第12話 ビダイ的価値観
汚いツナギを着て、校内をうろうろしているのは大概彫刻科の人間である。
ワタシもその一人だが、なぜここにいるのかふと疑問を感じた。
様々な大学や学科が世の中には存在するが、彫刻科に入ることはかなりのレアケースであろう。
自分の人生、履歴に造形学部彫刻学科が入り込む意味について考えた。
どのような人間が彫刻科に入るのか。
幼い頃から図工美術が長けていた。
巷の展覧会ではよく受賞していた。
これはビダイ・ゲイダイに行く人間にほぼ共通することだ。
勉強が嫌いであることもビダイ・ゲイダイを選択する理由としては大きい。
勉強は嫌いだが、大学へ行きたい。
勉強は嫌いだが、好きなことがしたい。
勉強は嫌いだが、ある程度世の中に名が知られた大学へ行きたい。
勉強ができなくても、偏差値が低くても、そこは問われない世界へ行きたい。
ワタシが受験生だったころは偏差値が生徒の人生を決めていた。
偏差値の無い世界へ行きたい。
自分は偏差値で価値つけられたくないと強く思っていた。
ただ、そう考える人間はこの時代あまりにも多すぎた。
受験者数は全てのビダイ・ゲイダイの学科で10倍を超えていた。
油絵・デザイン・映像学科は20倍30倍を超えることもあった。
その中でも10倍~12倍をうろつく学科があった。
それが彫刻科だった。
令和の時代に10倍を超える大学はどのくらいあるだろうか。
ヨビコウ時代からすでに科を選択しなければならなかった。
メジャーな油絵?デザイン?
このころ興味があった映像?
散々悩んだ挙句、身の丈を考え、色の無い彫刻科を選択した。
平面・映像は家でも作れる、立体は場所が無ければ造れない。
最後に自分に言い聞かせた理論である。
隣で描いているそんなにうまくもないヤツがビダイ・ゲイダイに入っていく様子を見ていると自分にも可能性があるんじゃないかと思っていた。
もの凄いうまいのに、多浪している方を見ていると不安になることもあった。
★★
彫刻科の就職率はかなり低い。
バブル崩壊してるんだから、仕方ないとは思っていたが・・。
苦労して子供を育てた実家の両親は、この就職率を見たらどう思うのかいつも考えていた。
★
本当に才能のあるやつは、ビダイ・ゲイダイへは行かない。
行ったとしても中退は当たり前。
アートで大成するやつは10年に一人。
先輩からよく聞かされた。
自分はどこにも当てはまらない。
中退は絶対にしたくなかった。
ビダイが楽しいからだ。
10年に一人になる片鱗すらなかった。
そんなウワサはどうでもよく、人生どれだけ面白いことができるかのほうが興味があった。
評価は人間がするもの。
人間の曖昧さや傲慢さ適当さに左右されて生きるのは真っ平御免だと思っていた。
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