12 はじめての君 (fix

「俺が聞ける範囲のお願いなら」


 妙なことになって来たぞ。と思いながら、そう答えた。


 そうこう言っている間にも、ルルさんが操縦するトランスポーターは、自らが作り出した紅い粒子のゲートに突入し、瞬間移動。量子演算転移ラム・シフトを終えている。

 転移した先は巨大なガス惑星が見える何もない宙域だった。


「ステーションなんか見えへんで?」

【これ以上は、巨大ガス惑星ガス・ジャイアントの重力に捕まって、転移出来ないからな】

「それじゃあ、あのガス惑星の衛星軌道上にステーションがあるの? 不便じゃない? 重力圏から一回離れないと量子演算転移ラム・シフト出来ないし……」

【というより惑星のない宙域に建てた、おぬしらの建て方の方が珍しいのだよ。実際、イスミが至近距離に転移して強襲されただろう?】

「いやまあウチらみたいなお友達チームのステーション、わざわざ襲うやつとか居らんやろって、シドやんがな」

「シド君、粒子干渉場推進エル・スラスターに使う粒子端末グリッターダストもケチりたがったからね」


 ルルさんと話している二人が、云いたい放題だ。


「通りで、襲いやすいステーションだと思った」


 くすくすとイスミが可愛らしく笑う。言っていることが物騒だけど。


「一端、移動してからでないと転移シフトできないの、めんどうくさいって言ったのはクロエとユキムラなんだよ。いや、燃料代ケチりたかったのは本当だけど」


 ウソではないのだけど、我ながら言い訳くさい。

 そんな雑談をしていると、粒子干渉場推進エル・スラスターでの通常空間航行でトランスポーターは、あっという間に巨大ガス惑星ガス・ジャイアントに接近した。

 第六宇宙速度の亜光速サブライトほどの速さは出ないとはいえ、粒子干渉場推進エル・スラスターは、大質量の惑星や恒星の重力も余裕で振り切り、恒星系内航行の実用速度である第五宇宙速度。

 太陽系型の恒星系でも、ゲーム時間で三日あればカイパーベルトまで到達できる速さで飛んでいる。


「ステーション、見えて来たよシド君」


 興奮気味のユキムラに呼ばれて、トランスポーター前方を映すモニター前へ。


「結構、大きい……いや、無茶苦茶でかくないか……?」

「個人のステーションでこれて、デカすぎん?」


 トランスポーターが相対速度を合わせて接近していくのは、衛星軌道上のステーションではなく、ガス惑星の衛星を囲うように建てられてたステーション。

 中心は岩石で出来た小さな衛星。

 おそらくその中に中枢区画コア・ブロックを埋め込んであり、リング状に繋がれた各種区画ブロックが、中心の衛星の四分の三ほどを回っている。

 サイズ的には、破壊されたウチのステーションの十倍では効かない。いくら何でも個人で持っている資産とは思えない規模だ。

 考えて見れば、そもそも乗艦の〈アナイアレイター〉からして、個人での運用するには維持費がかかり過ぎる代物だし、イスミさんは一体何者なのか……


 考えている間にも、トランスポーターは、岩石部分をくり抜いて作られた格納港区画ドック・ブロックへ侵入。格納港内の着陸パッドに自動で着陸。


「それでイスミさん、お願いって……?」


 俺はあらためて聞いた。


「わたしを、シドさんのチームに入れてほしいんだ」


 イスミさんがまた、スミレ色の瞳で俺を見つめて言う。

 気になってはいた。

 最初はとぼけた性格をしているように思っていたから、からかわれているのかと思った。でも、たぶん違う。

 じっと見つめてくるのは、真剣な時の表情なのだ。


「……どうして、ウチみたいなチームに入りたいの?」


 自虐のようだが実際、身内感丸出しのお友達チームというのは、他人さんは入りにくいモノだ。特にウチは幼馴染三人組だし。

 それも強いチームならともかく、ステーションを建てる場所もカジュアルなチームに入りたいと言われれば、なぜ、となるのも仕方ない。と思う。

 すると、イスミはいつものように、まるで水に潜るときのように「ん」と少し息を吸ってから、


「初めて……わたしを見つけたのが、君だったから」


 と、囁いた。

 真剣な顔でいう彼女のその言葉に、やっぱり、好意のようなものを感じるのは、自意識過剰だろうか?

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