7月22日 41−2
全力疾走した
ゆっくりと音を立てないように門扉を開け、玄関のドアを開ける。キッチンから洗い物の音が聞こえた。恐る恐る靴を脱ぎ、二階の彼女の部屋に向かった。
一歩階段を登った瞬間、キィと木の床が
「だれ? 」
彼女の母親の声だ。俺は動転してたじろぎ、また木の床が軋みを上げた。慌てて取り
「ちょっと、忘れ物をしちゃった」
気持ち声を高くしてそう言うと、急ぎなさいよ、と声が聞こえた。
だがドアを開けた瞬間、俺は言葉を失った。
死ね
生きる資格はない
お前は助けられなかった
早く死ぬべき
お前の人生に意味は無い
死ね
早く死ね
明日が来る前に死ね
惨たらしく死ね
詫びながら死ね
死んで地獄に落ちろ
二度と生まれ変わるな
何度生まれ変わろうと罪は消えない
さあ、今すぐ死ね
死ね
おびただしい数の張り紙が、部屋の壁を、床を、天井を、埋め尽くしていた。血で書いたような呪詛の籠った赤黒い字は一部判読できず、書き手の狂気を感じさせた。塗り潰すようにところどころはねた墨汁のような跡が見えた。
なんだ。だから俺は何をしたって言うんだ。生まれた時から一緒にいるような幼なじみに一体何が起こった。怯えながらも、俺はその呪いの紙片の山をガサゴソとかき分け、何かを探した。彼女をここまでの狂気に落とした原因となった何かを。
刃物でズタズタに切り裂かれた後のある机の
次に見たのはやはりお札のように呪詛の紙片が貼り付けられた本棚だった。「死ね」「
漫画や雑誌だらけだ。その中に一冊だけ、異彩を放つ雑誌があった。分厚く物々しい本だ。とても女子が持っているようなものに見えない。木製で表紙も何もない。
俺は何となくそれを手に取った。硬い。触った感じ、これは本ではなく、本型の箱だ。よく見れば、真ん中にうっすらと線が見える。蝶番が付いており、本を開くような形に開閉できるようだ。
小口側の中央に小さな南京錠が付いていた。一度も見たことがないその鍵の番号をなぜか俺の指は自然と合わせた。「9」「6」「4」「6」。
鍵は音もなく開いた。
恐る恐る、箱を開ける。不意に勢いよく無数の何かが箱からこぼれ落ちた。バラバラと音を立てるそれに俺は思わず一歩たじろぐ。落ちたそれらが全く動かないことを確認し、凝視した。
セミの抜け殻、赤黒い動物のしっぽ、ビー玉、ガラスの破片、動物の鋭利な爪……
何だこれは?
思わず拍子抜けしたが、まじまじとそれらを見ているうちに鳥肌が立った。そのガラクタから、薄らと黒い煙が立っている。そう、あの野猫のように!
恐怖で呆然としていると、屋外から何かが近づいて来る音がする。コツ、コツ、コツ、コッ、コッ、コッ、コッ。
その音はどんどん鼓動を上げていった。
幼なじみだ。
俺は直感的にそう感じた。張り紙に隠れた窓の隙間から外を伺うと、五百メートルは離れた所に小さく見える幼なじみが、恐るべきスピードでこちらに全力疾走で走ってくる。
見開いたその目が、わずか三センチという窓の隙間を凝視し俺の視線と交錯した。幼なじみは急に止まる。
沈黙。
呼吸が止まる。
無限に続くような時間。
肺が耐え切れず、息を漏らした。その
その笑みは、小動物を捕まえるときにする、警戒心を解くための作り笑顔だ。能面のように張り付いた微笑をたたえながら、その視線は一時も俺から
息を吸って、吐く。それと共に俺はバケツの水をかぶったように発汗した。殺される。ダメだ、殺される。
なにか、なにか武器はないか! 俺は触れるもの全てを
ココココココココココココココココココココココココココココココ
ダメだ、なにも見つからない。なにか、なにかないか。半狂乱で部屋中を
ダメだ。武器になりそうなものが見つからない……!
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