所詮は遊び 第5話
「えっ。こんな配色あるの?」
確かにこういったゲームはあんまりやってるところ見ないかも。改めて考えるとそう思えてくる。
「こっちの白いのを真ん中に差し込むと辺が白いところと触っちゃうのか。でも逆に差し込むとバランスが」
春は悩みながら宙に浮かせながらあーでもないこーでもないと頭を悩ませている。
「棒と棒を橋渡しするように置くんだよ」
なんであんたはそんなにいつも楽しそうなのだろうと不思議でしょうがない。きっと人生が楽しくて仕方がないんだろうなとも思う。サークルに恋愛に大学生活に。全て順調なのだ、きっと。
受験する時点で間違えてしまった自分とは大違いだ。
「おー」
春が助言された通りに棒を置くとギャラリーから歓声が上がる。確かに拮抗が崩れてバネが明らかに曲がったのがわかった。そしてなぜか得意げな春。
なんだかんだで器用な春は危なげもなく棒を乗せたのだが、だからと言ってそんなに嬉しそうにする必要があるの。と疑問に思ったりもする。
あーやだやだ。自分でもわかっている悪い癖。すぐに他人のあら捜しばかりしてしまう。だれも幸せにはなれない嫌な癖。
「ほら。次は
いくら手触りを確認しても色が分かるわけでもない。意を決して一本の棒を引き抜いた。
「これまた、難しそうなの引いたねー」
そんなことをは引いた自分が美鶴に言われなくても一番わかっている。先ほど春が置いて傾いた側には置きたくないが反対側には置けそうな色がなく、無理に置こうとすれば崩してしまいそうだった。
美鶴としても事実を言っているだけでからかっているつもりはないのだろうが、その無邪気な感じに少しだけ苛立つのも確かだ。
同じくギャラリーもどこに置くのがいいのか勝手に議論を始める。あーだこーだ言っているのを聞いていると頭が混乱していくのが分かる。一刻も早くこの状況を打開したい。その思いで必死に考える。
慎重にでも大胆に置かなくてはいけない。何本も棒が置かれているそのお皿は少し触れただけでもグラリとバランスを崩してしまいそうに見えてきて手が震えてしまう。
「もっと気楽に置いていいんじゃない?所詮は遊びなんだしさ」
千尋からそんな助言が飛んできて、驚いた顔をしてしまったのを美穂自身も分かるくらいに驚いた。
あんたがそれを言うのか。負けず嫌いでいつだって真剣にその遊びであるボードゲームに向き合っていて、そんなセリフを一番言いそうにない人間だというのに。
大きく息を吸って大きく吐いた。そのオーバーな行動に周りが少しだけ驚いた気がしたけれど気にしない。大きな深呼吸は昔から自分を落ち着かせるための美穂の手段だ。大事な局面で自分が冷静でないと気が付いた時にする。
こんなボードゲームの最中にそれをするとは思っていなかったけど。
頭が違うことに働いたからなのかどこに置こうかが、すっきりと見えてきた。所詮は遊びなんだ。もっと楽しくしてしまえばいい。
春が置いて傾いたその棒とお皿を橋渡しした。当然、重心が傾いてヒヤッとする。周りから息をのむのが何人かいるのも分かるくらいに突然の美穂の動きと揺れるスティックスタックの行方に集中してシーンと静まり返っていた。
肝心のスティックスタックはしっかりと傾いて棒が何本が少し動いた後、バネの力でゆっくりと元に戻った。
「おぉ」
先ほどの春の時とは違い安堵が混じった、ため息みたいな歓声がギャラリーから上がる。
どうだ、と言わんばかりにほかの3人を見ると、まったく美穂の方なんか見向きもしないでどこに置いたらいいかを真剣に考え始めていて、思わず表情が緩むのを感じる。
まだ勝負はついていないのだ、気を抜いて負けたなんてそんなのはごめんだった。それでも勝敗が付くのはあっさりとしたもので、次の美穂の番が回ってくる前に勝負を仕掛けた春が土台ごと倒してしまって決着した。
「あー。なんでよ。美穂の時はこれでうまくいったなじゃない」
そりゃ、あんなこと自分でも無茶したと思っているのだ。2度も同じようなことが成功するとも思えない。
「まあ、まあ。これでなんとなくルールわかったでしょ。もう一回やろ」
美鶴が散らばった棒を片付けながら、春をなだめている。ギャラリーも散らばっていってそれぞれ定位置とも呼べる場所へと移動していった。そんな中、ひとりの先輩が残り続けていた。気になってそちらを見ていたら口が動いた。
「ねえ。それってボードゲームなの?それまたやるなら。そのテーブル使いたいからどいてくんない?」
一瞬なにを言っているのか分からなかった。サークル室のテーブルは少ないのは確かだし、ここを占領するのはよくないのも分かる。確かに1ゲームで交代制みたいなルールもある。でもだからってそんな言い方はないだろう。
「えっ。ああ。すみません。いったんどきますね」
千尋は肝心な部分は聞こえないふりをしているのか、すぐさま片付け始めた。美鶴も春もそれに続いた。でも美穂は納得できずにそれを見ていることしかできなかった。
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