7月22日  41−3

轟音を上げて階下のドアが開く音が聞こえた。


キッチンからは金属音が鳴り響く。


俺は無我夢中で足元に転がったアルバムを手に取った。あまりに頼りない。パラパラと写真がアルバムから零れ落ちる。その全ての写真に俺が写っていた。例外なく。


あれほど一緒にいた幼なじみの写真は一枚もない。その妄執、呪い、狂気。恐怖で脳が怯えきって全く動けなくなった。階段を上がる音が聞こえる。

 

ココココココココココココココココココココココココココココココココココココココココココココココココココココココココココココ

 

 ゴンッ!

 

 

死刑執行室の扉が開いた。笑みをたたえた幼なじみが姿を現す。俺は全く動けない。恐怖の涙を浮かべた目で俺はゆっくりと顔を上げた。



幼なじみは怒りと悲しみをたたえた異常な笑顔でこちらを直視していた。そのまま微動だにしない。

 


一分程睨み合った後、彼女はこちらに一歩近づいてきた。

 


 ガサッ

 


 ガラクタが音を立てる。もう一歩。



 

 ガサッ

 



あまりの恐怖に喉が干からび、体内の鼓動が階段を上がる足音のようにどんどん早くなった。


その瞬間、切れてはいけない糸が、俺の中で切れた。

「ァァァあぁあああおいああああガガガアアア」


正気を失った俺は部屋中の物をそいつに投げつけた。投げつけた。投げつけた。アルバムから写真が吹雪のように舞散り、タンスの抽斗ひきだしの中身がポップコーンのように床に散らばる。それでも彼女は向かってくる。


額からは血を流し、頬に細かな切り傷が浮かんでも。それでもそいつは歩みを止めない。

「大丈夫」

静かな声でそいつは口を開いた。


「ク、ク、クルナ来るな来るな来るな」

何も考えられない。投げつけたものの破片が俺の皮膚をさいて真っ赤な噴水を上げる。視界がどんどん赤くなる。汗が蒸発し、生ぬるい空気になってまとわりつく。



「思い出して」

訳の分からないことを言いながらそいつはなおも距離を詰める。もう、あと三歩も歩けば触れられる距離になった。ああ、視界がどんどん赤くなる。どんどん、どんどん赤くなる。


もう一歩、そいつは歩みを進めた。俺は壁に立て掛けてあった姿見をめいっぱいその頭に叩きつけた。悲鳴のような音が部屋に響き渡る。


それでもそいつは、また一歩、こっちに来る。距離は、一メートル。もう、俺をいつでも殺せる所に、いた。


 

 静寂。

 


 

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