相手になりたい 第5話

「はい。と言うのがハコオンナのストーリーです」


 さっきまでのおどろおどろしい雰囲気を振り払うかのようなチヒロの元気いっぱいの声はセカンドダイスに良く響いた。まだ、お客さんは集まってきていないようで注目されるようなこともない。智也ともや君がこちらを微笑ましく見ているだけだ。


「えっ。私たちその洋館に入っちゃうの。拒否したいです」


 ハルが冗談交じりにそんなことを言い始めるが、それを言ったらゲームが始まらないので、ミツルがまあまあと、なだめている。


「こうやって導入部分をしっかりしているゲームなんだよね。箱も怖いし、夜に雰囲気あるところで遊ぶともっと盛り上がるかも。それから、あっ、準備進めながら話すね」


 どこかワクワクしているチヒロはホラーは得意なのだろうか。いやきっと好きに違いない。敬子けいこはどちらかと言うとホラーは苦手だ。お化け屋敷とか仕掛けの1個1個にしっかりと驚いてしまうし、驚きすぎてお化け役の人の足を踏んで声を出させてしまったことがあるくらい。

 一緒になって笑ってくれた旦那の顔が思い浮かんで思い出に浸ってしまった。ルール説明しますよ?とチヒロに声を掛けられて我に返る。


「ハコオンナは訪問者側とハコオンナ側に分かれます。ハコオンナはひとり。これは私がやるね。みんなは訪問者側。導入ストーリーでもあったけど、変わったかくれんぼをするの。逆かくれんぼなんて言われてるけど、隠れているハコオンナを見つけちゃうとやられちゃうのね」


 そう言いながらチヒロは説明書を読みながら手際よく必要なコンポーネントを並べていく。玄関とかホールとか部屋のタイトルがついたタイルを次々と並べていく。


「これがマップタイル。毎回ランダムで洋館の形を決めていくの。順番に引いてもらってつながるところに置いていくんだけど。今回は最初だしこっちで並べちゃうね。慣れたらこの辺りの構築も考えることが多くて面白いよ。みんなはどのアイテムがいいか直感で良いから選んでね」


 そう言って6枚のカードを手渡してきて、それをハルが全員に見えるように広げてくれる。


「えっと。ダウジングロッド、演繹的えんえきてき推理法、深菱ふかびし神社の鈴、聴診器、ポックリさん、スマートフォンの6枚だね。私スマートフォンがいいな。チヒロが何考えてるか見透かしてやるんだから」


 導入でもそう言う役回りだったし。そう続けるハルはしっかりハコオンナの世界に没入しているように見えた。


「じゃあ、私はなんだろ。ダウジングロッドとかでいいかなぁ。大雑把にどこにいるかわかるアイテムだね」


 ミツルもどんどんと決めていってしまう。そうなると残されるのは敬子だ。手渡された残り4枚のカードをじっと眺めるけれど書いてあることの意味がよくわからなくて決断できない。書いてある意味はもちろんわかる。でもその書いてることがどのようにゲームに作用するのか想像ができなくて選べないのだ。直感と簡単に言われても困ってしまう。


 こういうのには最善手があるように思えてならない。でもそれを判断できない以上。選べない。さらに3人がこちらが決めるのをじっと待っているのもいたたまれないのだ。この辺ってどうやって決めているんだろうと疑問に思ったりもして何度か尋ねて見たこともあったのだけれど、なんとなくとか、感とか、経験値とか。参考にならない答えばかりだった。


小室こむろさん?どうかしましたか?」


 考えすぎてしまっているのだ。それはわかっている。それでも選べない自分自身を敬子は嫌っている。そうも言ってられないから笑顔でミツルにそう返す。


「どうもしないわ。どれがいいのか迷っちゃって。どれも怖いこと書いてあるのね」


 どのカードを読んでも同室にハコオンナがいたら死ぬと書かれている。つまりゲームオーバーなのだろう。使い所を考えないといけないのは分かるが踏ん切りがつかない。


「じゃあ、このポックリさんとかどうです?直接場所を指定して質問できますし、ある程度場所が絞れていればリスクも少ないはずです」


 ミツルがそう答えてくれるのを聞いて思わず感心してしまう。そういう考えで決めればいいのかと思う反面、自分にはずっとできないのかもと落ち込んでしまったりもする。決してそれを悟られることはしまいと必死に感情を抑える。


「じゃあ。それにしようかしら」


 そう言ってポックリさんのカードを手元に残して、残りのカードを箱に戻した。誰かと一緒にに部屋をひとつ指定してそこにハコオンナがいるかどうかを質問することが出来るアイテムだ。


「アイテム選び終わった?こっちも洋館が作れたよ」


 一生懸命並べていたチヒロがこちらを見渡して自慢げに手元を見せてきた。玄関と1F ホールから始まり、居間、食堂、浴室と便所、赤い部屋と書斎、厨房と物置6枚のタイルが長方形にくっついていて、そこから少し離して2Fと青い寝室、子供部屋が置かれさらに地下室が1枚置かれている。

 つまりはそういう洋館の間取りだということだろう。


「えっ。すごいねこれ。ちゃんと洋館が出来上がってるじゃん。しかも雰囲気暗くてちょっと怖い」


 ハルが身を乗り出してその洋館をまじまじと眺める。ミツルもそれに続き、敬子もその後を追う。


「この怨って書かれた部屋ってなに?」


 赤い部屋と子供部屋に赤い文字でそう書かれているのは不気味だ。話から察するに怨みが強い場所ってことだと思うのだけれど、ボードゲームのルールとしてどうゆう扱いなのかは気になる。


「あとで詳しく説明するんだけど。その部屋がハコオンナの初期配置場所の可能性があるところなの。彼女の怨みが強いってことなのかな」


 だからなんでそんなにウキウキなのだと突っ込みたくなるくらいにはチヒロは明るく怖いことを言う。もしかしたら、癖の強いメンツに囲まれているんじゃないかと今更ながらそう思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る