05 骨格艦/レヴナント (fix

 録画映像は最初、ステーションの近くの宙域に、あかく発光する粒子が集まるところから始まった。

 それは宇宙に幾何学模様を描き、やがて文字や文様のような形をとる。

 それらが集まり、平面の、魔法陣のような複雑な円図形が描き出されると、円陣は一層強く光を放つ。


 量子演算ラムレザルの光、それは超光速航法――量子演算転移ラム・シフトの赤光。


 厚みの無い、あかい円陣の中からトンネルを抜けるように現れたのは、オウムアムア恒星間天体のような細長い形の、白銀色の物体。

 所々にある突起やビーコン、ディテール・ラインから人工物であるとわかる。古典的なところなら、葉巻型UFOに似ていると云っても、いいかも知れない。

 スケールを見ると、全長は約300メートル


 恒星系のような重力圏内、或いは離脱する際の、長距離量子演算転移ラム・シフトに必要な出力を得るためのサブ・クルーズ・ユニット『ラムシフト・トランスポーター』


 紅い円陣から姿を現したソレは、軽く減速した後、上部の外装を弾き飛ばす。

 トランスポーターの中から現れたのは、骨格フレームやサブ・アームを折りたたんで収納されていた白銀の艦影。

 傘を開く様に、短冊状の可動防御板シールド・モジュールや武装を広げ、伸びをするように手足の骨格フレームを伸ばすと、いくつもの装備モジュールの内側に、骸骨の全身模型のようなシルエットの、骨格艦レヴナント主船体が現した。


 P・B・Dペイル・ブルードットで、自機として操縦可能な人型戦闘宇宙艦。

 ありていに言えば、巨大ロボット。

『艦』というだけあって、ゲーム内のスケールで、フル装備状態での全高、全長は100メートルを超える。

 頭部艦橋クラウンシェル胸部居住区ブレストキャビン臀部動力区画リアクターコア肩部武装区画アーセナルと云った各船体中枢バイタル・パートを、骨格フレームが繋ぎ、各部に生えるサブ・アームが装備モジュールを保持する構造。

 竜骨型の艦船と違い、宇宙ステーションのように船体区画パート骨格フレームの組み合わせで作られる構造は、SF的には、無重力空間で建造する際に合理的なのだとか。

 ユキムラいわく、この各区画パート骨格フレームで繋ぐ構造が、骨格標本のようだから――骨格艦レヴナント――と云う設定なのだそうだ。


 ゲームとしては、完成品アーキタイプの艦を買った後、腕や足、或いは区画ブロックを組み替えることで、自分好みの艦に改造できる万能艦。


 ただし、骨格艦レヴナント用の各区画パート骨格フレーム装備モジュールは、消耗する上にゲーム・アイテムとしては特に高価で、運用にとにかくお金クレジットがかかる。

 だからと言って、R・P・Gロールプレイングゲームの装備品と同じで、骨格艦レヴナントの性能はプレイヤーの能力に直結するから、ケチりにくい。

 貧乏性の俺には辛い仕様だ。


「これ、四隻艦隊フォー・アローヘッド用のラムシフト・トランスポーターで、惑星の重力圏からでも、長距離量子演算転移ラム・シフトが出来るタイプなんだけどさ。私たちのようなチームのステーションを襲うにしては、本格的過ぎない?」

「スカラブレイ星域セクタースレッド見たら、最近、この辺のステーションを荒らして回ってるソロ・プレイヤーが居るみたいやで?」

「でも、このトランスポーターの運用費用を考えたら、これじゃウチなんか襲っても全然儲からないんじゃ……」


 銀色の骨格艦レヴナントは、折り畳んでいた骸骨の身体を解す様に、頭部艦橋クラウン・ブロックを起点にバレルロール。

 肩部の武装貨物区画アーセナルに装備されて周囲を守る、薄水の白銀色をした短冊状の可動防御板シールド・モジュールは、左右合計十二枚。

 その外套マントのような白銀装甲が、輝く闇を反射して、夜の水面の様に輝いていた。


「トランスポーターもだけど、使ってる骨格艦レヴナント、駆逐クラスの〈アナイアレイター〉だよコレ。めっちゃ高いやつ。それにメイン武装もアレ、ペンタグラム社のゲイボルグ92長砲身亜光速ロング・サブライトライフルじゃない? 三連射出来るやつ。お金持ち過ぎる……」

「シド君……早口過ぎ。後、貧乏くさい」


 ユキムラが、ものすごく残念な人をみる表情で俺に言った。そうは云われても、性分なので仕方が――「いや、ごめん」


 そんなことを話している間にも、映像ウィンドウに映る白銀の骨格艦アナイアレイターは、P・B・Dペイル・ブルードットの宇宙艦の重力圏内用航法――粒子干渉場推進エル・スラスターの、蒼い推進光を船体全体から曳きながら、ステーションへ向かって来る。


 ステーションの防衛モジュール射程内。

 に、入るとほぼ同時に、骨格艦レヴナントの右腕フレームが保持するメイン武装、長砲身亜光速ロング・サブライトライフル・ゲイボルグ92を発射。

 三連射バーストモードではなく、ディレイを挟んで単発射撃を三回。

 ゲイボルグ92は、俗にスナイパー・ライフルと呼ばれるタイプの長砲身亜光速ロング・サブライトライフルの中では、精度はいまいちだが、単発射撃でも発射レートが群を抜いて高い。

 白銀の骨格艦アナイアレイターは、ステーションの対空網を形成している対空砲三基を、素早く正確に狙撃。

 そうして作った対空網の穴に、肩部武装区画アーセナル・ブロックのサブ・アームに装備されていた、巨大なヒュージ・ミサイルを二発発射した。

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