだ。数学でわからない事があったらなんでも聞いてね。夏休み中は多分ずっといるからいつでも対応してあげられるよ。」
僕はやはり理解できない。
ただ、先生の言った「夏休み中」と言うワードに違和感を…いや、これまでの異様な雰囲気に辻褄が合う。
先生が「どうしたの?」と、言いそうな顔をしながらこちらを見ている。
すかさず僕は、
「教室に筆箱を忘れたんです。それと、数IIの微積分のところがまだ微妙で…教えて欲しいです。」
「なんだ、筆箱を忘れたのね。電話してくれたら先生が家まで届けてあげたのに…」
先生はどこか悲しそうだった。
「それと!数学は教えてあげるから、先に教室の鍵を開けておいてね。先生はあとで行くから。あ、そうだ。暑かったら冷房つけてもいいからね。今日は今季の最高気温出るらしいから熱中症には気をつけてね。じゃあまたあとでね。」
いつもの一方的な会話だ。
クラスメイトの中にもそこが欠点だって言う奴もいる。
だが、僕はそう思わない。
新任の先生だが、新任らしい一生懸命さが生徒としても伝わってくる。
その一生懸命な、でも少し空振りする様なところが僕は好きだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます