008:逆転裁判

【タイトル】

逆転裁判

【ハード】

ゲームボーイアドバンス

【販売/開発】

カプコン

【発売日】

2001年10月12日



◆『異議あり!!』


いろんなゲームを遊んでいると、「これは斬新だ!革命だ!!」と思えるようなゲームにもいくつか出会います。

この逆転裁判も、遊んでみて「これは斬新!!」と思ったゲームのひとつです。

他に類を見ない着眼点、そこから生み出されたまったく新しいゲーム性。

今や大人気シリーズとなったこの逆転裁判も、第1作で見せたその斬新さの衝撃たるや。


逆転裁判は、弁護士となった主人公が冤罪で苦しむ依頼人を救うべく法廷でバトルを繰り広げるミステリーゲーム。

公式のジャンルは法廷バトルとなっていますが、分類上はアドベンチャーになりますかね。

物語を読み進めていって、正しい選択をしていき真相にたどり着くというテキストアドベンチャーの流れを汲んでいるゲームです。

ただ、それまでのゲームには無かった魅力がいくつも詰まったゲームでした。



まず、裁判が舞台というのが斬新だった。



もうこれに尽きるといっていいくらい。

大抵の人には縁がないところのはずですからね。

ここに着目した時点で凄かったのですが。



主人公が弁護士。



ミステリーというと大抵の場合、何か事件が起きたときに居合わせて、真相を暴いて真犯人を捕らえることを目的にしています。

そのため、主人公も探偵だったり刑事だったりするのが定番で、弁護士は割とマイナーな役回りでした。

ところが逆転裁判は、まず主人公が弁護士で。

世間では犯人とされている依頼人を助けることになります。

毎回、しくじれば依頼人がすぐ有罪という絶体絶命の状態からスタートですから緊張感が違います。

もちろん、冤罪の依頼人を救う為、真犯人を暴くこともやっていくわけですが。



ムジュンを探す、というゲーム性。



これですね。

弁護士が主役の裁判ゲームという舞台だからこそ生まれた、逆転裁判というものを決定付けたシステム。

裁判では証人が繰り出す証言に対して、主人公が持っている証拠と照らし合わせて辻褄が合わない箇所、つまり「ムジュン」を指摘していくことでゲームが進行していきます。

証人の嘘や思い込みに対して、「これ食い違ってるやん!!」となるものを見つけた時の高揚感たるや。

決定的な証拠を「異議あり!!」の声と共に叩きつける瞬間がたまらないのですわ。


それまでのアドベンチャーゲームというのは、「これを選んだらこうなるんじゃないか」という、プレイヤーは推理というか予想をしながら進めるというのが主流だったと思います。

しかし、本作はよーく読んで探してみれば、明確に答えが出てるわけです。

(たまに『ゆさぶる』コマンドで証言をあぶりだす必要がありますが)

推理というより、間違い探しに近いものがあります。

なので、ミステリー好きじゃなくても、豊富な知識を持ち合わせて無くても、ちゃんと文章を読めるならちゃんと遊べるというわけです。


自分がちゃんと読み解いたという快感と、証人や犯人の嘘をどんどん暴いていく爽快さ。

このカタルシスが病みつきになってしまうんですわ。

全4話(リメイク作である『蘇る逆転』では全5話)の事件が、解決まで一気に進めたくなるんですわ。


そして、これらを盛り上げる為に、キャラクターがいちいち「濃い」。

主人公が「ナルホド君」こと成歩堂 龍一なるほどう りゅういちというオモシロ名前ネームであることなど、序の口も序の口。

ヒロインにして霊媒師(!?)マヨイちゃん、事件の影にヤッパリ矢張、クールで冷徹…なはずの御剣検事みっちゃんとレギュラー陣でさえ濃いのに。

顔が濃ゆい社長プレジデントとか、オバチャンとか、トノサマンとか、オバチャンとか、吸血鬼みたいな検事とか、サユリさんとか、オバチャンとか……


あかん、3話はオバチャンが強烈すぎんねん。

3話の犯人がどんなんやったか思い出せないんだけど……

ともかく、強烈なキャラクターが次々と登場して物語を盛り上げていってくれます。


ディレクターの巧舟さんがミステリーマニアということもあって、ミステリー作品としても非常に濃い内容になっています。

一説には、霊媒というオカルト要素を取り入れてもミステリーが成立することを証明した人として崇められているとか。



◆『これぞスクリプターの職人芸!』


本作を紹介するに当たって、ぜひ元・プランナーである私が紹介したいお仕事が。

逆転裁判シリーズをご存知の方なら、開発ブログで語られたことがあるので知っている人もいるでしょう。

スクリプターという役職を!


スクリプトというのは、画面に「何を」「どんな風に」表示するかを命令する簡単なプログラムのこと。

逆転裁判のチームには、このスクリプト入力を専門とするスクリプターがいることで知られています。

とは言ってもスクリプトがどんなものか、ゲーム開発に興味が無い人にはいまいちピンと来ないかもしれません。


そうですね…一般的な美少女ゲームを思い浮かべてください。

画面の下3割くらいがテキスト表示欄となっているゲームです。

舞台設定として通学シーンにしましょうか、背景が学校へ向かう通学路としましょう。

真ん中にヒロインが表示され、笑顔で「おはよう」と語りかけてくる。

台詞に合わせてポポポと効果音がなるようにもしましょうか、逆転裁判みたいに。


想像できました?

では、このワンシーンのためにどんなスクリプトが必要か。



<背景:通学路><BGM:日常>

<キャラクター表示:ヒロイン、表示位置:真ん中、表情:笑顔>

「<表示効果音:ポポポ>おはよう<//表示効果音ここまで>」

<ボタン入力待ち>


<>で囲んでいるのが演出に必要な命令、つまりスクリプトです。

たった一言言う為でもこれが必要です。これでも超ざっくり版です。


次の台詞で表情が変わって台詞を言おうものなら、


<キャラクター表示:ヒロイン、表情:普通>

「<表示効果音:ポポポ>今日は暑いね~、汗かいちゃう<//表示効果音ここまで>」

<ボタン入力待ち>


みたいな感じで、台詞だけでなくスクリプトを入力していかねばならないのです。


テキストアドベンチャーゲームで凝った演出を作るには、大抵はスクリプトが必要になります。

大凡の仕組みはプログラマーに作ってもらい、プランナーが実際のシナリオと一緒に演出として書き込んでいくものです。


さぁ、逆転裁判を遊んだことがある人ならばご存知でしょう。

ただ喋ってる時だけでさえ、キャラクターの表情が目まぐるしく変化したり、話す速度が変わったり、ビシッと効果音が鳴ったりすることを!

特に、追い詰めた犯人が半狂乱になる、いわゆるブレイクシーンなんかは手の込み方が凄まじいでしょうね。



「<表情:怒り><効果音:ビシィッ!><画面効果:フラッシュ><文字速度:速さ4>ちくしょう、<待機:0.4秒><表情:怒り2><効果音:ビシィッ!><画面効果:フラッシュ>ちくしょう、<待機:0.4秒><行送り>

<表情:怒り3><効果音:ドゴーン!><画面効果:フラッシュ,揺れ><文字速度:速さ5>ちくしょうがああぁぁぁぁ!!!<待機:1秒>」

<ボタン入力待ち>


こんな感じでしょうか?(台詞は適当です)

もちろん実際のコマンドがどんなものかは知りませんが。

さすがにここまで不便なコマンドではないと思いますが、考え方的にはそう間違ったものでもないと思います。


コマンドの入力だけでなく、文字速度や効果音のタイミングなども絶妙に調節し、キャラクターの「濃さ」をより引き立てていく。

細かな演出を積み重ねて違和感無く仕上げる、本当にもう職人芸の域です。

とりあえず、スクリプターというものの凄さがちょっとでも伝われば幸いです。


実際にシナリオを作るのとはまた別で、演出面で専門家がいるという点でもテキストゲームとしては特異な点です。

もっとも、これはシリーズが続いた後発タイトルの開発ブログで書かれた話ですが。


第1作の時点では開発チームもかなりの少人数であったことが知られています。

なので、演出も込みでシナリオを考えてたんだと思います。

後のシリーズの礎となったものですから、第1作の時点で相当にハイセンスだったんだと思わずにはいられません。


ともあれ、こうした演出をあそこまでバシバシ使ったアドベンチャーというのも当時としては新鮮なタイトルでありました。

逆転裁判のキャラの濃さは、シナリオの妙だけでなくスクリプト演出によるインパクトの強さも大いに起因してるのだと思います。



◆『第1作の衝撃』


この第1作の衝撃は、ゲームボーイアドバンスであった当時でも比較的早く体験することが可能でした。

その斬新さを体験してもらう為にWEB上で体験版が遊ぶことが出来たのです。

わざわざ本編とは微妙に異なる台詞まで用意しているという徹底振り。

「必ず追い詰めてやるさ!製品版でな!!」

というのはもはやシリーズの恒例行事となりつつあります。


私はこのシリーズ大好きで、ナンバリング6作はもちろん、スピンオフである逆転検事2作や大逆転裁判2作も遊んでいます。

ただそのいずれも、この逆転裁判・第1作の衝撃があったからこそ存在しているのだな、と思わずにはいられないです。

斬新なゲーム性と、強烈なキャラ達によるインパクトの強い物語。

最初っから全力で叩き込まれた、このゲームの「濃さ」こそシリーズ化に繋がる源なのですから。


少人数で作り上げた第1作。

開発は相当大変だったんだろうけど、きっと楽しかっただろうなとも思います。

今までに無い作品を作ること、ましてや自分の好きなものをやらせてもらうのって、クリエイターとしてはとても名誉なことですから。


大人数での開発が基本になっている現代では、なかなかこうしたチャンスって巡ってこないですからね…

正直、羨ましい限りです。




さて、結構語らせてもらったんだけど…


何か忘れてることはないかな?












「DL6号事件を忘れるな……」


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