04 ユキムラ

 幸村風吹ユキムラ フブキ

 俺とクロエの幼馴染かつ、同級生。クラスまで同じ。

 女性型のアバターは、俺と同じでデフォルトの、リアル身体のスキャンデータから、そんなに弄ってはいない。

 品行方正で生徒会役員もこなす現実リアル側の幸村ユキムラは、ピアスもしていないし、髪も黒髪。


 一方、アバターは目元が凛々しい感じで、瞳の色も、髪の色も明るい。

 現実リアルはアンダー・ツインだけど、アバターの方がサイド・ツインなのは、こちらの方が気分がアッパーなあらわれだろうか?

 後、幸村ユキムラは眼鏡を掛けているのだが、ユキムラの方も、すこしオシャレした眼鏡を掛けていた。

 俺も似たようなものなので、ユキムラも「それなりにメイキングした」つもりだと思うのだけど、何せ黒江クロエとクロエの落差を見ているので、軽いイメチェンの域。


 さて、あらためて二人に、バス停の少女との出来事を話すと、ユキムラは整った眉を寄せて、眼鏡越しに俺を見つめる。


「シド君……白昼夢でも見たんじゃない? 今日、寝とく?」


 ユキムラも器用に、無重力のミーティング・ルームを重心移動だけで移動して、おでこに手を当て、真剣な目。お前もかユキムラ。


「いや、寝ぼけてたとか、そんなんじゃあないって」

「でもこれ、ロボゲーよ? 女の子がやる? ふつう」


 クロエと違って正真正銘、女の子のユキムラにいわれると、今度は違う意味でシュールだ。なんなんだ、このコントは。


「ユキムラがそれ、言うか?」

「ユキムラさんは良いのよ。私は特殊なSFオタらしいし?」


 特殊なSFオタ呼びが気に障ったのか、気に入ったのか、判断の付かない表情で笑う。

 彼女がP・B・Dペイル・ブルードットを遊んでいるのは、スペース・オペラが好きだから、というのは知っている。

 大体、このゲームに俺とクロエを誘ったのが、ユキムラなので。


「まあ、シド君の夢遊病の話はちょっと横に置いといて――ここで、ちょっと悲しいお知らせがあります」


 箱を横に置く仕草をして、ユキムラは話を変えた。仕草が古臭い。

 いやな予感がする。

 もとい、いやな予感しか、しない。

 横を見ると、クロエもどうやら気づいたようで、眉を寄せて「げっ」と言いださんばかりの顔をしていた。


「どうも昼間に、『レイド』に遭いました。ウチ」


      ***


 おのおの自分の骨格艦レヴナントに乗って、被害状況の確認のために、ステーションの外に出るとチーム・エッジワースの宇宙ステーションが破壊し尽くされた無惨な姿。

 原型は留めておらず、三つの大きな残骸が、周辺の小天体岩石アステロイドに混ざって浮いていた。


「うー、わ」


 クロエが、面白いイントネーションでうめく。


「ついにウチも、レイドされたかー……」


 レイド――さまざまなゲームで『強襲』や『襲撃』を意味する単語として使われているその言葉は、P・B・Dペイル・ブルードットでは、プレイヤーが所有する施設への攻撃を意味する用語として扱われている。

 ゲーム内通貨クレジットや個人所有の骨格艦レヴナントには、保護設定があって、他のプレイヤーに奪われたりはしない一方で、物資の類は、収納しているコンテナやコア・モジュールが破壊されると、他のプレイヤーがアクセス出来るようになり、奪われてしまう。

 この仕様に沿ってステーション等を襲い、物資を奪う行為が『レイド』と云うわけだ。


 しかしプレイヤーの主要な乗艦、ロボゲーと云われる所以――骨格艦レヴナントを戦闘させるのは、運用コストが高い。

 無傷でレイドを成功させたとしても、戦闘機動に粒子端末グリッターダスト莫迦ばか喰いするし、弾薬や整備費用も、もろもろ掛かる。

 ここはスカラブレイ星域セクターの辺境で、レアな資源にも乏しい。だから、こんなところにレイドを仕掛けるチームとなると、相当なモノ好きか、遊び半分の類――


「それでウチみたいな、辺境の小さなステーションをわざわざ襲ったモノ好きさんは、どこのチーム?」


 宇宙ステーションはカメラ・センサー・モジュールで、襲撃者の情報と映像が量子センサ・ネットワークに保存されるから、相手がよほど、ステルスやECM装備にお金を掛けて襲撃しない限り、襲った犯人は知れる。


「いや、それがさ……見てみる?」とユキムラから映像通信。

「なに? ずいぶん勿体ぶるね」

「レイドしてきたの、チームじゃなくって単独犯なのよね」


 蒼い映像通信ウィンドウの向こうに映るユキムラが、コンソールを操作するのが見えると、こちらの艦橋の空中に、べつの映像ウィンドウが表示された。

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