所詮は遊び 第12話
セカンドダイスが入っているビルの外階段は実はちょっとだけ景色が良かったりする。目の前にビルがなく、見えるのは屋根ばかりなのだ。駅に近いけれどビル群の端にあるので、見通しだけはいい。
夏は日が長いと言っても流石に閉店間際まで遊んでいたのだ。街は暗闇に埋まっており、そこから自分をアピールするかのように明かりがところどころ灯っている。
閉店間際は帰宅する人も多くてエレベーターホールは人でいっぱいになってしまっていた。運動不足な人が多いのか階段を使おうとする人はおらず、さらには目黒さんもそのホールにいたので、4人で視線を交わすと相談することもなく決めていた。その目黒さんはずっと居心地悪そうにしていたのだけれど、そんなことは知ったこっちゃない。正直もっと困ればいいと思う。
「どうしたのよ。らしくない」
思わず言ってしまった。見ていられないんだ。そんな姿。なんでかわからないけれど。
「分かんなくなっちゃって。なんでボードゲームやってるんだとか考え始めたら止まらなくて」
せき止めていた感情が一気に溢れ出すかのように話始める。初めてみる千尋のそんな姿に戸惑いを覚える。
「始めた頃は楽しくて仕方がなかったのに、最近なんか余計なことばかり付属し始めて。考えることが多くなってきて。知らなきゃいけないゲームがあるとか、新しいあれ面白いらしいよとか。そんな雑念ばっかり入ってきて。なにかに追われるようになってきて。なんでボードゲームやってるんだろって」
きっと真面目に向き合っている千尋のことだ。色々なことを考えすぎて袋小路に行き止まってしまったのだろう。それも悪くないんじゃない。そう思いもするれけれど、とてもじゃないが今の状態の千尋には言えない。もっと落ち込んでしまいそうだから。
「所詮は遊びなんでしょ?」
「えっ」
そんなに驚いた顔をしないで欲しい。今日、自分で言ったことだ。
「もっと気楽に考えればいいんじゃないの?」
これも千尋の言葉だ。君はもう答えを出してるじゃないか。そう思うのだけど、そんな簡単な話じゃないんだろうな。美穂だってそう口にはできているけれど、その感情はもっと複雑に絡み合っているんだ。そんな簡単にほどけるほどこの問題は簡単じゃない。
それでも。
「千尋。あんたはそう口にしたんだ。それがいちばん大事なことだと思うよ」
「そっか。ありがとう。美穂。珍しいね。そんなこと言ってくれるなんて」
確かに珍しい。考えると最近感情が制御できないでいる。こんなことじゃ、自分の目標を達成することなんてできない。ボードゲームと一緒。どこかは割り切って自分の選んだ目標を達成しなくては。
母の顔が思い浮かぶ。いつだってどこか疲れた顔をしている。どうにかしてあげたくて頑張ろうって決めたのに。こうやって楽しんでしまっていいのだろうか。どこかでそう思っている自分がいる。
利用するためのボードゲームが楽しみになってきてやしないか不安になる。
「珍しいって失礼じゃない?」
そんな風に笑って返すのも自分の心を必死に隠したいからだ。
「そっか。そうだよね。でもありがとね」
随分とスッキリとした顔の千尋が眩しくて直視できなくて階段を降り始めながら照れているであろう顔を隠す。
スマホの通知が鳴ったのはそんな時だった。
『やっほー。今度のボドゲ会は来週の土曜日ですー。参加待ってるよー』
定期的にくる
「どったの?」
急に足を止めたのが気になったのか千尋が覗き込もうとしてくる。
「わっ。ちょっとやめてよ」
慌ててスマホをしまう。
「なんで隠したのー?」
元気になった千尋はめんどくさいかもしれない。
「なんでもないからー」
そう口にしながら、もっと新しことに挑戦しなくちゃいけないのかもしれない。そうしなくてはこの温かい空気がどんどん居心地がよくなってしまう。そう思う。
「なになにー。なんか面白いことあったの?」
「どうしたの?」
下からふたりの声も聞こえてくる。
「あー。ほんとめんどっくさい」
逃げるように階段を駆け下りる。蒲田先輩へどう返信しようか悩みながら。どんな人がいるのだろうとちょっとだけワクワクしながら。ドキドキしながら。階段を降りきったふたりを躱しながら。ちょっとだけみんなを振り切ろうと思った。
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