13 ペイル・ブルードット (fix

【イスミと、このステーションを君たちに提供するにあたって条件がある。サイド・クエストやエクストラ・ミッションのようなものだ】


 そう言ったのはルルさんだった。


「それは?」

【……イスミを、ペイル・ブルードットへ連れて行ってもらいたい】


 ペイル・ブルードット……?


P・B・Dペイル・ブルードット……は、このゲームのことでは……?」


 思わずオウム返しに聞き返すと、視界の端でユキムラが、わちゃわちゃと手を振ってアピールしていた。


「シド君、ちがうちがう。たぶんそれ、ゲームのタイトルの話じゃなくって……」

「ん? どゆこと?」

「流暢に喋るから忘れとったけど、ルルやんって『アノマリー』やんな? ユニーク・アイテムの。それ、クエストの導入セリフやないの?」

「ああ!」


 ユキムラの横で、さらに補足をするクロエの言葉で察した俺は、思わずユキムラの古臭い仕草を真似して、判を押すようにグーで手の平を打った。


「いやでも……そういえばペイル・ブルードットって何?」


 このVRゲームのタイトルと云う事は知っている。だけど、具体的に『ペイル・ブルードット』という名が何なのか、俺は知らなかった。


「シド君、スピンオフ小説、読んでなかったっけ?」

「ユキムラの奨めだし、今日買って読んで、まだ途中たけど、ペイル・ブルードットってのは出てこなかったよ?」

「あー……そういえば出てこないのか」

「で結局なんなん? ペイル・ブルードット」


 と、クロエが混ぜっ返す。


「おまえも知らんのかい」

「いや、クエストなのは分かるけど、設定までは知らんて」


 三人でそんな、いつもの雑談をしていると、イスミさんがくすくすと笑う。


「ペイル・ブルードット……『地球』のことだよ、シドさん」

「地球?」

「そ、地球」

「地球って、えーっと、俺たちが住んでいる、的な?」

「うん。シドさんたちが住んでいる、地球」

「そうなの?」


 と、俺は思わずユキムラに聞きなおした。


The_Pele_Blue_Dotザ・ペイル・ブルー・ドット。このゲームのタイトルは、昔、深宇宙探査に向かったボイジャー一号が、地球を振り返って撮った写真の、たった0・12ピクセルの、淡くて青い点のこと……なんだけど、意外と知らないもんか」

「いや、SF詳しいユキムラはともかく、普通は知らんでしょ」

「SFじゃなくて、宇宙科学だよシド君。NASAのサイトとか見に行ってたら、知ってるんじゃないかな」

「普通、ゲーマーはNASAのサイトとか覗きに行かないと思うぞ」


 ユキムラが特殊なSFオタなことはさておき。


「まあ、大体わかったけど、トランスポーターで地球に行けばいいの?」


 と、小旅行気分で聞くと、今度はユキムラだけじゃなく、クロエもイスミさんも、そして多分、ルルさんにさえ呆れた顔をされた。

 そんな気がする。ルルさんの表情わからないけど。


「シド君……」

「シドさん……」

「そういえばシドやんって、イベント・シーンとか、結構飛ばしてまうタイプやったな……」


 何故に。


【イスミよ、この男でほんとうによかったのか?】

「何気にヒドイこと言うな、ルルさん」

「んー、たぶん、だいじょうぶじゃない?」

「イスミさんも、せめてなにかフォローしてくださいよ」

「あはは」

「で結局、なんなんです? 地球に行けばいいだけの話じゃあないの?」


 憮然として、三人+一体と対峙する俺。

 いや、ストーリーとか流し読みしたのが悪いのかもだけど、P・B・Dペイル・ブルードットはストーリー重視のロールプレイングゲームとかじゃあないので、いいじゃないか、別に。


「あんなシドやん……このゲームの地球って、たしか進入禁止エリアやねん」

「そうなの?」

「細かい設定はユキムラ先生に聞いたって」

「だからお前も知らんのかい――えーっと、じゃあユキムラ先生、お願いします」


 そう言って俺がユキムラの前に、空中で器用に正座して見せると、クロエはともかく、イスミさんとルルさんまでもが並んで、空中に正座する。

 いや、ルルさんは分からないけど。ただの黒い円筒だし。


「それじゃ、ユキムラ先生の優しいP・B・Dペイル・ブルードット講座」


 そういって咳払いを一つ。


「このゲームは私たちが使っている粒子センサ・ネットワークの未来って設定の、量子センサ・ネットワーク・システムと、粒子干渉場エルフェルト量子演算ラムレザルなんかの技術で恒星間航行を手に入れた宇宙開拓時代。骨格艦レヴナントで宇宙の勢力争いをやってるのね」

「まあそれはなんとなく」


 複数のチームを取りまとめるクラン同士で争う『クラン戦』や、もっと大きなゲーム公式の勢力である三大経済圏による勢力戦もある。


「勢力は大きく分けて三つあって、環太平洋経済圏シーオービタル大陸国家企業連邦ソユーズ欧州経済戦略会議エウロパ。これは現実の、地球の勢力図の延長線上の名前でしょ?」

「の割に、そういえば地球って聞かないね」


 ユキムラに言われて気づく。

 ここ、スカラブレイ星域セクターのように、天の川銀河を碁盤の目に区切って星域セクターと呼んでいて、それがこのゲームにおける地名や番地になるのだけど、思えば、地球の場所など考えた事もなかった。

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