自分の事が少し嫌いになった話。

いある

軽い。

 大嫌いな知人が死んだ。本当に、心の底から嫌っている人間が死んだ。

 それは何の脈絡もない死だった。

 お昼の教室。

 人が飛び降りた知らせ。

 こんなにミスマッチな文字列は他にそうあるまい。

 何かの間違いだと思ったし、仮に事実だったとしてもどうせ助かるだろう。

 そんな楽観的な思考をしている自分がいることに気が付いていながら、

 僕はそれを止めようともせず、当然のものとして享受していた。

 結果、死んだ。

 人はこうも簡単に死ぬのかと。

 当たり前のようにその命の灯は消えてしまうのだと。

 そう痛感した。

 そして自分の感情に憎悪した。

 湧きあがってきたのは憐憫でも困惑でもなく、愉悦だった。

 確かに彼の事は死ぬほど嫌いだ。

 高校で初めて出会った時から彼の事はいけ好かなかった。

 人を舐めているやつで、常に誰彼構わず馬鹿にしていた。

 きっと僕も彼からすれば見下す存在だったんだろう。

 そして僕もそんな彼の事を見下していた。蔑んでいたと言い換えてもいい。

 それでも毎日彼が僕に関わってくるものだから、毎日僕は、

『君の事は嫌いだから、関わらないでほしい』

 そう言い続けた。

 ある日を境に僕に絡んでくることはなくなった。

 それでも僕は彼が嫌いだった。きっと今でも嫌いなんだと思う。

 でも決して死んでほしい訳ではなかった。

 僕のあずかり知らぬところで、好きに生きればいい。

 そう思っていた。

 だからこそ自分の感情に憎悪した。

 人が死んだというのにケラケラ笑っている周囲の人間と同じだと、己に絶望した。

 死を悼むことも、悲しみに心を痛めることも、僕は知っているはずなのに。

 だから少なくとも僕は今、少し自分の事が嫌いだ。

 自己肯定感がべらぼうに高い僕だけど、それでも嫌気がさしている。

 死ぬつもりは毛頭ない。好き勝手生きようと思う。

 そのうち僕も彼の死を忘れてしまうことだろう。

 それでも今は、自分の事が嫌いだ。

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自分の事が少し嫌いになった話。 いある @iaku0000

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