第7話  スシの少女2

「いいか、あの店長の魂を奪ってこい」

「できません! 恩人です!」

「無理なら・・・町ごと焼き払うだけだ」

 ディルドリンという兄は、確かにそれだけの力がありそうだ。


「そ、そんな・・・」

「今日中だ、オンボロ店だし、願わせるのは簡単だろう。やってこい」

ディルドリンは去っていった。


「おい、チビ公。めそめそしてどうしたんでえ? シャリでも食うかい?」

「て、店長さん・・・別にお願い事はないですよね?」

「だから、おめーみたいなチビに願い事するほど落ちぶれちゃいねえ。・・・けど、そういえば、娘のサチエの様子がちょいと心配だなあ。看護師になるっていうが、メシちゃんと食ってるかなあ。少し会いてえなあ」


そこに、快活な女性がやってきた。

「おとーさん! 学校が少し休みになったから、帰ってきたよ!」


「おお? なんだあ、急に」


「あわわわ」

ナミは慌てた。

自分には本当に願いを叶える力があるのだ。

「なあに、この可愛い子は?」

「丁稚だ。おい、ナミ。偶然だが、願いが叶ったぞ。ワッハハハ」

「も、もうこの辺にしておきましょう!」

「いや、久々にサチエに会ったら欲がでたぞ・・・俺ももうトシだ、孫を見たいと思うこともあらあな」

「お父さん、誰から聞いたの? 私、お医者さんからプロポーズを受けたのよ。実は赤ちゃんもいるの!」


ナミは真っ青になり、

「あわわわ」と呻くだけだった。


「いや、めでてえなあ。ナミ、お前まさか、天使なのか? いやっははは」

店長は大喜びだ。

「も、もうお願い事は駄目です!」

「どうした? ただの冗談じゃねえか」

「もし、三つ目の願い事を叶えると・・・!」


そこに、黒服の男達がやってきた。

「店長さん、例の立ち退きの件は考えてもらったでしょうなあ?」

明らかに悪意のある表情。

「カジノを作るんで、ここはどいてもらわないと困るんですよ。今ならいいお金を払いますよ」

「帰って貰おうかい。おめーらなんかに、渡す土地はねえぞ」

「そうですか。ひょっとして、このチビちゃんが事故に遭うかもしれませんぜ」

黒服は、にたりと笑った。

店長は息を吸い込み、

「出ていけ! この野郎!」

信じられない馬鹿でかい声で怒鳴っていた。

「てめーらなんぞ、怖くて店がやれるか!」

「く・・・し、静かにしろ!」

「上等だ! 今から、殴り合いでケリをつけるかあ! 外へ出ろ、べらんめえ!」


あまりのでかい声に、人が集まってきた。

黒服は、舌打ちをして帰っていった。

「お父さんが、あんなのに屈するはずがないわ」

サチエは自信たっぷりだ。


「店長さん・・・ど、どうしてお願いをしなかったんです?」

「あん? だから、おめーみてえなチビに願い事なんぞねえって言ってるだろ? さあ、店の準備だ。開店だぞ? 本当の戦はこれからだ。忙しいぞ?」


ナミは誇らしげに店長を見つめていた。


・・・・

夜半。

ディルドリンは、影の中にいた。

「まだ、魂を取れないのか? 何をやっている?」

ナミは胸を張っていた。

「べらんみぇええ! ちきしょうめええ!」

「・・・何を言ってる・・・?」

ディルドリンは呆れていた。


「このスットコドッコイ! あんたなんかに、店長さんの魂は渡しません!」

「街を焼き払うぞ?」

「そんなことすれば、あんたも困るでしょう? やってみなさい、スットコドッコイ!」

 わらわらと、周囲に人が集まっている。

「さあ、帰りなさい! あんたなんか、お兄さんじゃありません」

「・・・フン。くだらんな。人間なんぞ、クソの集まりだ。お前にもすぐに分かる」

そう言って、ディルドリンは去っていった。


やったぞ。悪魔の兄を追い払ったんだ。

けれど、何故かその恐ろしい背中が切なく感じるのは何故なんだろうか・・・?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

100人の天使と悪魔の三つの願い スヒロン @yaheikun333

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ