10 ルルさん (fix

「よくなかった?」

「よくなくは……ないけど。むしろ渡りに船だけど……」


 動揺するユキムラに、イスミさんは変わらない調子。


「そんで結局、イスミんのチームのステーションに行くん?」


 そして会ったばかりだというのに愛称呼びをするクロエ。

 いちばん変わり者のくせに、妙に人当たりが巧いのがクロエだ。いつも人が馴れ馴れしいと思いそうな一歩手前にいる気がする。


「ん? 私、チーム入ってないよ」

「チームに入ってない……って、それだけの装備を揃えてるのに?」


 P・B・Dペイル・ブルードットは普通のサンドボックス・オンライン・ゲームと比べると骨格艦レヴナントやステーションの維持コストが重く、よほど時間の有り余っているプレイヤーでもないかぎり、ソロ・プレイは適さない。

 イスミが使っている〈アナイアレイター〉などの駆逐クラス骨格艦レヴナントは、クラン戦などの決戦兵器的な代物で、クラン全体の共有財産であることが多い。

 ここへ来るために使っていたトランスポーターにしても、個人が気楽に使うような値段のモノではないのだ。


「この骨格艦レヴナントもステーションも、ルルさんに聞いて適当に作ったやつだから」

「ルルさん?」

「そう、ルルさん。これ」

【こら、イスミ、やめんか】


 イスミがそう言って、通信ウィンドウの脇から取り出したのは、家にある全自動掃除機のような、円筒形の銀装飾の黒い物体だった。

 それがさっきから、ちらちらと通信に入っていた、抑揚のあるデジタル音声で喋っていた人の正体らしい。

 喋るたび、黒い部分のあちこちがチカチカと発光している。


「ルルさん」


 俺があ然としていると、その『ルルさん』をポンポンと叩いて、名をくりかえした。

 ちょっと自慢気に見える。


「あ、いや、そうではなく」

「それ、『アノマリー』?」


 リアクションに困っていると、ユキムラが『ルルさん』を見てそう言った。戦闘前の話に出ていた一種類一個ずつしか存在しない、というユニーク・アイテム。

 それを、ソロ・プレイヤーのイスミが所有している、というのはますます謎だ。


「ルルさん」

「いや、それはもうええ」


 気に入ったのか、ドヤ顔で同じように繰り返すイスミの天丼芸に、クロエが手慣れたツッコミを入れる。


「それでイスミんのステーションに行くにしても、こっちはシドやんがボッコボコやし、トランスポーター借りてもええか?」

「いいよ。私も動けないから」

「あー……ルルさん、いうたか? コレ、〈アナイアレイター〉をトランスポーターに放りこんだら、そっちで航路設定できるやんな?」

【可能だが……】

「ほな、チャッチャとやってまお」

【……なぜそんなに順応している?】

「いやルルさん、アノマリーなんやろ? なんかAIサポート系の。しらんけど」

【……そうだが】

「詳しい事はトランスポーターで移動中にでもな。さすがに、身動きとれん骨格艦レヴナント二隻もある状態で、路肩で立ち話というわけにもいかんやろ。まあ、こんなトコにあんまり火事場泥棒がうろついてるとも思えんけど」

【道理だな。では頼む……クロエ殿】

「あいよ、まかしとき」


 そんな話をしながら、クロエが手際よく、二つに割れた〈アナイアレイター〉をイスミが乗ってきたトランスポーターへと押し込む。

 俺はと云うと、最後の無茶な攻撃と諸々のダメージで自力航行が不可能になっていて、ユキムラにけん引されていた。


「悪いね、ユキムラ」

「ほんとだよ。なんでまた、あんな妙な子が気になったんだか……」

「ん?」

「や、なんでもない」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る