第6話 スシの少女1

お腹の空いている少女がいた。

少女の名前は、ナミ。

ナミは自分の名前と、腹が減っていることだけを記憶し、他は全部忘れていた。


(けれど、もう一つある気がする)


なんだか、自分には力があるように思うのだ。


「わぶっ」

「おい、チビ公。どこを見てるんでえ?」


寿司屋の頑固親父が笑っていた。


「私はチビじゃありません! こう見えても、なんでも願いを叶える・・・」

「ハラが減ってそうだな。よし、スシでも食っていけ」


ナミは、ぐきゅるるると鳴る自分のお腹を見ていた。


簡素な店だが、スシの味は抜群だった。

「よし、食ったな。さあ、チビ公は出て行きな。こっからは、大人の仕事だ」

「あのですねえ、すし屋さん・・・私はこれでも、願いを叶える力があるんですよ? なんでも二つまでなら言ってくださいな」

「ほほう、キメツとかエンエンの後は、そういうのが流行っているのか」

「違います!」

 ナミは確信していた。

 自分はきっと天使だ。

 このオンボロの店を守るために遣わされたのだろう。

「じゃあ、窓の掃除でもしておいてくれ」

「そ、そんなのでいいんですか? 二回だけなんですよ?」

「おめえみてえな、チビに願い事なんぞねえ。掃除もしねえんなら、早く帰りな」

「もうっ、やりますよ!」


 ナミはねじり鉢巻きを締めていた。


「へい、がってんしょうち!」

掃除くらい簡単だけれど、これは『願い』としてではなく、自分でやることにしよう。

きっと、あの頑固店長が困る時が来るはずだ。


その時のために・・・


「おい、お前は何をやってる? さっさと、ヤツの魂を奪ってこい」


ぞわり、と背筋が凍るような声。


それは、三日月の影を伴った男だった。


「あ・・・」


間違いなく、悪魔族だ。

それも、恐ろしい力を持っている。


「この店に何の用ですか? あんまり近寄ると・・・私の天使パワーでやっつけますよ」

男はニヒルに笑う。

「天使パワー? 何の冗談だ・・・?」

「私は、このスシ屋を守るために遣わされたんです!」

「・・・いいや、まるで違うぜ」

男は言った。

「お前は、悪魔だ。そして、俺の妹だ、ナミ」


ナミは身動きすら取れなかった。


「俺はディルドリン、お前はナミ。人間の魂を1000本吸い取るのが役目だ・・・遊んでないで、さっさと行ってこい」

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