07 警告、敵、検知 (fix

【警告、敵、『量子演算ラムレザルソナー』を検知】


 と、骨格艦レヴナントのシステム音声。

 外部映像には宇宙を走る、あかいい粒子の波。


「シド君!」


 俺を呼んだユキムラに返事をするように、この宙域の中心、恒星の方向から宇宙を一直線に曳く蒼い閃光の砲弾が三発、飛来する。

 命中した初弾と次弾が、ユキムラの黒い骨格艦レヴナント可動防御板シールド・モジュールを一つと、手にしていた電離弾体アークシェルラピッド・ガンを吹き飛ばした。


「ちょ、ちょ、ちょ!」


 シールド一枚と武器を失い、危うく船体中枢バイタル・パートへ直撃をもらうところだったユキムラの艦は、衝撃方向に独楽のように旋回しながら加速して回避運動に入る。

 無意識に動いた分で三発目が巧く外れたのが見えた。


「太陽を背にして撃って来てるで!」


 クロエが追撃を防ぐ為、弾の飛来方向へ亜光速サブライトライフルを連射。


「ユキムラッ!」

「とりあえず生きてたー……けど武器を潰されちゃったから、あとは索敵妨害ECMクロークぐらいしか残って無いよ。予備はステーションの貨物区画カーゴ・ブロックに入れてあったし、武器が一個もない」

「クロークは残ってる?」

「残ってる。積んでた肩部武装区画アーセナルは無事」

「んー……なら何とかなるか……? ――クロエ、頼める?」


 ユキムラに状況を確認したあと、クロエに言葉少なに聞く。


「相手、スナイパーの割に、位置バレする量子演算ラムレザルソナー使って来るような攻め気強い奴やんな? しかも〈アナイアレイター〉は駆逐クラスや。中量クラスの〈スノーホワイト〉やと狙い撃ちされ続けたら、そんな持たへんよ?」

「ワンチャンぐらいはあるかな?」

「あるんとちゃう? ウチがうっかり、頭部艦橋クラウンシェル撃ち抜かれたりせんかったら」

「一発勝負か……苦手だな」

「……シドやん、その割には、久しぶりに声が弾んでるんやけど?」

「そう?」

「そういうの、元々は大好きやん?」

「そんなことないって」

「好きか嫌いかはともかく、私の仇はとってほしいかなー」

「ユキムラは、別に撃墜されてないでしょ」

「いやいや、ステーションもメイン武器も壊されたし、ユキムラさん的には一発以上殴り返さないと気が済まない」

「あー……まあウチの貴重な財産を潰してくれた仕返しは、しないとか……」

「……いや、なんかウチ以外、敵も味方も全員、狂犬すぎへん? ほんま」

「クロエ君、なんか言ったかな?」

「なにも――ほな、シドやん、ウチが撃ったら始めたって」

「おーけい」


 小芝居もほどほどに、本気の顔になったクロエが、赤と白に塗られた中量クラス骨格艦レヴナント〈スノーホワイト〉を駆って、ステーションの残骸と小惑星帯アステロイドを楯にしながら、射撃の飛んできた方向へ接近。

 手足がある骨格艦レヴナントは、小惑星帯アステロイドの中も激突することなく、速度を出して自在に動ける。

 浮遊する岩石をカバーにするのも、可動防御板シールド・モジュールを温存するために重要だ。


 俺とユキムラの艦から十分に離れたところでクロエが射撃開始。

 クロエの艦のメイン装備モジュールは、亜光速サブライトライフル――クロマウーツ社製メザラクL75。

 相手のゲイボルグ92に比べると、標準的なアサルト・ライフル系。中近距離での発射レートでは有利だけれど、射程でだいぶ負けている。

 クロエの有効射程ギリギリまで接近してからの牽制射撃。存在と攻め気のアピール。

 単独で狙撃スタンスの相手からすれば、無視はできないはずだ。


「よし、ユキムラ」

「ここからだと、索敵妨害ECMクロークの効果時間ギリギリだけどいいの?」

「次の量子演算ラムレザルソナーまでにクロークに入ってないと、位置予測されるからね」


 ユキムラの乗艦、偵察クラスの〈ナイトレイブン〉に搭載してある索敵妨害ECMクロークは、俺たちが持っている装備モジュールの中でも最も高価なものだ。

 その値段は偵察クラス一機分にもなり、彼女だけ軽量の偵察クラスに乗っているのは金銭的な問題からだった。

 だけど、その性能は折り紙付きで、ECMのEは電子エレクトリックではなく拡張エクステンデット

 エクステンデットカウンターメジャー

 拡張対抗手段といった意味になり、電波音波のみならず量子演算ラムレザルによる索敵からも姿をくらますことの出来る、P・B・Dペイル・ブルードットでも最高性能の索敵妨害装置で、うちのチームの虎の子的存在。


「わかってると思うけど、攻撃したら〈索敵妨害ECMクローク〉は解けるから。あと効果時間は十秒。それじゃあ行くよ、っと」

【僚艦、『索敵妨害ECMクローク』を起動。影響範囲に入りました】


 指を一本立てた古臭い説明仕草と共に、ユキムラが索敵妨害ECMクロークの性能をあらためてインストしてくれる。


 これで量子演算ラムレザルソナーを浴びても位置はバレない。

 効果時間の十秒の間に接近する為、粒子干渉場推進エル・スラスターの推力を最大に。速力は中量クラスの俺の骨格艦レヴナントよりも、偵察クラスの〈ナイトレイブン〉の方が上なので歩調を気にする必要はない。

 蒼い光を曳いて、二隻の骨格艦レヴナントが、等間隔を維持して宇宙を飛んだ。

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