第16話 天性のアーティストたち

新しいことをしよう、面白いことをしようと考えると罠にはまる。


創造のヒントを与えてくれた3人の存在がある。


ひおちゃん、しみちゃん、おりちゃんだ。


ひおちゃんは背の高い常にハイテンションな子だった。


ただナイーブな面を合わせもっていて、時々学校を休んでいた。


5年生の遠足の帰り道、だらだらと歩きながら、ひおちゃんが急に道端の植物をつかみとり、「おしべとめしべとおしべ~」と歌い出した。


おしべとめしべは5年生の理科で習ったばかり。


ひおちゃんがつかんだ植物は何だったのか分からないけど、多分コスモス。


大胆にコスモスをマイクにし、「おしべとめしべとおしべ~」を熱唱しながら歩いている。


みんな目を丸くし、クスクス笑うのが精一杯だったけど、おしべとめしべで歌を創作するセンスに驚いた。


ワタシも一緒に真似をしてみたが、ひおちゃんのライブ感には到底追いつけなかった。


後に、ひおちゃんはバンドを組んで、エレキギターを弾いていたので、ロックの世界に造詣が深かったことが分かった。


衝撃的なフレーズは今でも忘れない。


しみちゃんはかなり過激派だった。


学校帰りにカエルをビニール袋に数匹入れていた。


「しみちゃん、そのカエルどうするの?」と聞くと

「楽しいことがはじまるよ」「一緒に来る?」と・・

しみちゃんの自宅に一緒に行くと、外水道の蛇口にカエルの口をはめて一気に水を出した。


プーと膨れ上がる、カエルの体。


すると限界を迎えたカエルの体は一気に破裂した。


しみちゃんはニコニコしている。


ワタシは見てはいけないものを見た感じがして、言葉が出ない。


その後も数匹そのようにし、「次は道路に行こうと」しみちゃん。


道路で大型トラックが来るのをじっと待ち、しみちゃんがトラックが来た瞬間にカエル数匹をばらまいた。


プチプチッとカエルは妙な音を立ててつぶれた。


「おもしろいでしょ。ははは・・!。アベシだ!」と笑うしみちゃん。


アベシとは漫画北斗の拳でザコが死ぬ場面だ。


ワタシは図工の授業でケンシロウに似た自画像を描いて、北斗の拳ブームをクラスメイトにインスパイアさせたと自負していたが更に強者がいた。


しみちゃんはの家には池があった。


しみちゃんは鯉に乗れるとはったりを言う。


道端におしっこで「アホ」「バカ」「うんこ」と書いていた。


人が見てはいけないやってはいけないついてはいけない世界を丸ごと体現していたアーティストだった。


おりちゃんは、強烈な嘘つきで有名だった。


その嘘は巧妙でワタシは何度も騙された。


「お父さんが印刷会社で働いているから、キン肉マンの原画をあげる」


ワタシは期待に胸を膨らませ、周囲にも言いふらし、大好きだったキン肉マンの原画を待った。


待てど暮らせどおりちゃんは何も持ってこない。


「おりちゃん、キン肉マンの原画まだ?」と聞くと

「ワリー明日持ってくる」


次の日、「ごめん、遅くなって」と誰がどう見てもおりちゃんが描いたキン肉マンのイラストを手渡された。


あっけにとられて、怒る気にもなれなかった。


しばらくしてクラス内で学習の一環としてクラブをつくることになった。


漫画が好きな男子が数人集まり、その中におりちゃんもいた。


授業参観日にOHPで漫画を発表することを目標に制作が始まった。


ワタシはOHP制作だけでは物足りず、オリジナル漫画を描いてクラスの仲間に見せていた。漫画にはちょっと自信があり、いい気になっていた。


おりちゃんはあまり手が進まないようだった。


ワタシはそんなおりちゃんを見て、優越感に浸っていた。


授業参観日、ワタシはオリジナルの4コマ漫画をOHPで発表した。


頭の中では、当時読んでいたコロコロコミックやボンボンで培ったギャグを盛り込んだつもりでいたので、絶対皆大爆笑と思い込んでいた。


結果はまさかの失笑だった。


何が面白いのかよく分からないといった雰囲気だった。


おりちゃんの番になり、ワタシは同じように失笑じゃないかと高を括っていた。


教室中はじけるような大爆笑となった。


OHPに映し出された漫画はかなり稚拙な絵で、登場人物が歩きながら、石につまずいたり、穴に落ちたり、犬に噛まれたりするだけのストーリだった。


しかし、おりちゃんの語り口調が独特で、目をギラギラさせながら、大きな前歯をむき出し唾を飛ばしながら一生懸命に発表する姿は、まるで売れっ子講談師のような強烈な表現者であった。


完全に完全に心底負けたと思った3つの出来事である。


ワタシの頭の中がガラリと変わった原体験である。








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