上がるものは必ず下がる。
「どうして?」
「人糞と小便がかかるから」
「どういうこと?」
「とにかく夜は手すりから離れること」と彼は天に向かって指をさす。「自然の法則さ。上がるものは必ず下がる」
そこで自分の膀胱が自らの存在を主張し始める。便所を強く強く求めている――しかしそんなものはまだ一度も見ていない。
「慣用句の使い方、あっていないと思う」
「いや、僕は文字通りの意味で言ったんだ」と彼はにやける。「闇は人を隠す。そして人が恥を失った時に何が起こるかは……わかるよね?」
「トイレはここにはないよね」、なんてアホらしい質問だろうと自分でも思う。
「トイレ!」と彼は叫ぶ。「君が話していたもうひとつの世界ではあったんだね?」
「うん」
「つまり排泄のためだけの空間があるわけだ」
「うん」
「《彼等たち》の中でそんな噂はたくさん聞いた。この塔の外にあるらしいね。本当だったんだ」
彼は「トイレなるもの」に興味津々だったので、形状や使い方や仕組みを説明してあげた。否、しようとした。ところが、自分はトイレについて意外と無知だった。
「どうしてわからないの? 毎日使っていたんでしょ」
スマホが恋しくなる。すぐにググれたはずだ、《トイレの仕組み》と。
壁の隙間から滑り込んでくる陽光も少しずつ薄れていく。
暗闇の時間がまた始まるのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます