第4話 ワールドカップの男1

「このクソ野郎!」

「無能監督! くたばれ!! こんな弱い代表チーム見たことないぞ」

 中年の監督は生卵をぶつけられていた。

「みなさん、本当にすいません・・・しかし、きっとこの日が糧になる日がきます」

「今勝てないと意味ねえんだよ!」

「この無能野郎! あのヘボFWをいつまで使うんだよ!? ワールドカップ本番だぞ!?」

「すいませんでした・・・」

 監督は会見場を去っていった。


 監督は一人で歩いていた。

 自分はワールドカップで全敗したのだ。何を言われても仕方がないが、選手たちは懸命に戦ったはずだった・・・

「今にも死にそうなツラだな」

 影のある男に声をかけられた。

「サッカーって競技はそこまでなのかい? たかだかボールを蹴ってるだけなのにな」

「なんだ、お前は?」

「警戒するなよ」

「もう、放っておいてくれ・・・命を賭けた勝負に負けたんだ・・・」

「ほう・・・なら、本当に命を賭けてみないか?」

「何?」

「三つ願いを叶えてやる・・・三つ目を叶えれば、魂を貰うがな」

「悪魔だというのか・・・?」

 短編集でよくある話だ。

「さあ、なんでもいいぞ。願いはなんだ? ワールドカップで優勝させても、お前を世界一の監督にしてもいい」

「・・・ふざけるな。そんなもので勝ちなんか欲しくない・・・だが・・・」

監督に未練が襲い掛かった。

「できれば・・・もし、二週間前に戻ってやりなおせるなら・・・戦術とシステムを少し変えるだけで、絶対に勝てたんだ・・・」

 影の男はふと笑った。

「よし、来た」


 そして、監督は二週間前へと戻っていた。

「ここは・・・?」

 コーチが、

「どうしたんです? 明日はワールドカップ本番ですよ!! さあ、最後の練習をしましょう」

と意気込んでいる。

「まさか・・・本当に戻った・・・?」

 間違いない。

「よし、システムを変えるぞ!!」

「ええ、今からですか!?」

 コーチ陣は驚いている。

「やはり3バックで守備的にやるんだ! これで、勝てる・・・信じてくれ。敵は物凄いロングボールばかり使ってくるんだ・・・!」

コーチ陣は驚いているようだが、監督の迫力に素直に従った。


「やりましたね! 監督、采配的中ですね!」

「まるで、敵の戦術を予想していたかのような見事な采配・・・」

記者たちは、自分を絶賛している。

この間は、生卵をぶつけられたばかりだった気がするが、現金なものだ。

「失礼、まだ練習があるので・・・」

監督は足早に去った。


「やったな・・・しかし、次の敵は南米の強豪だ」

 影の長身の男が言う。

「分かっている・・・次はもっと強くて、五点差でボロ負けなんだ」

「折角、時間を巻き戻したんだ。少し選手の能力でもアップさせたらどうだ? 一人につき、寿命五年分でやってやるぜ」

「冗談じゃない・・・俺は、あくまでもこの選手たちを信じ抜くぞ」


 しかし、監督のチームは南米の強豪にボロ負けしてしまったのだった。

「なんだ、あのザマは!!?」

「今すぐ辞めてしまえ、クソ監督!!」

 次々に水や生卵をかけられる。


監督はよろよろと歩いていた。

影のある長身の男が現れた。

「どうする?」

監督は頷いた。

「もう一度・・・三日前に戻してくれ」

「ほう。ただ、二度目の時間巻き戻しは少々値が張るぞ」

「・・・いくらだ?」

「一日につき、寿命十年分だ」

 影のある男はにやりと笑った。

「馬鹿な・・・いきなりそんな・・・」

「嫌なら終わりだ、無能監督のままでおめおめと生きろ」

「ま、待て・・・・」

 監督は言った。

「いいだろう・・・三日巻き戻しだ・・・もう、悪魔に魂をくれてやる・・・」


                                つづく。

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