第4話 夢を見るシャイな集団

★★

それにしても、ワタシはこの作品の中で見動きが取れなかったはず。


作品の中を覗いてみると、血色の固まったものが横たわっている。


松田優作ばりに「なんじゃこりゃ!」


とりあえず胸を押さえ、手のひらについた血を確認したが・・


気味が悪くなり、一歩引いた。


さっきの出来事は何だったのだろうか。


死を直前にし、奇跡的なエネルギーで脱出したのか。


火事場の馬鹿力?


火事場の馬鹿力を教えてくれたのは「キン肉マン」


近所で火事があったとき、家主が必死な形相で家財を運び出していた。バケツリレーに参加したが、野次馬がリレーを邪魔した。


★★

本当にダメなときは体は動かなくなる。


親戚の家は豪雪地の宿だった。


宿題を終えたら、従兄と遊ぶ約束をしていた。


3階の窓から下を見ると雪が1階まで積り、そこに従兄や友達が下半身が雪に埋もれたまま「おーい、こっちにこい!」とワタシを呼ぶ。


「ちょっと待てよ。このままジャンプしたらワタシも生き埋めになるんだよな。」

と一瞬考えたが、その時は飛び降りていた。


案の定生き埋め。


従兄たちはのんきなもんで、「どうしよう~」と、雪上に残された両腕で雪玉を投げてくる。


夕方どこかの野良犬がこちらを見て吠え出した。


その鳴き声に気づいた宿のお手伝いさんが、慌てて子供たちを救出してくれた。


★★

誰かが引っ張り出してくれたのか。


紛失した財布はアヒル池の中かと思い探した。


所持金は数百円、祖父からもらった財布だった。


★★

新入生歓迎コンパが5月に行われる。


シャイで人目を避けるようなタイプが多い彫刻学科の人間が鉄工場に集まる。


新入生が出し物をする習わしがあり、数週間前から準備をする。


予備校からの知り合い村さん、馬沢、と、入学してすぐに仲良くなった北野、尾形と5人で組んで出し物を考えた。


九州出身の陶芸一家の馬場が「ドイツ、ドイツ、ドイツ、ドイツ、ジャーマン」と掛け声と共に5人がパフォーマンスをするという一発芸を考えてくれた。


シャイな5人は白パン一枚のみで、酔っ払いが集う鉄工場でお披露目をした。


「ドイツ」をシンプルなテンポで言い続け、最後の「ジャーマン」で妙な動きを入れながら落ちをつけること5回目で5人はピラミッドをつくる。


最後は馬場がピラミッドの頂点から下ネタ交じりのメッセージを垂らす。


大爆笑と怒号で日本酒と鉄粉が入り混じった空間が異様なものとなる。


シャイな連中がシャイな芸を見て笑う。

ワタシが考えるアートとは程遠い気がしたが、そういう場所にいる満足感があった。


★★

美術ならなんとかやっていけそう。


そう思わせる美術は危険である。


自分の可能性なんてよくわからないけど、何か大きいものに置いて行かれないように振舞わないといけないんじゃないか。


そんなことを考えながら大学生活がスタートしていった。


大芸術家は大学へは来ない。


ワタシは大芸術家になりたいわけじゃなく、自分の世界を掴みたいだけだった。

だから、何でもかんでもやってみようと思っていた。


大学を食い尽くそうと考えていた。


それ以降、不思議なことは続く。

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