塔の外:何か犠牲を払う必要があった。

 あの椅子で面接を待っていた時、暗い考えがずっと頭の中にあった。どんな感情だったかは名状しがたい。後悔、罪悪、苦悩、無念――その線だった。

 でも、その日は面接ではなかったはずだった。何かもっと大切なものであるはずだった。

 就活は思いもしない形で自分を苛んだ。自分にも限界があった。就活、卒論、恋愛に苛まれていた。何か犠牲を払う必要があった。

 面接の一ヶ月前、自分は公園にいた。桜や青空や冷気を憶えている。

 春だった。

 自分はベンチで泣いていて、隣には誰かがいた。流れる涙は自分ではなくて、その誰かのためだった。

「ごめん」と自分は言った。「ごめんなさい」

「いいんだよ」とその誰かは言った。「いいんだ」

 でも何も良くなかった。

 彼がはめている指輪を見て、自分は更に泣いた。

 数ヶ月前に、彼にあげたものだった。

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