第2話(初恋)

 しばらく、沈黙が続くとUFOを見つけるという行動に飽きたのか、突然、鳩山は疑問をぶつけてきた。


「ユウキくんは、千夏ちゃんのこと、どう思う?」


 俺は首を振り、千夏が風紀委員同士は付き合わないと言うことを、再度、強調して答えてあげた。


 付き合う以前に、千夏とは入学式のあの日以降まともに話をした覚えがない。


 話す内容も声を掛けるタイミングもないので、会話する必要もなかったのだが、その前に俺と目を合わすと避けるかのようにことさら嫌な顔をして別方向に頭を向けてしまうのは嫌われている感じがする。

 俺以外の男子とは楽しく話すところを何回も目撃してしまうと、余計に嫌われているという思いを増していた。

 まぁ、嫌われていたとしても、俺には、好きな人がいるから問題はない。


 それじゃー、気分を変えて俺の初恋の話をしよう。


 小5になった春に、何かのホルモンが脳内で活動を始めて、新しい美的感覚を発生させたようで、クラスの中に飛び切りの美少女がいたことに気付いた。

 くまちかちゃんと言う少女は、勉強もできるし運動も得意で、雑音のない心地よいせい

黒くつやのある髪質に胸まで届くストレートの髪型、小顔で整ったアーチ型のまゆに長く伸びたマツゲが目の魅力を上げて、桜色の健康的な肌に、小さすぎず大きすぎない口、笑うと白く輝く歯が更に清潔感を印象づけて、近づくと春の甘い香りが漂ってきそうな花のようで、まさに一顧傾城いつこけいせいと言ってもいいくらい、ちょー美少女だ。


 微笑む顔が、たまらなく、かわいい。


 一度、意識し始めると自分でも気付かないくらい、授業中、休み時間、視線を送り続けて、お互いに目が合うと視線をずらしていた。

 これが意外と女を落とすのに有効だと後で知ることになるのだが、俺は最初で最大の法則を手に入れたのだ。

 ここまで意識することが続くと、自分でも好きだという気持ちを理解することもできるようになったし、これが恋だと認識するようになった。


 その冬のバレンタインは、周りを意識するあまり、いつもよりテンションは上がっていた。その日だけ積極的に先生の質問を答えたり、体育の時間では、いつもは適当にサッカーを楽しむ程度だったのが、激しくスライディングでボールを奪い取り、キラーパスを決めるとカッコよくガッツポーズを披露した。

 それほどまでにアピールしても今日の一日では、何も変わることがない事ぐらい、子供なので、まだ分からない。そうこうしている内に、期待するも何も起こらないまま、下校時間になっていた。

 熊野ちかちゃんには、思いが伝わらなかったのかとらくたんして、クラスの後ろの棚にある自分のランドセルを取ろうとした。いつもと違う不自然なランドセルの位置、ワンタッチ式の金具が閉まっていなく、中身の教科書とノートの一部が外から見える。


 キターーーーー。


 すぐに、直感した。回りを見渡し、誰もいない事を確認する。俺は、ランドセルを取り出し、ノートとノートに間に挟まった包装さられ物体を見ると、『ビンゴ!』


 興奮がよみがえる。誰もいない自宅に急いで帰るとすぐにランドセルの中身を取り出した。

 チョコだよ。チョコ。


 小さな贈り物を両手に持って、しばらくじっと見つめ、匂いを確かめる動作を繰り返し、ていねいに包装紙を取り除き、誰からくれたものか確認作業に入る。箱の裏側にメッセージを見つけた。


「気軽に声をかけてね。熊野ちか」


 やったー!


 そこには、1年近く見続けた初恋の名前が記してあった。

 初恋が両思いだと悟った瞬間でもあり、生きてきた中で最高の幸福を感じた時間でもあった。

 次の日、いつ声をかけるか、タイミングを見つけていた。今まで、一度も声をかけたことがない。恐らく記憶では初めてだと思う。

 偶然にも水道で手を洗う熊野ちかちゃんを発見したことで、一対一になれるチャンスが到来し、不意に声をかけてしまった。


「あ、ありがとう・・・」


 これしか言えない。何を話すか、事前に用意していたのでないので、余計に緊張と焦りで、これしか出てこない。

 ちかちゃんは何を言われたのか、すぐに分かったようで、笑みこぼす。


「うん」


 こんな短い会話でも二人の間では、何か通じる共通の思いがあったと思う。

 次の日から簡単に声を掛けられるかと思いきや、一向に緊張と恥ずかしさで、一度も会話は成功していない。好きな人に話し掛ける苦しさが、これほど重いものだと自分でも不思議なくらい知らなかった。

 素直に会話ができるあいだがらなら、好きだよ、くらいの言葉を発するくらい簡単だったろう。

 さらに付き合ってくれと言えば、即、OKが貰える事も言うまでもない。と思う。

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