相手になりたい 第6話

「そしたら次は、鍵番号を決めておきます。数字が1から6まであるタイルがあるんだけど、金庫カードの上に私が裏向きに伏せておくの。使わなかったタイルは他のチップと混ぜて、これもどう使うかはまたあとね。同じように弱点を決めて」


 そう言いながらチヒロは白木の杭、ガソリン、錆びた鎖。その中からこちらに見えないように1枚を選ぶとハコオンナが書かれたタイルの上に隠したまま置いた。


「これも他のチップと混ぜるね」


 残ったチップを他のと混ぜていく。


「ねえ。そのチップってさっきから混ぜてるけどなにー?」


 ハルがが準備ばかりで我慢できなくなったのか、そう問いかける。


「それはね。これからこれを裏面のままマップタイルに描かれている、物陰に置いていってもらいます。あらかじめ置く場所が決まってるチップはこちっで置いてくのでそれ以外をお願い」

「どういうことー?かくれんぼって言ってたけどもしかしてこれってこれのどこかに隠れてるってことだったりする?」

「正解ー。アイテムだったりハコオンナの弱点だったりを伏せてあるチップをめくって探していって脱出を目指してもらうの。脱出する方法はまたあとで説明するね」


 なるほどと敬子けいこは自分の中で納得する。逆かくれんぼとはよく言ったものだ。各部屋に置かれたチップの中に隠れているハコオンナをゲームなのだ。


「あれ?一箇所だけ置く場所が余ったよ?」

「ああ。それはこれから私が置くんだよ。ハコオンナの亡骸とハコオンナのチップもこの中に隠すよ。空いたところに置く訳じゃなくて移動させるから油断しちゃだめだよ。というわけで全員目を閉じてください。合図するまで開けないでねー」


 チヒロに言われるがまま目を閉じる。それを確認したのかチヒロがゴソゴソと動き始める。チップを移動させているのだ。


「えー。なんか怖いね。何してるのかわからなくてドキドキする」

「こういうの新鮮かも。あんまり他のゲームにないよね」


 感想を言い合うふたりをよそにチヒロはがもくもくと動いているのがわかる。そんなに動かせないはずなので、フェイクを混ぜているのかもしれない。


「さ、目を開けていいよ」


 チヒロに言われて目を開ける。動かした形跡があるかどうか確認するけれど、そんなにあからさまに分かることは流石になさそうだ。


「んで、手記が10枚あるんだけど、これがハコオンナの力なの。これを私は3枚みてそこから1枚選ぶね。これは内緒だから教えてあげないよ。これもチップをめくっていくと使える力が増えていくので注意してね。あとは順番に今いる玄関から移動しながらチップをめくっていくの。そしてイキノコルミチを探してもらいます。方法は3つね」


 チヒロはわかりやすくするためか説明書を見せながら説明してくれる。


「まずは脱出。鍵番号を探しあてて金庫のダイヤル場号を予想して金庫の番号3つを当てられたら鍵束をゲット。その状態で秘密の脱出口を覗き込んだら脱出成功でクリア」


 ひとつめは脱出方法を見つけて洋館から出ればいいのか。ホラーっぽい展開ではある。


「ふたつめは討伐。ハコオンナの弱点を探って弱点であるアイテムを入手したあと、ハコオンナが隠れている物陰にそのアイテムを使用できたら討伐成功」


 退治できるのかと少し感心してしまった。確かにホラー映画では定番な展開。弱点を探るのにリスクが伴うのもそれっぽい。


「みっつめは供養。メリーさん人形を次所持した状態で亡骸を覗き込めたら供養成功」


 供養も出来るのならそうしてあげたくなってしまうのはストーリーに入り込んでいる証拠なのだろうか。

 そこまで説明してからチヒロが溜まっていた空気をすべて吐き出すかと思うほど大きく息を吐き出した。


「とまあ駆け足で説明したけど、条件が揃っていない状況でハコオンナを除き込んでしまったら、ハコオトコとしてこちらに協力してもらったりとかまだもうちょっとルールはあるんだけど、要はハコオンナを見つけずにイキノコルミチを達成してねってゲームです。私は当然それを阻止する役目。さ、かかってきなさい」


 そう気合を入れて袖をまくりそうな勢いのち尋に飲まれそうになるのがわかる。これはチヒロ対3人の戦いなのだ。チヒロの気合の入りようもうなずける。


 チヒロは説明書を手に取るとストーリーを読んだ時のように一段階声を低くして読み上げ始めた。


「バタンッ!大きな音を立て、玄関の扉を閉じてしまう。次にこの扉が開くのは、生きている人間がこの館からひとりもいなくなった時だ。もう誰も……この館から出られない。ようこそ、ハコオンナの館へ」


 その宣言の元、ゲームが開始した。

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