学園の美少女達に絶対バレない?変装ラブコメ
久世原丸井
第1話 ハプニング!?
――高校一年生の秋
季節は、夏を通り越して、涼しい風と共に新しい波がなだれ込んでいく。俺こと
そのおかげで、俺は高校生の中では超有名人であるが、ここで一つ俺にとって重要なことがある。それは、高校生活の中でモブとしてやっていくこと。モブは俺にとって欠かせないものである。なぜなら、静かに高校生活を送りたいのだ。
まず、高校に入学してから正体を隠すために、事務所の専属のヘヤメイクを呼んで、ウィッグを選んでもらったり、眼鏡ショップに行って、度なしの眼鏡を仕入れたりなどと変装に抜かりなくしている。おそらくここまで厳重にやれば、バレないだろうと自負しているが、あとは自分の演技力に身を委ねるのみ。仮に名前を聞かれたとしても、同姓同名であると答えておけばいい。
実際に俺が自分の教室にいるとき、周りの女子が俺のファッション雑誌を開いて、『キャー!』という声を耳にする。やはり、しておいて正解だった。一応、ここにいるけどな。
そして、俺は高校の中でモブとして、満喫ライフを送ることができる。そのはずだったのだが――
昼休みの教室のときのこと。俺は普段と変わらずのんびりと過ごしている。机の上に家から持ってきた弁当を置き。のどが渇いたときは水筒を取り出して気持ちよく水分補給する。ああ、これがまさに俺が憧れていた環境。誰にも邪魔されずに自分でいる時間が有意義に過ごせる。
そんなとき、俺の背後からのこのこと一人の女の子が現れる。
「ねえ、靖人くんは誰かと一緒にご飯は食べないの?」
俺に顔を覗かせて話かけてきたのは、クラスメイトの
「まぁ、いつもこうしているけど…」
俺は、基本的に友達を作ることがなく、モブとして一人で過ごしていることが多い。
彼女とは新学期が始まって役員を決めるときに、俺が図書委員会い立候補したら、たまたま彼女も立候補した。図書委員会を通じて、本の貸し出しや整頓といろんな仕事をしているときに、彼女と会話を重ねるうちに、教室でちょくちょく話かけられるようになる。それ以前に、違った形で面識はあるのだが…。
「ふうん、なら私と一緒にどう?」
「遠慮しておく」
俺は、即答で返した。そもそも俺には誰かと一緒に食べる予定はない。それも、万が一バレるようなことが起きて、モブ生活を送れなくなる場合のことを考えると、この方が最善。というよりかは、この年頃になって、女の子と接するのはあまり得意ではない。
「夢、私たちはもう行くよ」
「…ごめん、ちょっと用事が出来たから私のこと気にしなくていいよ」
(いや、そこは断らなくてもいいだろう!俺としては、むしろ行ってくれた方が助かる)と心の中でつぶやく。
「それで、場所はどこにする?」
彼女が、俺に笑みを向ける。それを見た俺は彼女の表情の何かを察する。
「……結局、一緒に食べる前提なんだな」
「うん」
俺は、彼女を見て大きなため息をつく。どのみち彼女が離れないならここにいても周りの視線がやたらと集まるので、仕方なく自分の席から離れて彼女と人通りの少ない校庭へと行く。
目的の場所までたどり着き、彼女とベンチに一緒に座り、弁当を広げる。
「よかったら私のも食べてね」
そう言って彼女が俺に差し出したのは、卵の入ったサンドウィッチだ。中の具を見れば手作りのようだ。俺は、そのサンドウィッチを一口くわえる。
「どう?おいしい?」
「味は悪くないな」
最近の女子ってこんなことも普通にできるのか、俺とは全く正反対だ。家はマンションの部屋を借りて一人暮らしをしているが、ご飯を食べる時なんかは、コンビニで弁当を買ってくるか、外で外食を取るくらいしかない。
「まだ、あるから遠慮なく食べて」
「そこまで食べきれる自信はないが…」
しばらくして、二人が弁当の中身を食べ終えると
「それで、なんで俺と一緒に食べようと思ったんだ?」
俺はそれについて疑問に思い、わざわざ俺みたいな地味な恰好をしている人と関わり合おうなんて思わないだろう。
「それは授業が終わって、屋上に来たら教えてあげる」
彼女は俺に何を企んでいるんだ?
「そろそろ時間だから、教室に戻ろう」
彼女がベンチを立って俺から離れて、俺も後を追うようにして教室に戻る。彼女の考えはよく分からんが、変な方向に傾かなければいいな……。
そして、授業が終わり彼女に言われた場所まで辿り着けると
「ちゃんと来てくれたね」
彼女は、屋上のど真ん中で待ち構えている。
「一体俺に何の話をするつもりだ?」
そう言って、彼女がポケットからスマホを取り出し、操作をした後、俺の方にスマホの画面を向けた。
「これ、どこかで見覚えある?」
俺は、彼女のスマホの画面をよくよく目を凝らしてみると……この前、道端の曲がり角で足を滑らせて彼女とぶつかったときの写真だ。
「この写真を見ると、私の胸、触っているよね」
「いや、あれは不可抗力だ……!待て、それは……」
なぜか彼女の胸を触っただけにとどまらず、ウィッグまで外れている。って、一体何をしているんだ俺はぁぁぁああああーーーーー!!!
「なぁ、その写真を消すことはできないか?」
「うーん、どうしようかな?」
彼女が悩んでいるその姿を見て、さっきまでの君を見ていたら、今はだんだんと腹が立ってきた。
「なら、休日に私とデートしてくれたら考えてあげる」
はいはい、そうですかってなるかぁぁぁあああーーー!
「デートの話は、できればよしてくれないか?」
「じゃあ、みんなにこれを広めてもいいというんだ」
俺は今、完全に彼女に手玉を取られている。今はな!仕方なく彼女の言う通りに状況を飲むしかない……。
「それと私、こう見えても靖人くんの大ファンだから」
「やっぱり、気づいていたのか……」
「だって、めちゃくちゃ有名だもん」
俺が高校生になって憧れていたモブ生活も半年足らずで彼女によって断たれた。
「あとで、私にサイン頂戴ね」
「サインはいくらでも書いてあげるが、そのかわり俺のことは誰にも口外しないと約束してくれるか?」
「そこは大丈夫だよ、ちゃんと約束する」
そして、彼女は鼻歌交じりで機嫌よく俺の横を通り過ぎて屋上から去るが、対照的に俺はこの先どうしていこうかと思い悩む。
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