035:ペルソナ5
【タイトル】
ペルソナ5
【ハード】
プレイステーション3/プレイステーション4
【販売/開発】
アトラス
【発売日】
2016年9月15日
※以下、本作のネタバレを含みます。
◆『Take Your Heart!』
心、奪われました。
これほどスタイリッシュなJ-RPGがあっただろうか。
ペルソナ5は、アトラスが誇るペルソナシリーズの1作。
「真・女神転生」から始まるメガテン系列の1作ですが、悪魔を仲魔にしていく本家メガテンと違い、ペルソナシリーズは人間の仲間がいるのが特徴。
奇怪な事件に巻き込まれた主人公達が成長しながら事件を解決していく物語が展開されます。
ペルソナ3からはスタイリッシュなビジュアルを取り入れ、より現代風に、よりジュブナイルな内容になるようにシフトしていきました。
ペルソナ3で都会の閉塞感や死生観を扱い、ペルソナ4では田舎の噂の広がりとミステリーを扱い。
そして本作、ペルソナ5は再び都会が舞台となり、閉塞感を打破する美学が描かれます。
本作は世界中で絶賛され、海外の有名サイトでもここまで評価されたJ-RPGは類を見ないです。
スマブラSPECIALにも本作の主人公・ジョーカーがDLCで配信され、驚愕と熱狂を以て迎え入れられたことからも、本作の評判の高さが伺えます。
ペルソナシリーズ20周年記念作品、日本のRPGの到達点とまで言われた本作。
私はペルソナシリーズはP3からやり始めた新参組ですが、本作の気合の入り方は凄まじいと感じてます。
というのも、このメガテン・ペルソナシリーズもまた、日本の3大RPGの座を狙っているシリーズの1つ。
アトラスはメガテンをはじめ、濃いゲームを作ることで強いファンを得ている会社ですが、一方でその濃ゆい世界観は人を選ぶということが長い間課題だったんですね。
メガテン系はライドウシリーズとかデビルチルドレンとか、色んな方法を模索してきたわけですが。
そんな中ヒットを飛ばしたのがペルソナ3。
死生観を扱う物語の濃さと、現代のジュブナイルモノとしてのリアルさ、そしてビジュアルのスタイリッシュさの融合は、特にそれまでのメガテン系とは違う「異質」さがありましたが、これが新たなファン獲得に繋がったんですね。
そこから、更にライトな層を狙っていったのがペルソナ4。
主人公達は学生として、非常に仲のいい友達と理想的な学校生活を体験できるという一方で、実際にありそうなリアルな悩みが引き起こす非日常の怪奇を描いたことで、アトラスらしい闇も感じるゲームに仕上がりました。
また、P4は格ゲーやら音ゲーやら様々な派生作品が生まれたり、アニメを放送したりしたことで、爆発的に知名度が上がった作品でもあります。
そうやって続けた来たペルソナシリーズの進化。
P3~P4で得たライトなユーザーを引き留めつつ、それ以前のダークさをを両立させる。
さらに本作は、海外での人気も狙っていたのでしょう。世界に響くほどのゲームにする。
この大それた野望を成し遂げるために、P5が選んだ題材。
それが、「ピカレスク・ジュブナイル」です。
実はピカレスクモノって、RPGとは相性が悪いんですよ。
プレイヤーが積極的に悪事をこなすには、それ相応の理由が必要です。
積極的に人殺しまくったりするゲームがありますけど、ゲーム内でちゃんと理由付けがあり、それにプレイヤーが納得することでゲームに没入できるように工夫されています。
しかし、RPG。特に日本製の、ストーリーをしっかり追うタイプのゲーム。
主人公がプレイヤーの想像や理想とまったく違うことをしだしたら興醒めです。
この時、悪事を積極的に行うピカレスクモノでは壁があるのです。
普通の人は、犯罪を積極的にしようとはしませんからね。
更には、ペルソナシリーズといえば学園モノというイメージもP3~P4でついた。
主人公が学生で、かつ悪党?
そのうえで世界的なゲームにする?
わお、それだけ聞くと無謀に聞こえる。
けど、世の中には既に「悪党にしてヒーローな存在」があるんですね。
そう、「怪盗」です。
ここに着目し、昼は学生・夜は怪盗というフォーマットが出来上がり、更に「悪人の心」を盗む学生というアイディアが生まれたんですね。
敵対するのはクズな大人たち、怪盗団の仲間になるのは大人に理不尽な目に合わされた学生たち。
人の心を盗むという力を持って、自分達の手で世直しをしていく、そんな物語になっている。
この着眼点と発想力が、アトラスゲームの物語の濃さの所以ですよね。
◆『2016年のリアルさ、だから心に来る』
実際、本作のシナリオは凄いなぁって思うんです。
ピカレスク・ジュブナイルを成り立たせるための工夫があちこちに。
一番最初からカッコいい怪盗シーンで始まりプレイヤーのテンションをいきなり上げてくれますが、しかし主人公はすぐに逮捕。
その後、尋問という形でそれまでの出来事を振り返る倒錯モノになっているんですね。
で、一番最初に敵となるセクハラ教師の鴨志田先生。
まぁー実にクズな先生なわけですが、ひょっとしたら実際にいるかもしれない絶妙なところの悪役というのが凄い。
そしてこのクズっぷりが、プレイヤーに「怪盗をやってやろう!」という気持ちにさせるんです。
物語の導入として物凄く引き込まれていく。
その後も怪盗団が対峙するのは、贋作で儲けた芸術の大家、マフィアのボス、DVする親、ブラック企業の社長とクズな大人たち。
まぁ、DV親は少し変則的ですが。
たぶん、制作側も最初はDVする親としたところを、少し捻りをいれることでパターン化を防ぎつつ物語を進めるキーを入れたんでしょうね。
本作の舞台となる異世界に関するキーワードが出てくるのも、この辺りですし。
そんな悪党たちに対抗する怪盗団の仲間達も、実はちゃんとピカレスク。
学生らしい悪ということでヤンキー、女の悪党とえば色仕掛けということでモデル、贋作師から着想して絵師、暴走族から捻ってバイク乗りの生徒会長、天才ハッカー、悪役令嬢から着想して社長令嬢。
仲間達にもそれぞれ、悪党としての要素をちゃんと入れ込んであるんです。
とはいえやはり学生。
最初は使命感から始めた怪盗団も、いつしか調子に乗って目的を見失い、大失敗を引き起こしてしまう。
このタイミングもうまくて、プレイヤー自身も忘れがちになるところなんですよね。
そこから大人たちの計略によって物凄く追い詰められながらも、自身の正義と仲間達を信じて計画する一発逆転劇。
そこで活きてくる倒錯モノとしての要素。
プレイヤーは、主人公が思い出している過去を実際にプレイしていくわけですが、時系列順に進んでいくので普通であれば犯行計画なんかもちゃんと描写されます。
しかし、現実では主人公が投獄されて、薬で意識が朦朧としている状況を逆手に取って、肝心の逆転トリックがその瞬間まで思い出さないという。
過去の思い出しから現実時間に戻ってきたとき、トリックを思い出せないというか、裏切り者を推理できないとバッドエンドとなるという、ゲームならではの緊張感のある場面になっています。
仲間に裏切り者がいるというのは、P4開発の時にアイディアがあったけど没になった案ですね。
ピカレスクモノである本作だからこそ入れられた要素でしょう。
そうして裏切り者を出し抜き、最大の危機を乗り越えて一番の悪党を退治したのも束の間、街全体が異変に陥る。
アトラスお馴染み、神や悪魔の類の力が人の無意識から生まれているという解釈、そしてそれが世界を破滅させる力に発展してしまう異変。
物語中は満員の地下鉄に乗って移動する描写がたびたび出てきますが、まさか満員電車をあのように解釈するとは。
渋谷の地下が大変なことになるわけだ。
現代はコロナの影響もあってオフピークが呼びかけられたりするので、あそこまでぎゅうぎゅうな電車というのはあんまり無いかもしれません。
しかし、あの満員電車のシーンをはじめ、本作の中で描かれた東京の人々というのは、確かに2013~2016年当時の人々のリアルさを感じられるものでした。
全ての異変に決着はついたものの、主人公は再び投獄されることになります。
これもピカレスクならではですよね。
悪党として何かを為し、破滅していく。
しかし、やったことは決して誰かにとって無駄にならない。
本作のラストは、主人公が今まで助けてきた人々が、最後に主人公を助けてくれるという展開になります。
どれだけの人が助けてくれるかは、プレイヤー次第。
取引相手だったコープ相手が、絆を深めた仲間になってくれているか。
長時間のプレイの中で、プレイヤー自身がやってきたことが返ってくるという、ゲームならではのエピローグになっています。
ペルソナシリーズはアニメも展開しており、本作もアニメ化されました。
しかし、やはりペルソナはゲームに限ります。
3以降のペルソナシリーズはデフォルト名というものが無いのが通例ですが、それはプレイヤー自身が物語に入ってほしいとう配慮から。
プレイヤー=主人公だからこその展開がありますし、解釈の仕方もアニメとは変わってきます。
普通にプレイするとクリアまで100時間を優に超える長時間プレイになりがちですが、それでも遊ぶべきタイトルだなって思います。
あぁ、そういえば本作の黒幕も衝撃でしたね。
これまでシリーズで担当されていた声優さんが亡くなり、新たな声が当てられたキャラクターが、まさかあんな展開になるとは。
その黒幕が言っていた、主人公が参加した「ゲーム」の話。
本作の怪盗物語は、物語のキーマンから「理不尽なゲーム」と言われますが、黒幕は主人公が「ゲームに参加にした」と言っています。
どこでこのゲームの参加に同意したか。
物語のホントに終盤で出てくるので、なんのこっちゃと忘れているプレイヤーも多いと思います。
そんな人は、もう一度NEW GAMEをするなり2週目を始めるなりしてみてください。
10秒で理解できます。
私もED後、すぐに2週目始めてこれを見た瞬間に鳥肌立ちました。
「ここかーー!!やられたー!!確かに参加に同意してるわー!!」ってなります。
こういうのも、インタラクティブ性のあるゲームならではですよね。
プレイヤー=主人公という図式だからこそ成り立つトリックです。
◆『すんごく動くUI』
ペルソナ5のシステムは、ペルソナ3と4を正統進化させつつ、ピカレスクモノらしく悪党らしい要素を織り交ぜたものになっています。
仲間や街の人との交流をするコミュニティは、取引で物語全体を有利にするコーポレートに。
メガテンお馴染みの悪魔交渉システムは、相手をダウンさせて脅迫するホールドアップに。
マップ上で敵の背後を取ってチャンスを取る攻撃は、隠れながら近づいて奇襲するステルスアクションに。
ボス戦もただ殴り合うだけでなく、仲間を派遣して仕掛けを活用し、一気に勝利を手繰り寄せるシステムになっています。
正々堂々と戦うのは悪党らしくない。
とまぁ、これまで以上に複雑で多彩なことが出来るようになった本作。
ただ、システムが増えるたびに開発側としてやるべきことも増えます。
その1つがUI。
ユーザーインターフェース、つまりメニュー画面とか体力ゲージとか。
キャラクターや背景以外にも、プレイヤーに必要な情報を届ける画面要素のことです。
ペルソナ3以降はデザイン面でもスタイリッシュさが際立っていましたが、特にUIのデザインは非常に特徴的になっていました。
これは他のゲームとの差別化として生まれたものだそうです。
ゲーム中、プレイヤーが一番見るのは、実はキャラでも背景でもなくUI。
UIがカッコいいゲームは、プレイヤーを自然と引き込んでいくと。
その方針を続けていった本作のUI。
何が凄いって、とにかくよく動く。
お店に行って画面が切り替わる時に動く動く。
買ったり売ったりするときも、わざわざ背景が動く動く。
メニュー画面も切り替わる時も動く動く。
メニューの小項目を開く時に、わざわざ別の画面に動く動く。
戦闘中よく見ると、行動するキャラのアイコンが動いてるのが見えるでしょうか?
コマンドを選ぶ時のカーソルもめっちゃ動く。
リザルトでは稲妻ラインに報酬がボボボっと表示される。
UIというのはプレイヤーに情報を届けるものですから、視認性が第一です。
通常、動き回るのはよろしくない。
しかし、本作はメニュー画面も戦闘コマンドもスタイリッシュに動かしつつ、ちゃんとプレイヤーに認識できるように作られています。
このUIの作り方は、ペルソナチームが長年培ってきた研究の賜物。
一朝一夕に真似できるものではないです。
雰囲気だけ似せる絵を描くことは出来ても、ゲームのUIとしてデザインすることはとてつもなく難しい。
こうした、常識を超える挑戦をいくつもしてきたのです。
実はペルソナ5は、J-RPGの枠を外れたことはほとんどしていません。
J-RPGのお約束ともいえるコマンド戦闘、ストーリーを追う形式のRPGです。
それでも世界的に評価されるに至ったのは、裏で限界を超える挑戦をしていたから。
ピカレスク×ジュブナイル×RPGという、ありそうでなかったストーリーラインに挑戦したから。
動き回るUIという、矛盾を超えたスタイリッシュなものに挑戦したから。
大都市・東京を再現するという世界観に挑戦したから。
ペルソナシリーズは間違いなく、世界と戦えるAAAタイトルにまで進化しました。
それはやはり、見えないところでずっと挑戦をしていたからでしょう。
世に潜んでいるうちに、凄いことを成し遂げている。
怪盗団もびっくりです。
そんなペルソナ5ですが、派生作品がまたたくさん出てきましたね。
かつてペルソナ4が出た時、番長をはじめ特別捜査隊の面々が色んな派生作品やコラボを通してアトラスを救ったりしましたが、怪盗団はどうなるんでしょう。
今度は世界へ挑むようになったアトラスと怪盗団の活躍、今後も楽しみです。
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