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Noah92

第1話 採用!

心地良い音楽が雰囲気の良いこのレストランにゆったりと流れている.だが私の心はこの曲とは裏腹に沈んでいた.


それはこれから述べられるであろう台詞をもう把握していたからだ.そしてこのレストランの二十代くらいであろう若い女性の店長が申し訳なさそう顔で私に言う:


「ごめんなさいね,もう人手が足りているのよ」


謝る店長さんに,


「そうなんですか...」


私はそれだけを言ってがっくりと肩を落としながらその店を出た.


(今日だけでもう五回目...)


「あーまただめか... 都会ならすぐにバイト見つかると思ったのに... 」


すぐに無くなると思っていた履歴書を片手に,はあーとため息をついて項垂れる そんな時ある紙が私の目に写った.


(新人バイト募集中..!?)


そこは古めの喫茶店だった.ドアに最近張られたであろう手書きで: "未経験者大歓迎新人バイト募集中"の張り紙. その文字に吸い寄せられる様に私はそのお店に近づいた.


――カランコロン.


良く見るアニメの喫茶店特有の効果音を奏でながら私はその店に足を踏み入れた.見た目同様お店の中もレトロでとても落ち着く雰囲気だ.洋楽の音楽が流れていて,歌詞も曲も知らないが,どこか懐かしさを感じさせる.


「いらっしゃいませー! 」


明るい男性の声が店内に響く.


「御免なさいね,

まだお店オープンしてないのよ」


流暢な日本語で低めの声が私の耳にスッと入る. 現れたのは外国人のイケメンで店長さんらしき人物.背が高くスラッとしてまるでモデルさんみたいだ.


「あっ,そうなんですか? すみません.ちゃんと見てなくって」


「貴方もしかして?...」


私が手に持っていた履歴書を見つめる.


「あっ,はい! 実はアルバイト募集中の張り紙を見かけまして...」


「あら そーなの!!」


そう言うと満面の笑みで私の手を握った.その反動でニカッと白い歯が見え,よく見たら深海の海の様に青い綺麗な目をしている.


「実は人手不足でアルバイターしてくれる子探してたのよね-! まさかこんな可愛い子が来てくれるなんて!それじゃ色々と質問したいからちょっとお話しましょう?」


答える暇もなく私はされるがままに,椅子に腰を掛け,その正面にイケメン店長さんが座る.店長さんは私の手元から履歴書を受け取り,まじまじと見つめる. そして視線を履歴書から私に切り替えた.


「そういえば自己紹介がまだだったわね.アタシの名前はビアンカ,よろしくね.因に気付いていると思うけれどオネエなの」


正直,ここの店長なのと言われると思った期待を見事に裏切り,私は少し動揺してしまった.


「は...始めまして倉橋杏里佳と申します.」


(やば..動揺が声に出てしまった)


「アニカ?日本人で珍しい名前ね」


私の動揺を気にする事無く.話続ける.


「15才?もしかして高校生とか?」


「あっ,はい 今年から高校に行きます」


「あらそうなの?あの子と一緒ね」


「あの子?」


咄嗟に聞いてしまった.


「今厨房にいるバイト君なんだけれどね,彼も今年高校デビューなの,海緒くーん!ちょっと来てくれるかな?」


店長の呼び掛けに渋々と私と同い年位の男の子が私の前に現れた.毛先だけが金髪のグラデーションヘアーで方耳にピアスを幾つか着けている.彼も店長さん同様外国の方みたいだ.


「なんすか店長?仕込みまだ終わってないんすけど」


凄く不機嫌そうに,そして彼も流暢に日本語を話している.


(って,見た目が外国人だから日本語上手だなって考えちょっと偏見かも)


昨夜見たテレビで日本生まれ,日本育ちで親がロシアの方が,日本語お上手ですねって言われて違和感を感じると喋っていた事を思いだした.


「この子もねー,今年高校に行くんだって!」


ビアンカさんの声で我に返る.


「だからま-色々とバイトの事教えてあげてね♡」


「え?

え?」


金髪少年と私が息ピッタリに声を放つ. そして店長は私の元へ駆け寄り,再び手を握る.暖かい手の熱が私の手に伝わる.


「採用よ杏里佳ちゃん!これからよろしくね,シフトについては明日色々話したいから明日から来れる?」


「は..はい!頑張ります!よろしくお願いします! 」


私はこれ以上無いくらいのとびきりの笑顔で答えた.まるで何度もアタックしては駄目だった相手にやっと告白のオーケーが貰えた様に嬉しい.


「あっ,えっと, 倉橋杏里佳です.これからよろしくお願いします先輩」


しまった,昨夜見たアニメの影響で先輩と呼んでしまった.私はビアンカさんに手を握られたまま,カイオと呼ばれる男の子に向かって頭を下げた.


「あら,こんな可愛い後輩が出来て良かったわね海夫」


にやにやしながらビアンカさんは彼に話しかける.


「別に...まあ明日からよろしく」


ぶっきらぼうにそれだけ言うと,私達背中を向け厨房に消えていった.


「シャイなのよあの子,気にしないで」


シャイと言うより嫌われているんでは?と思ったけれど口にはしない.


「それで明日何時に来れる?」


「明日入学式なんで昼頃には来れると思います」


「あらそうなの?海夫もなのよ,偶然ね,でもその時間帯なら大丈夫よ.さっきも言ったけれど明日からよろしくね」


私は心を込め力強くはいと返事をした.私は店長さんにお礼を言い,その店を後にした.


(店長さん凄く良い人そうで良かった)


翌々考えたら,店長なんて一言も言って無かったけど,やっとバイト先が見つかった嬉しさで気にもしていなかった.


正直あのカイオと呼ばれる男の子と仲良くなれるかは微妙だが,まあ大丈夫だろう.


明日から新しい一日が始まる.初めての土地で,初の高校生活とアルバイト.期待に胸を弾ませ,私は真っ先に家に帰った.


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