第10話 謎のゲーリー

★★

交通事故で亡くなった従兄とは生前、2回くらいしか会ったことはなかった。


ワタシが子供の頃、田舎の祖父の家に親戚で集まった際、従兄の兄さんはぼっとん便所に爺ちゃんに買ってもらったばかりの財布を落とした。


ひどく悲しんでいた。


★★

今回彼女のもとに届いた財布は、そのときに爺ちゃんからもらった財布と同じだった。


でもそのことを知っているのはワタシだけ。


そのこと自体に意味はないのかもしれない。


最近深夜、謎の女性から電話がかかってくる。


「私の言う通りにしないと下痢をする」と言い電話が切れる。


その翌朝は必ず下痢をする。


正露丸を飲むが、昼頃も下痢をする。


子供のころから下痢魔だったので慣れている。


登下校中、草むらで・・遠足中、リバーサイドで・・


サッカーの練習後、焼却炉の前にあった山盛りゲーリーは俺の作品だった。


「うんこ、うんこ」と叫ぶ小学生を尻目に、うんこではなく「ゲーリー」なんだよと心の中で呟いた。


小学生は「うんことちんこ」で盛り上がれる。


うんこは未知


ちんこは異生物


「未知との遭遇」を楽しんでいるのだ。


これが宇宙に出る原動力となっていることは誰も気づいていない。


地球から出たい本能が人間には備わっている。


アフリカ大陸を出発したときからの大いなる野望は本能レベルで人々に受け継がれている。


謎の女はワタシに未知を与えてくれた。


★★

くどいようだが、幼い頃からよく下痢をした。


今考えれば、ほぼ精神が関係してのことだったと思う。


両親の絶えないケンカを我慢する日々。


強制的にやらされていた塾通い。


まるで自分が我慢してきた人生のように見えるが違う。


両親のケンカの原因はワタシにある。


ワタシの言動は少し変わっていたため、困惑した両親は教育方針で揺れていたのだ。


強制的な塾通いは自ら選択したものだった。


団塊ジュニアのどうにもならないヤツらと過ごす日々。


ワタシ自身がどうにもならないヤツだった。


周囲との不適応のために起こったストレスである。


現在は下痢はない。


ストレスを克服したと思っている。


ストレスを克服するのに30数年はかかった。


克服すれば怖いものなどない。


たまに昔のことがフラッシュバックされ、気分が落ち込むこともある。


下痢はしない。


ストレス性の過食で太ったこともあったが、今はダイエットに成功している。


タバコを止めて16年、酒を止めて10年以上が経つ。


最近は毎朝ルーティンとして20年間食べていたチョコレートも止めた。


ご飯も腹八分目。


習慣を変えることはストレスを減らすことに似ている。


目に見えない膨大なストレスの原因はほとんどが自分の生活習慣から生まれている。


そのことに気づいてから気持ちが楽になってきた。


周りを変えるまえに、自分が変わればいいんだ。


自分を変える方が、周りを変えることよりも楽でありストレスは無い。


謎のゲーリーとの決別は自分の人生をも変えるのだ。


「そうだ宇宙へ行こう!」


★★


膨れ上がった自我を削る作業は楽しい。


ビダイで彫刻科を選択したからには、自我をカービングする必要もある。


カービングすることで、新しい形が生み出されるのだ。


新しい自分を目の当たりにすれば、希望や勇気は自然と漲ってくるもの。


財布を捨てて街に出た、中学生時代。


勉強を止めて、絵を描き出した高校時代。


自分を捨てて、世の中に身を投じた今。

















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