塔の外:けれど何も良くなかった。

 その日、桜は満開だった。まるで冬の雪のようだった。けれど春の華を楽しむほどの余裕は自分になれなくて、自分は代わりにベンチで泣いていた。彼はそこに一緒にいた。彼はいつも一緒にいてくれた。そしてそれがなおさら自分を泣かせた。


 彼は優しくハグしてくれた。彼はあまりにも温かくて、それが自分の心をさらに苦しめた。自分は彼の肩に頭を乗せたけれど、自分にとってそれが何の意味もないとわかりながらそれをやるのが嫌だった。


 てっきり自分は自分の感情が混乱していて、彼と以前のように会えばまた好意が戻るのだろうと思っていた。けれどそれが起きることはないのだとわかって、それはあまりにも――悲しかった。


「好きなだけ泣きなよ」、と彼は言った。「楽になるから」

 自分は首を振った。

 自分はどうして彼を好きではなくなったのだろう? 

 どうして彼はこれほど温かいのに、自分はこれほど冷たいのだろう?

「ごめん」と自分は言った。「本当にごめん」

「いいんだ」と彼は言った。「いいんだよ」


 けれど何も良くなかった。自分の意味していることを、彼は理解していなかった。

 だから彼に伝えなければならなかった。

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