21.どうしてこうなった




 俺とリヒトは、紅葉を探すために誰も居ないショッピングモールを並んで走っていた。建物内の別の所からは、派手な戦闘音のようなものが響いてきている。リヒトが言うに、セリスと悪魔が戦っているらしい。


 リヒトが、「うーむ」と唸りながら思案顔で言う。


「しかし、驚きの話だったぞ主。目から鱗だ。どうやらボクたちの持っている情報と、悪魔側の把握している情報が異なるようだ」


「マジでどうなってんの? お前らが俺の学校に『魔王の前世』が居るって言うから、あんなに必死に探してたのに、さくらは『魔王の前世』は俺とさくらの子供とか言い出すし……」


「そうだな……。これは、推測の話になってしまうのだが」


「あぁ」


「おそらくボクたちや悪魔が世界線の移動を行い、そして主の娘……、つまり来世のボクの姉殿ということになるが、姉殿が時間移動を行ったせいで、《流れ》が乱れたのだろう。それが原因で、『予言』する対象の時間がズレた可能性がある」


「つまり?」


「ボクが持っている『予言』の情報は、この時間軸ではなく、未来のものだったと思われる。きっと主とさくら殿の間に生まれる『六芒星』の痣を持つ子が、将来主と同じ学校に通うという事だろう。それなら辻褄が合う」


「要するに、間違えたってことか?」


「ぐ……っ、有体に言えば、そういう事になるな……、しかし予言において《流れ》の行き先を読み取るというのは、実に緻密で難しいことなのだ。乱れがあったなら、少し時間がズレてしまうこともやむを得ぬ……」


「じゃあ俺たちがやってた『魔王の前世』探しには、意味がなかったんだな」


「そ、そんなことはないぞ主! 何事にも意味はあるものだ!」


「まぁ今そのことは別にいいんだけどさ、ともかく今は紅葉を探さないと」


「あぁ、そうだな。一刻も早く母殿を探さなくては。主から聞いた話によると、母殿は百合殿に連れて行かれたようだが」


「お前のその勇者パワーで何とかできないのか」


「うーむ、さっきから探っているのだが。母殿の気配が上手く掴めぬ。結界の内側、この建物の中に居るというのは何となく分かるのだが」


「じゃあ手当たり次第に探すしかないか。とりあえずお前に話せることは話したし、俺はこっちを探してみる」


 そう言って、俺は分かれ道に逸れようとする。そんな俺をリヒトが引き留めた。


「待て主、一人になっては危ないぞ」


「んなこと言ってる場合じゃないだろ、大丈夫だよ。だって俺はお前の――勇者の父親なんだろ?」


 カッコつけてそう言った俺を見て、リヒトはフッとイケメン過ぎる笑みを浮かべる。


「ここで主を信じることが出来なければ、ボクは勇者失格だな。では、武運を祈るぞ、主」


「あぁ、任せとけ」


 そうして、俺たちが軽くハイタッチをしてから、別々の道を歩み始めようとした。その時――、とてつもない衝撃音が響いて、ツノが生えた幼女が吹っ飛んできた。


「ふごぁっ!?」


 その幼女はリヒトの顔面にクリーンヒットして、リヒトと一緒に近くに会った雑貨店に突入していく。ガラガラガッシャンと、雑貨店の中の物が盛大にまき散らされた。色んなものが店から飛び出して転がって来る。


「キャハハハハハッ!! あぁっ! 勇者ァ!! 会いたかったよォ!! ワタシと遊ぼうヨぉ!!」


「うおっ!? 貴様、悪魔だな!? な、何をする!!」

 

 ギャァギャァと騒いでもみ合う音も聞こえて来た。店の中がどんどん無茶苦茶になっていく。


「――ころす、あのアマぁ……ころす、四肢をもぎ取ってからころす」


 そして、今度は翼を広げたセリスが光のような速度で飛んできて、雑貨店の中に突っ込んだ。ドガンと派手な音が響いて、店の中からツノが生えた幼女とリヒトが放り出されてくる。


「う、うぅ……び、びっくりしたぞ」


 リヒトが頭を押さえながら立ち上がって、そんなリヒトにツノの生えた幼女が抱き着く。よく見ると、蝙蝠のような羽と、尻尾も生えていた。もしかしてこいつがさくらの言っていたアモデウスって悪魔か……?


「キャハハハハハッ!! 勇者捕まえタよぉ! ミツキとサクラのえっちが終わるまでワタシと遊ぼォ! あっそうだ! ワタシたちもエッチしよウ!? スッゴク気持ちよくしたげるヨォ!」


 全然俺の存在に気付いていないアモデウスはニッタリと満面の笑みを見せながらそう言って、リヒトのズボンを下ろしにかかる。


「な、なにをするか!」


 リヒトが抵抗し、アモデウスを押さえつけようとするが、アモデウスはヒラリと身をかわして、羽ばたきながら宙に舞う。


「キャハハハッ! いいじゃん! いいでショ! ヤろうよ! ワタシ勇者とエッチしてミたいなぁ!」


 甲高い大声で笑って、不規則に宙を飛び、アモデウスがリヒトを見下ろした。

 その時、セリスが雑貨店から飛び出してきてリヒトの隣に並び、アモデウスに鋭い視線を飛ばす。


「ねぇリヒト、あのアマころしてもいい?」


「だ、ダメだぞセリス。殺すのは駄目だ。あの悪魔には聞きたいこともある」


「チぃッ、なら、生きていることを後悔するくらい痛めつけてやる」


 完全にキレてる様子のセリスに、俺とリヒトはちょっと引いていた。この天使こわい。


「そ、そうだセリス、手短に聞いてくれ」


 リヒトが、ケラケラ笑いながら空中で待っているアモデウスを警戒しながら、セリスに言う。


「予言の話だ。ボクたちが持っている予言の情報は、どうやら未来のものだったらしい」


「……どういうこと?」


「う、うむ、主が手に入れた情報なのだが、実は予言に出た『魔王の前世』というのは主とさくらという女子おなごの子であるという。主の背にあった『三角形』の痣はその証だと。《流れ》の乱れのせいで、予言の対象の時間軸がズレたのやもしれぬ」


 その話を聞いていたアモデウスが高らかに笑う。


「キャハハハッ! そうだヨォ! そこにいるミツキは、将来ワタシたちを支配する魔王様の転生体、そのお父さんなんだヨ! キャハハッ! そのためにワタシはサクラに――……ん? ……あれ? なんでミツキがここにいるノ?」


 アモデウスが不思議そうに俺を見る。ようやく俺の存在に気付いたらしい。

 なんでと言われても逃げて来たとしか言えないんだが。


「サクラともうエッチしたの?」


「いや、してない」


 俺が首を横に振ると、アモデウスが目を丸くした。


「そ、それは困ルよぉ! ちゃんとエッチしてくれないと! そのためにせっかく準備しタのにー!!」


 ぷくーっとアモデウスがほっぺたを含ませて、怒ったように俺を見た。いやそんな可愛い感じで見られても……。


「サクラとエッチしたくなかったの?」


 アモデウスが俺に問う。


「…………」


「なぜ否定しないのだ主」


 リヒトが俺を見る。やめろこっち見んな。


「つまり……、ミツキのチンコをもぎ取れば、ボクたちの目的は達成されると……?」


 ふと、セリスが恐ろしいことを呟いた。


「「「……」」」


 その場に落ちるのは静寂。

 俺とセリスの目が合って、一瞬の沈黙。


セリスが視線を下ろし、俺の股間を見つめた。


「……」


「……ちぎるか」


 セリスがボソッとそう呟いた瞬間、俺はクルリと踵を返し、全速力でその場から逃げ出す。


「待てミツキ、世界を救うためにチンコをもぎ取るから」


「そう言われて待つ奴がいるかっ!! バカなの!!!? アホなの!?」


「童貞のチンコ一本で世界が救えるんだから安いもん」


「お前それでも天使か!? 悪魔だろもう!」


「待ってヨ天使ちゃん!! ミツキのオチンチンは大事なんだヨォ!」


「待てセリス! その判断は早計だぞ!? ほ、本気で主の陰茎をちぎる気か!? やめてくれぇ!」


 セリスが翼を広げて俺を捕まえようとして、それをアモデウスとリヒトが引き留めた。そんな二人を引きずりながらセリスが俺に向かって飛んでくる。


 背後から天使と勇者と悪魔が迫って来る。

 俺死ぬ気で逃げた。


 ……どうしてこうなった。

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