第2話 休日デート

 彼女と約束した学校の休日の日、俺は、予定通り彼女と待ち合わせる場所まで足を運ぶが、その際に学校でいつもと変わらない恰好で来る。どうしてこんな思いまでしていかなければならないのか、ものすごく悩ましい所。実際、俺がこうして遊びに行く事態あまりないことだが、彼女の口車にはめられてここまでやってきたのだ。



「おはよう、靖人くん!」


「おはよう……」



 彼女は、ポーチを肩にぶら下げながら、カジュアルな服装で来て、髪の結び方も凝ってきているようだ。なんだか、学校の時よりも一段とおしゃれしてきている。おそらく、これに目を引かない男子はいないだろう。



「じゃあ、行こ!」


「なっ!」



 彼女との距離感はやけに近い……。それも、彼女がこうして俺の腕にくっついてきたからだ。ただ、ものすごく彼女からいい香りがする。それよりも感じてはいけないものが俺の腕に当たっているんですけど!とそう叫ばずにはいられない。



「もしかして、緊張してる?」



 彼女は下から覗いて俺を見つめる。もしかして、俺のことをからかっているのか?



「ふ、普通だが……」



 俺は彼女に対抗してみた。



「そう?でも耳真っ赤だよ」



 彼女は「ふふっ」とにっこり笑らう。いや、誰のせいでこうなっているんだ!これじゃ、まともに会話どころか顔すら恥ずかしくて見られないだろう。俺はいつここから抜け出せるんだが。



「それで、これはどこに向かおうとしているんだ?」


「それは、着いてからのお楽しみ」



 彼女から、デートプランというものを聞かされずに来てみたが、今は彼女についていくしかない。その前にこの体勢をどうにかしてほしい……。



 ――歩いてしばらく時間が経ち、そのすぐ先に壁に大きな魚の絵が描かれた場所にたどり着く。



「思ったより、なんか普通だな…」



 いろんなことを頭の中で思い描いていたのだが、想像していたのとは違った。彼女みたいな人なら、どこか派出なところにでも連れて行かれると思った。意外にも落ち着いたところを選ぶんだな。


 彼女と訪れたのは、水族館のようだ。



「ここの水族館に行ったことある?」


「いや、今日が初めてだ」



 実際、俺が水族館に行くこと事態が小学1年生以来で、それっきり水族館に足を運んだことがない。けど、高校生になって行ってみるのも、それはそれで気分を変えるという意味ではいいかもしれない。魚はあまり詳しくないが。


 こうして、水族館に行く形となったのが、彼女とのデートだとはな。



 俺たちは、水族館の中に入って、受付を済ませてから、中を探索することになった。



「久しぶりに来てみたけど、やっぱりすごいね」



 ガラスの中にいる魚達を見渡すと、それを主張するかのように照明が照らされている。


 中でも、ジンベイザメの存在が一際目立ち、それを追随するかのように小さな魚達が泳いでいる。まるで、大きな額縁の中で自由に動きまわっているかのようだ。俺は、この迫力感に魅了されている。



「ここに来て良かった?」



 彼女が、俺の心の中を笑顔で見透かしたような目つきでこちらを見る。なんだか彼女にしてやられた感があるのは、気のせいだろうか?



「そうだな…」



 彼女の言うことに対して一理あるが、素直になれない。確かにここに来て良かった。学校の休日や学校が終わって帰った後も、モデルや俳優の仕事に覆われていたから、気晴らしにはちょうどいい。たまには、こういう時間も俺には必要なのかもしれないな。



「そうだ、ちょうどここをバックにして記念に一枚写真を取らない?」



 彼女が、ショルダーポーチからスマホを取れ出してから、俺の隣に並ぶ。



「一瞬だけ、つけているもの取ってもらっていい?」


「もしかして、俺の写真を使って悪用するつもりか?」


「そんなことしないから、ささ早く取って!」



 俺は彼女を見て少しため息をつきながら、変装しているものを外す。ここで、俺と彼女は記念すべき一枚の写真を撮った。



「まだ、時間があるからどんどん周っていくよ」



 俺と彼女は、お昼の時間帯まで水族館の中をゆっくり見渡した。そして、水族館を出たら、真っ先にレストランへと向かう。



「歩きまわっていたら、なんだかお腹空いちゃった」



 俺は、お腹が空くというよりかは、彼女に振り回されて精神的な負荷を感じる。ここまで、彼女についていけたのに、少しの労いの言葉があってもいいのではないだろうか。とそう心の中に留めておく。



「今日はせっかく天気はいいし、レストランの中じゃなくて外で食べよう」


「生憎、俺は中で食べたいんだが」


「それはダメ、外で食べるの」


「いいや、中だ!」


「外!」



 俺たちは外か中で言い争いをし、その果てにそれを決め手となったのが、じゃんけんとなった。



「これで俺が勝ったら、文句ないよな?」


「もし、私が負けても文句言い続ける」


「いや、なんでだよ」



 結局、俺が勝ったものの彼女の頬は膨れたままだ。それを見た俺は、仕方なく彼女に合わせることにした。



「外は気持ちいいね」


「はぁ…」



 俺はあまり、自分の姿をさらけ出したくはなかったが、ここは彼女に免じて外で食べることを選択せずには得られなかった。そもそも、俺が公共の場で外食すること事態めったになく、家の中かロケ先か車の中がほとんど。


 まぁ、とりあえずご飯を食べ終わるまでにここで満喫しなければならないな……。しばらくして、店員が皿を持ち運び、俺たちの前に出される――




 そして、レストランで満喫した後、空があかね色に色づく。そんな景色を一望していると時間があっという間に過ぎたことに実感する。



「私とのデートはどうだった?」


「ハードルが高くてめちゃくちゃ大変だった」



 彼女が、柔らかな笑みをこちらに向けて



「ふうん、他には?」


「ないけど」


「じゃあ、この写真、みんなに送っちゃうね」


「じょ、冗談だ。写真だけはよしてくれ…」



 俺は彼女と一緒にいるだけでも、一体、心臓が何個必要なのか?何とかして、俺の不安を材料を取り払わないと……。



『やっぱり、もう少しだけこのままでもいいかな』



 彼女が、内心でそうつぶやく。



「何かあったか?」


「なんでもない」




 この後、彼女と別れてから、ようやく俺の中の峠は通り越し、ひとまず落ち着いた。












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