第3話 創造的不良

気が付くと、守衛のライトが眩しく目を覚ました。


「またお前か、この時間にいるのはお前さんとムサネコだけだ。彫刻科は閉校時刻を聞いていないのか!」「早く帰れ」といつものセリフ。


ムサネコは表情一つ変えない。


猫だから当たり前だが、動物は表情を変えない。


ワタシも子供の頃から無表情な子供と周囲に言われていた。


幼少期最も古い記憶(1歳か2歳)に、ワタシの顔を見つめる両親と猫の顔がある。


身近にいるこの人たちが自分の親であるということを知るまで、親も猫も同じものだと思っていた。


世話をしてくれる人が二人いる。


じわじわと分かってきたという記憶がある。


親と猫の違いがはっきりしたのは、親には顔の表情に変化があり、猫には無いということ。


表情を極力変えない選択をしたのは猫を見習ったからだ。


両親はよくケンカした。


表情で巻き起こる不毛なケンカを見続けているうちに、表情を出す虚しさを感じた。


無表情は妙な争いを避けるための常套手段だと考えた。


子供ながら精一杯の抵抗だったのだろう。


大人になっても、心から楽しめない、常に不安が付きまとう性格は、幼少期にカタチつくられたものだと思う。


だからと言ってこれが幸か不幸という話ではなく、子供のころから今にいたるまで、幸せな人生であることは間違いないと思っている。


★★

高校時代もよく守衛に怒られた。


勉強ができないくせに、なぜか学校は好きだった。


ワタシはフツーの生徒だった。


周りにはヤンキーがチラホラいた。


ヤンキー全盛期ではなかった。


ヤンキーはヘアスタイルや制服を見事にクリエイトする。


しかし、学校をどこか意識したスタイルである。


そんなに学校が嫌いなら、来なきゃいい!私服で来ればいい!と心の中では思っていたが、制服をクリエイトしているうちは、学校に未練があるのだろう。


ヤンキーとラベリングするのは簡単だ。


一人ひとりヤンキーになるまでのストーリーがある。


そのストーリーを知ると、今はそのままでいいよと言いたくなる。


人は未練があるからこそ、クリエイティブになれる。


クリエイティブは切ないストーリーから生まれる。


★★

アトリエ横にあったアヒル池に下半身を沈めたまま池の淵に伏せていた。


★★

妹が川で溺れたことがあった。


間一髪母親が救い上げたことで命は助かった。


ワタシは幼稚園の年長だった。


衝撃的な出来事であり、その後風呂で妹が川でクルクル回っていた様を真似した。


近所のおばちゃんが俺を心配して風呂から覗き込んだとき、丁度回っている最中だったため、裏金玉を見られてしまった。


水抜きのチェーンに首が絡まり、もがいた。


川に落ちた妹は、大人になりシンガーソングライターとなった。


自由人としての人生を全うしている。


川の中で何かを悟ったのだろう。


ずぶ濡れのまま、何が起こったのか理解できなかった。


★★

作品の横まで這って行き、気を失う前に自販で買ったコーラをとりあえず飲んだ。

「おえ、誰かタバコ入れたな。」


ミネラルウォーターも買ってあったはずだがなぜか無かった。


ツナギの尻ポケットに入れておいた茶色の財布も無かった。


周囲を見渡したがFRP の缶が転がっていた。


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