第2話(放課後)

 新学期が始まって、一週間が過ぎた。


 学校に登校すると俺よりも早くスズメ千夏は席にいる。


 千夏の周りには、男どもがむらがり、大きな声で会話をしていて、迷惑なようキャラたちの集団ができあがっていた。

 千夏の席の横が俺の席だが、そこには集団からあふれた一人の男子生徒が座り、千夏たちとの会話を楽しんでいる。近づいて席の上にカバンを置いても一向に立ち上がらないので、「そこ!俺の席!」と言いたいが控えめな俺は言えず、朝の会の時間が来るまで、友達の所に避難する。


 そのような出来事があったので、翌日からは千夏が登校するよりも早く学校に行くことになった。まさか、こんな事で、クラスの中で一番乗りするはめになるとは学校生活の一歩目でせつした気分になった。


とは言え、それ以外では順調である。一通り教科の授業を受け、新しい先生達の話し方、くちぐせ、授業の進め方を観察すると、話す内容がヲタク受けしそうなネタをろうする面白い社会の先生もいれば、隣のやつに話し掛けた途端とたんに怒り出す気難しい数学の先生には、正直辛い。


 担任でもある英語のメースン先生は、まだ歳が若いわりに、まるでベテラン教師ばりの話術で生徒の心をつかみ、分かりやすさ楽しさで、授業を受けている感覚すら忘れるほどの居心地の良さがある。


 肩が凝る授業が続くも一日の学業が終わり、部活の時間へと移った。俺は、部活見学をするつもりで運動部を見回って最後に軟式テニス部のテニスコートに来ると、小学校からの友人の鈴谷隼人すずたにはやとと比較的仲の良い鳩山大和はとやまやまとの二人だけが、コートでボール拾いがてらにボールを相互に打ち合っていた。


「よぉ!部活終わりか?」


「ああ、先輩が先に上がったので、ボール拾いな!少し待っててくれ、一緒に帰ろうぜ!」


 テニスコートのネット付近に審判が座る高い椅子があるが、俺はふとその椅子に座ってみた。とりあえず座るだけ。クラスメートの話になり、スズメ千夏の話題に入るとすぐに鈴谷が反応した。


「やったぜ!スズメ千夏ちゃんと付き合う俺って、どうよ?」


 鈴谷の嬉しそうな弾む声。


「どうよって言われてもなー」


 なになく返答。


「俺も一皮、けたって感じ!やっぱー、もう彼女なんだしー、千夏ちゃんは、おかしいよなぁ。千夏と呼び捨て、し・よ・お・かなぁ~」


 何も言うことはない。好きに呼んでくれよ。鈴谷君。


 鈴谷も運動神経抜群でサッカーも野球も得意なスポーツ万能系であり、女子からも人気があり、小学校の時は何人かと付き合っているという噂もあるくらいで、普段は男らしい言葉遣いと落ち着いた態度を見せるが、スズメ千夏の話をする時の顔はアホみたいだぞ。


 それにしてもスズメ千夏の毒牙と言うか男どもを魅了する魅惑の威力はすげーな。


「スズメさんは、僕でも交際してくれるのかなぁ?」


 はぁ?また一人、スズメ千夏の毒牙に掛かった鳩山の一言。律儀りちぎに千夏の言葉を守らなくても他に可愛い子はいくらでもいるのに不思議だよな。本当に魔力のようだよ。


「可愛いよなぁ。千夏。鳩山っちよー、告っちゃえよー。いいぞ、千夏!」


 鈴谷、なぜ、そこで、まがいにも彼女なのに他の男にもすすめる?普通、恋のライバルはおととすのが一般的だろ?


 カワイイところは納得できるが。


「断られたらどうしよう。だめー、絶対に言えない。何て言ったらいいか分からない」


 鳩山は、ものすごく、恥ずかしさを顔いっぱいに表して、いつも以上に早口で一気に言い放った。


 俺は少しでもスズメ千夏がモテる理由を解くために鳩山に質問をする。

「スズメ千夏のどこが好き?」


「えー言えないよ~好きとかじゃ無くて~時々、目が合うんだけど~笑ってくれる・・・・その瞳に吸い込まれる感じかなぁ」


「はぁ??」


 俺は思わず、けんにシワを寄せ、言葉を理解する時間も空かさずに鈴谷も言葉を挟んだ。


「ああ、俺もそんな感じ。でもさー、顔がめちゃくちゃタイプだから、さらにグッとくるね!」


 鈴谷も同じとは、つまりフェロモンということか?顔なのか?はやり顔なのかもしれないなぁ


「告れないよー。考えただけでドキドキするー」


 鳩山は告白をするかしないかで悩んでいる。俺も初恋では告白はしていないので気持ちは分かるが、結局、千夏のモテる理由は何だろうか・・・顔?

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