09 回収、けん引 (fix
名を呼んでも、にわかには信じられなかった。
「ほんとうに
「君は
通信ウィンドウ越しに、瞳が絡み合った。
そういえば、最初に見た彼女の瞳の色は……そんなことを考えていると、彼女は不思議そうな顔をして俺を見つめている。
「はいはいシド君、自分で真っ二つにした相手と、なんかいい雰囲気で見つめ合わない」
見つめ合う俺たちを正気に戻すのに、ユキムラがパンパンと手を叩く学校の先生のような仕草でカットイン。
「で、そっちの
「あ、はい。イスミですよ?」
「私たちと同じパターンの名前か……って、今はそんな話じゃなくて、どうする? シド君、綺麗に腰椎
「ちょっとユキムラ何言いだすん? そいつ敵やで?」
ユキムラの言葉に慌てたのはクロエだった。
ステーションを破壊した相手だし、まあ当然といえば当然の反応なのだけど。
「やーでも、シド君を誘惑したっていうモノ好きにちょっと興味ない? クロエ」
「あー、それはまあ……せやな」
ユキムラがにんまりとした悪い顔でいうと、クロエはあっさり納得して、同じような悪い顔をした。
ほんとうにコイツラは、こういう時だけ息ピッタリで困る。
「で、イスミさん、どうする?」
手首を見せるように指さして、ユキムラが
「どうしよう?」
逸らした視線の先へ、何事かを聞く。
【普通であれば、問答無用で身ぐるみ剥がれている状況だ。わるい話ではないな】
「ふむ……じゃあ、おっけーで」
【待てイスミ。普通こういう場合は、交換条件というモノが付く、それを先に聞け。後でトラブルになるからな】
「ん、わかった――交換条件を聞かせてください?」
と、通信ウィンドウの向こうで何事か相談して、振り返って言いなおした。楽屋裏の話が駄々洩れなのだけど。それでいいのかイスミさん。
「交換条件……って、あー……どうしよう、シド君?」
そう来るとは思っていなかったのか、ユキムラがこっちに聞いてきた。よくよく考えれば、無償で救助を申し出たこと自体、少しお人よしがすぎる気もする。
そういうところがユキムラの気の良いところなのだけど。
「そうだな……俺としては、修理とかしてほしいところなんだけど、ダメかな? 〈エンフィールド〉これ、全損してる
「ウチ? ウチは削られたのシールドだけやし。それにシドやんのイイ人なんやろ? かまへんかまへん。好きにしぃや」
「クロエ、そのアバターの時に、親戚のおじさんっぽい茶化し、やめてくれない?」
「そんな気になる?」
「いや色々と、視覚と聴覚が噛み合わなくて脳がバグる」
見た目だけなら銀髪の美少女が『喋ったらまるで関西弁のおっさん』とか、気にならない方が難しいと思う。
まあクロエは
「それじゃあ、シドさんの
物怖じしない感じのイスミさんが、間を置かず会話に入ってくる。
「えっと、それじゃあ交換条件はそれでいい?」
「うん、わかった」
はにかむ表情と、囁くような声が心地いい。
超が付くほど高額な〈アナイアレイター〉の
顔と声で得してるタイプだよな、などと考えながらイスミさんをまじまじと眺めた。物怖じしないところもいいのかもしれない。
「シド君――」
咎めるようなユキムラの声。
「――……ううん、修理といっても、どうやって?」
口元に手を当てて咳払いの仕草をしてから、ユキムラは画面右を指矢印で指す。
そこには破壊されつくした俺たちのステーションの残骸。
そうでした。
「あー……
どうしたものかと頭を抱えていると、クロエの声。
「とりあえずイスミさんの上半身と下半身、けん引したで」
「クロエそれ、なんか猟奇殺人っぽい」
「そんなん言うたかて、真っ二つにしたの、シドやんなんやけど?」
「そうだそうだー」
どういう流れかイスミさんまで小芝居に乗っかってきた。本当にどういう人なんだこの人は。
「ステーションが使えないならさ――」
いや、壊したの貴女ですが。
「――ウチ、来る?」
と、事も無げにイスミさん。
「え、ええ――」
「いやいやいや、イスミさん、あなた!」
イスミさんの申し出に、何故かユキムラが俺以上に動揺していたのだった。
なんで?
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