第3話 連絡先の交換
俺は、現在ロケ先にてCMの撮影中である。今回は、『三代サイダー』という炭酸水の商品を持って、バックは広々とした草原で臨んでいる。ここの空気は、普段街に住んでいるところよりも、澄んでいて清々しい感じがする。俺の現場の雰囲気は、どちらかというとアットホームで分からなことがあれば、丁寧に教えてくれたり、困ったことがあれば手助けしてくれるので全然悪くない。
「お疲れ様でした」
ようやく、CMの撮影が終わって一休憩が取れる。ここのところ、撮影に覆われて、休む暇があまりなく、休憩が取れるのがやっとのこと。それは、雑誌やドラマの撮影でスケジュールが埋まって、学校から帰ってからすぐに事務所まで向かうことが多い。
一か月もすればだいぶ落ち着いて来て、その時になれば、時間に少しのゆとりが出てくるのだが、学校で出される課題の量もかなり多いため、時間はどのみち削り取られる。
「靖人くんお疲れ」
ちょうど、俺と同い年の女の子がここに訪れる。
「おう、お疲れ」
彼女の名前は
知り合ったのは、中学生の時に初めての現場撮影でお会いしたのがきっかけだ。初めての俺に優しく気さくに話かけてくれて、相談に乗ってくれたことがある。最近になってから、ドラマでブレイクし始めたが、彼女にはまだまだ及ばない。そんな中で俺は日々、切磋琢磨している。
彼女は、俺の隣でベンチに座る。
「今日の撮影の調子はどう?」
「いつも通りかな」
「最近、人気が出てきたから仕事も結構大変だね」
「そうだね」
人気が出て仕事が多いというのは、良いことである。逆に仕事をもらえなければ、この業界に生き残ることは難しいだろう。
「もしよかったら、空いている日に二人でどこかに出かけない?」
「ええっと、その……」
俺は二週間前に別の女の子に無理やりデートを突き付けられたばかりである。俺としては、こういうことはできるだけ避けたいのだが、彼女も仕事で忙しくてめったにないので、仕方なく了解してみることにした。
「なら、今度の日曜日はどうかな?」
「うん、その日はどこも入っていないから全然いいよ」
これで、彼女と出かける約束を交わした。しばらく彼女と会話を続ける。
「じゃあ、その日はお願いね」
ベンチから離れた彼女は車に乗り、俺に手を振ってここを去った。
翌日、俺はいつも通り目覚ましから目を覚まして、カーテンを開けるところから俺の学校の日常が始まる。身支度を済ませると、朝食を取り家から出て、駅まで歩いていく。ただ、一歩一歩の足取りがいつも以上に重いのは気のせいだろうかと。
そして、教室の中に入り、自分の席で静かに過ごしていると
「おはよう、靖人くん!」
こういうのは、無視をした方が賢明だろう。
「聞こえてる?」
いや、近い!そこまで俺の顔のところまで近づかなくてもいいだろ。
「お、おはよう…」
なんでここまで俺に関わってくるんだ?それは、俺の正体を知ったからなのか……。
「そういえば、靖人くんに言い忘れていたんだけど、連絡先交換しない?」
「生憎、俺は連絡先の交換は受けてけていないんだ」
「それじゃあ――」
「じょ、冗談だ、別に構わない…」
「私、まだ何も言ってないよ」
「なら、やっぱり……交換します」
結局、彼女に脅される形で連絡先を交換する羽目になった。俺の反応を見てくすくす笑う姿を見ると、いつかは彼女の撮った写真を消して、復讐してやろうと誓う。
「これで連絡したいときはいつでもできるね」
俺は、今日をもってして初めて女の子と連絡先を交換した。
「今度の日曜日は空いてる?」
その日は奏絵さんとの予定があるのだが、上手いこと被せてきたな。
「悪い、その日は予定が入っているな」
「そっか…」
彼女は、眉を下にしている。彼女にそれ以上のことを言うと何をしでかすか分からんからな。
「次はちゃんと予定を空けておくようにね」
彼女は笑顔でそう伝える。けど、逆に予定を空けないようにすればいいのかとふと思った。
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