所詮は遊び 第10話

 リトルタウンビルダーズは順調に進んでいった。次々と建物が建ち並んでいき草原ばかりだった町が賑やかになっていく様は壮観だ。それも可愛い建物ばかりなのだからなおさらテンションは上がる。それと同じように悩ましい選択も増えていくのだがそこは目標カードという指針に従えばいいので比較的選びやすい気がする。


 それにしても目標カードを達成するためにも石を4つ必要な教会を建てたいのだけれどなかなかどうしてうまい具合に石を確保できない。その原因のひとつが食糧問題だ。ラウンドの終了時に払わなければならないワーカー分の食料確保が優先されてしまうのだ。狙えるタイミングがあっても他の誰かのコマが置かれていて石が2つ手に入るタイミングを逃し続けてしまった。そんなことをしているうちに、2ラウンドも美穂みほはるがあと1ワーカーを持っているだけだ。春が最後の手番なのはラウンドが終わるごとにスタートプレイヤーが左隣に移るからだ。


「石ほしいからここ」


 山が2つ連なっているところのそばに千尋が置いた石材所が置かれているのでそれを利用させてもらう。石材所とは2金をストックに支払うことで石を3つ獲得できる建物のだ。他のプレイヤーの建物を使うには1金を支払う必要があるのでそれだけで3金が必要なのだけれど、次のラウンドは二番手が自分の番、右隣に座っている千尋が石を2つしか持っていないので、教会を建てられる可能性は高い。


「あー。教会狙ってるでしょー。私が欲しかったのにー」


 春が騒いでいる。春の石も貯まってきていたので狙っていたのだろうけど、手番が回ってくるのが早い以上、こちらが有利だ。これも勝負だし、仕方ないよね。


「勝利点は効率よく稼がないとねー」


 そう自分で言いながらも教会の効果である3金を払って勝利点変えるためにお金を貯めなくてはならないのだけど、今支払ってしまったばかりだし、どうしようか悩ましいところだ。麦を金に変えるパン屋さんは春に取られてしまっているし、勝利点につながる行動も出来ていない。だから正直焦っているだけだ。狙いがバレているのがその証拠。選択する手が単調になっているのだろう。それが露骨にならないように余裕を持って振る舞うしかできない。


「じゃあ。私はここー」


 気楽にマーカーコマ置いていく春が正直うらやましく思う。そんな風にすぐに決断できればこんなに悩まなくても済む。あれ。一体何に悩んでいるだっけ。自分でもわからなくなってきている。これからの人生が。大学に入って始まる道が。ついこの前までハッキリと見えていた気がするのだけれど。どこからこんなに霧がかかったかのように見えなくなってしまったのだろうか。


 その後も、特に難しい局面を迎えることなく進み。狙い通り、次のラウンドで教会を建てることに成功したので目標カードを表にして勝利点をゲットする。


「目標カードか。あんまり考えてなかったかも」


 千尋が余裕とも取れる発言をする。目標カードなくても得点を稼ぐことが出来ると言うのか。ゲームが進んでいく過程でわかったのだけど確かに目標カードひとつより建物ひとつの方が勝利点が高く設定されている。そして千尋は最初に獲得した木材をちゃんと活用して建築し続けている。食材を獲得するのも最低限。先を見てよく考えて動いているのが伝わってくる。


「なんか余裕だね。もうちょっと欲張って資源集めたほうがいいのかなぁ」


 美鶴みつるが堅実な自分のプレイを見直しするかのように色々数え始める。他のプレイヤーが建てた建物を使うのを渋ってお金を貯めていたのだかれど、それをどう使っていくのか計算しているみたいだ。


「私はこのまま麦、一直線!」


 畑を大量に建ててそれを麦を勝利点出来る穀倉で勝利点に変える作戦みたいで次に建てようとしているのが見え見えだったりする。建てるための木材が足りないので横取りしたりはできそうもない。


 各自、作戦がまとまったみたいに見える。幸い重なっている作戦が無いみたいでこのまま各自、自分の伸ばせるところを伸ばしていった。


「よしっ!これで最後!」


 千尋が元気よく井戸、工場、教会と勝利点を稼ぐための建物の効果を残った資源を使ってきっちりと稼いでいくのを見ていることしか出来なかった。


 えっ。そんなに一気に稼げるのとみんなが同時に思ったはずだ。それくらい破竹の勢いで得点ボードを千尋のコマが進んでいった。それにここから建物の勝利点が入るのだから、恐ろしい。


「あー。負けだよねー。千尋強すぎー」

「ほんと、止められなかったー。ね。もう一回やろ。今度はランダムでタイル選んでさ」


 春も美鶴も悔しそうにしながらも顔は笑顔だ。それに次に試したいことがあると言わんばかりに次のゲームを待ち望んでいる。トライ&エラー。ボードゲームの楽しみのひとつだ。さっきだめだったことを考えながらより良くしていく。ここにも楽しみは転がっている。


「もう大丈夫みたいだね」


 仕事の合間にちょくちょく様子見に来てくれていた店長が優しく微笑んでいた。自分の役目は終わったと言わんばかりの笑顔に全員で一斉に頷いた。

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