7月22日 3
昼の熱気が抜けない蒸したアスファルトと街の空気。俺たちは言葉少なに歩みを進めた。そして、また車の事故に遭遇した。被害者は学生だった。
四トンのオレンジ色の鉄の塊が、俺のよく知る少女の命を音もなく奪った。原因はドライバーの居眠り運転。連日の長時間勤務で、心身は限界だったと言う。
家の前に着き、じゃあ、と手を振った直後だった。おかえり、と茶目っ気たっぷりに返答した彼女が挙げた左腕が、右側からの猛烈な衝撃と風に吹き飛ばされ、枯葉のように数メートル待ったかと思うとぼとりと地面に落ちた。
俺は何が起きたか分からなかった。遠くから急ブレーキの音と、悲鳴が聞こえた。俺は、その場から一歩も動けなかった。
壮絶な光景を見てからしばらくして、あの体育館の時と同じく、幽体離脱したかのように俺の視線は中空に漂っていた。
現実感が全くない。十数年共に過ごした時間が、現実を認められない。
それと共に恐怖がずっと脳にこびりついていた。あまりのショックで目に異常が発生したのか、視界が真っ赤になっていく。
あの時、俺たちを見ていた小さな影。あれは、きっと、猫だ。これは猫の呪いなのか? もしそうならばなぜ? 理解不能だ。
微かに香る線香の香りに混じり、ほのかな獣臭を感じた。それとともに心臓の鼓動がだんだん大きくなる。それは胸の辺りから首を通って頭に達し、頭蓋骨を内側から殴打する。
鼓動はどんどん早まり、頭の中心から脳全体を直接叩かれているような痛みが走った。堪らない。痛い。赤く染った視界がさらに濃度を上げる。ブチッという音がした。何かが切れた音。そこで俺の意識は途絶えた。
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