セカンドダイス 第8話

「いやー。楽しかったです。久しぶりにこんなに楽しめました。ありがとうございます」


 鎌田かまた君が手を伸ばしてきて、一瞬なんのことだかわからなかったがすぐに握手を求められているのだと気づいて、同じように手を伸ばした。


「こちらこそありがとうございます」


 ちらりと、智也ともや君が遊んでいる机の方を見る。遊んでいるのはキャンバスだ。わいわいしながら絵の完成を目指してお目当てのカードを取り合っている。


「向こうはもう少し時間がかかりそうですね。あっ。そうだ、今度ボードゲームの大会やるんですけど。よかったら大田おおたさんも参加しませんか?」


 嬉しそうにそうそう話しかけてくる鎌田君は純粋に楽しくて誘っている様子にしか見えなくて、本来の目的を忘れてしまいそうになっていたことを思い出す。


 ついにボードゲームの大会のことを自分で話始めた。ここまで引き出せたのだから、上出来と言える。


「ほう。大会なんかもやってるんですね。興味はありますよ」


 興味津々だ。それと、月額料金について詳しく聞きたいところでもある。しかし、焦ってはいけない。せっかく向こうから誘ってくれているのだ。それに乗り続けるだけでいい。


「だいたいはカタンを使ってやってます。たまに宝石の煌きとかも。参加費がかかるんですが、上位に配分しなおすので、みんな真剣になってくれるんです」


 まるでお金がないと真剣にならないような口ぶりに少しだけ感情が高ぶるが、そこは抑える。


「なるほど。具体的には、どんな感じなんです?」


 少しでも決定的なものを引き出したくて、仕方がないのだ。それは自分が一番わかっている。焦るな。そうずっと考えながら聞く。


「参加費は5000円ですけど。賞金は30万ほど出せます。


 ずいぶんと高めの設定で驚いてしまった。それが表情に出ているのだろう。鎌田君はしてやったりな顔で笑っている。


「驚きますよね。だからってわけじゃないですけど割とたくさんの人に参加してもらえてるんですよ」


 賞金が参加費から出ているのだとすると、割とな人数ではない。そんな人数が入る会場を用意するのもだけれど、その人数分のボードゲームを用意するのも一苦労だと思う。

 話が思っていたより大きすぎて、どう攻めようか考えあぐねてしまった。


「参加して常連になれば、ここの場所代も免除になりますし、ボードゲームで遊び放題です」


 そうこうしていたら鎌田君の方から気になる内容を話し始めてくれる。この調子で話してくれるのを待ってもいいのだけれど。話がそれてしまうのは止めたかった。お金の話どうにか戻そうとする。


「ここの場所代って、私たち払ってなかったですね。おいくらですか?ふたり分いま払っちゃいますよ」

「あっ。それなら今日は始めましてなんで大丈夫ですよ。次回からいただきます。そもそも紹介で来ていただいたんで、お試しですし。楽しませてもらったりもしてるんで、ほんと大丈夫です」


 なにが大丈夫なのだろうかと、経営者としてはきになってしまうが、別に出資者でもいるのか他に資金を調達する手段があるのかと疑ってしまう。


 だからと言って素直に大丈夫ならそれはそれで怪しいとは口にできやしない。決定的な話が出てきそうで出てこない。

 智也君の机の方から最終ラウンドという言葉が聞こえてきて、合流してしまえば聞きにくくなるし、この場所だって前のときのように消えてしまうかもしれない。


「あの。噂で、賭け事みたいなこともやれるよって聞いたんですけど。そのあたりってどうなんですか?」


 あくまでも好奇心で聞いているように見せる。警戒されては元も子もない。


「あれ。そんなことまで聞いてるんですか。やだなぁ。ほんのお遊び程度ですよ。大きなお金は動いてないです。ちょっとお小遣いを使って遊べる程度。気にしないでください。身内のおふざけみたいなもんです」


 否定はしなかった。宣伝して集めているわけではなく、あくまでも仲間内のことだから問題ないと言いたいらしい。でも小室こむろさんは実際に誘われたし、そのことに少なからず恐怖心を抱いたのだ。そんな気軽な気持ちでいられるなんて、今すぐにでも憤慨してしまいそうになる。


「大丈夫なんですかそれって」


 口に出して鎌田君の表情が目つきが鋭くなったのを見てから、しまったと思った。


「大丈夫でしょうよ。金額も大きくない、完全にお遊びの範疇です。だれかが苦しむようなことは起きていない。むしろ。みんなが楽しんでボードゲームをしている。誰にも迷惑をかけていなかればそれでいいでしょう」


 迷惑は少しづつだけど周りに飛び火し始めているのだ。小室さんだったり、ミホちゃんだったり。それはまだ表面化していない小さな火種に過ぎないのだけれど、それがいつの間にか大きくなってしまうことは十分に考えられる。


 そのことに気付かずに前に進むことも若さの特権だとは思うのだけれど、その先に待っているものが引き返しのつかないものになる可能性があるのであればそれを止めたい。


「なんだ。もしかしてその噂を聞いて、どういかしようって飛び込んできたんですか?だとしてら余計なおせっかいってやつですよ太田さん。老婆心が過ぎます。俺たちは楽しく遊んでるだけですので」


 それだけで済むはずがない。でも、単なる老婆心と言われたらその通りだとも思う。でも、きっと伝えなきゃいけないことがあるはずなんだ。そう思いをまとめるけれど。上手に出て来やしない。


「でも……」


 言葉を出さなくては追い出される。必死に何かを手繰り寄せるように口を開いたその時だった。


「おい!鎌田はいるか!」


 ひときわ大きな声が部屋中に響いた。


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