所詮は遊び 第4話
「あー。難しくなかったけど、面倒だったー」
「うるさいなぁ。そんな大きな声出さなくてもわかってるよ」
美穂もそう言ったものの、気持ちはおんなじでようやく解き放たれた開放感からか大きな声を出したくなる気持ちもわかる。
文系の学部に通っている大学生なんてみんなそんなものだろう。しかも一学年の前期テストだ。しょっぱなからそんなに難しいことを要求されるはずもなく気楽なものだ。
でもサークルの先輩たちから、それに慣れるなよ。慣れると後戻り出来なくなるよ。と釘を刺された。なんでもこれに慣れてしまうとそのままズルズルと勉強しないようになり、仕舞には単位を落とすことになるんだと言っていた。テスト期間だけ顔を出すようなやつらがそうだとも。
そう言われたってその当の本人たちに緊張感がないのだから後輩に伝わるはずもない。きっと後期もこんな感じになってしまうのだろう。
「ねー。ボドゲしよ。ボドゲ。久しぶりにさ。何かオススメある人!」
相変わらずうるさい声で春が美穂と千尋と美鶴に話しかける。一応勉強すると名目のもとボードゲームはしていなかった。
サークル部屋でだれかがやっていると、俺も俺もと参加してしまってその無限増殖により単位を落とした人がいるという理由から禁止になっていたのだ。
だからといってボードゲーム好きがそれくらいで止まるはずもなくセカンドダイスに行く先輩たちは大勢いた。だけど美穂たちはそれについてくことはしなかった。初めての大学での試験、緊張していたのもあるが、先輩たちについていけなくなっているのもある。
熱心にこのボードゲームはこの定石がとか、始めにこの動きをしないと取り返しがつかないとか、最初のうちは丁寧に教えてくれるんだなと思っていたのだが、時間が経つにつれ遠慮がなくなりだすとどうやらそれが間違いであることに気付いた。
先輩たちはどうやら自分たちが望む展開があるらしく、それ以外の展開になるのが嫌なだけらしいのだ。
ゲームなのだから最適解みたいなものがあるのはなんとなくわかる。でもそこに辿り着くのを試行錯誤しながら楽しむものではないのかと、思い始めた辺りで距離を取り始めた。美穂だけではない、1年全員がそうだ。
だから自然と心理戦をするゲームをやることが増えていったのだろう。決して考えて遊ぶことが嫌いなわけじゃないのだが、たとえ4人で遊んでいたとしても後ろから必ずと言っていいほど口を出してくる人はいた。
「ねー。これはー?スティックスタック。頭使いっぱなしだったし、いいんじゃない?」
そう言って
「あー。いいんじゃない。テスト終わりには頭使わなくて丁度いいかも」
おんなじようなタイミングでサークルに入ったはずなのに千尋の知識量には驚かされる。これも恋の力か。セカンドダイスの彼と千尋が仲良く遊んでいる姿を想像してしまう。羨ましくなんてない。だって彼に将来性なんてなさそうだし。
千尋の言葉を聞いて美鶴が箱の中身を取り出して組み立て始めた。箱に描かれている絵と同じものが出てくる。慣れた手付きであっという間にそれを完成させる。
箱ではわかりにくかったけれど六角形の皿には六角形の平行の辺が同じ色が塗られていた。つまり全部で三色。赤、オレンジ、青だ。
「なにそれ、このゲーム知らないんだけど」
春が横から入ってくる。ちょっとだけ胸をなでおろす。正直ひとりだけ知らないゲームとかは勘弁してほしかった。できるだけおんなじスタートがいいよね。
「このお皿に色があるでしょ。その色の場所に。この……」
美鶴は説明しながら黒く長細い袋から棒を取り出した。箱にもたくさん描いてあるその棒は皿とおんなじ配色があるのかオレンジと青が半分ずつ、そして端っこが白くなっている。
「ランダムで取り出したこれをね。色が合うように乗せていくの」
そうやって美鶴は棒を、六角形の皿に器用に置いた。
「んで、白い部分は真ん中にあるここに差し込むと。ほら」
箱絵からはよくわからなかったけれど、六角形のお皿の中は白くなっていて中心に丸いテーブルのような突起があった。美鶴はそこに棒の端っこを差し込んだのだ。そして色がちょうど辺に当たり同じ色が触れ合っている。
「こうやって順番に積んでいって棒が崩れたりしたら減点。台ごと倒したらそこで終了がルールみたい。でも、最初だし積んでくだけで楽しいんじゃないかな」
つまりは棒を乗っけていくバランスゲームなのだろう。ジェンガみたいなやつ。
でも問題はその棒が途中で途切れていてどうやらバネで繋がっているということだ。ぐにゃっとなっていたはのはこれが原因なのだろう。
つまり棒を乗せるたびに揺れるのだろうし、上手にバランスを取らないとならないわけだ。
「なんかいつもと違う難しさだね」
自分でも妙な感想を述べてしまったものだと思う。それでもみんなうんうんと頷いてくれている。なんだかそれが妙におかしくてみんなで笑いあった。
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