第二十章 出撃の超兵器『アース』
超兵器『アース』のパイロットであるオオタ・ノリコはアース専用特別格納庫でパイロットスーツに身を包み超兵器『アース』を見上げていた。
(この人類の存亡をかけた戦いが私の初陣……)
思わずノリコは持っていたヘルメットを握りしめる。
ノリコはアースのために幼い頃から専門の訓練を受けてきた。それもすべて宇宙怪獣との戦いに人類が勝利するためだ。ノリコはまだ十四歳だ。遊びたいという気持ちはあった。普通の同年代の子供たちのように過ごしたいという気持ちはあった。
しかし、ノリコはその気持ちすべてを押し殺して訓練に励んできた。全ては人類が宇宙怪獣に勝つために。そして孤児だった自分を引き取ってくれたオオタ少佐へと恩返しをするために。
「ノリコ」
「あ、お父さ……じゃなかった、少佐」
ノリコに話しかけてきたのは養父でありアースの責任者でもあるオオタ少佐であった。軍務の最中は親子ではなく上官と部下。オオタ少佐はノリコに常々そう言い聞かせてきた。だからノリコも普通に会話しそうになったのをやめて慣れない敬礼をしたのだ。
オオタ少佐はサングラスで表情を隠しながら敬礼を返すと、ノリコの隣に立ちアースを見上げる。
「ノリコ、緊張しているか?」
「……はい」
最初は強がろうと思ったノリコであったが、虚勢を張っても無駄だと思ったので素直に答える。
その反応にオオタ少佐は苦笑する。
「お前は人類のために尽くしてくれた。それはとても感謝している」
オオタ少佐の言葉にノリコは驚く。平時ではノリコに良くしてくれたオオタ少佐であったが、軍務に入ると厳しい言葉しか言われた覚えしかないからだ。
「いいか、ノリコ。お前は人類の存亡とか難しいことは考えなくていい。それを考えるのは俺たち大人の仕事だ。お前はただ自分にできる精一杯のことをしろ」
そこまで言うとオオタ少佐はサングラスを外し、ノリコの肩を掴む。
「そして生きて帰ってこい。人類のために死のうだなんて思うな。宇宙怪獣を倒し、生きて帰ってこい。アースにはその力がある」
オオタ少佐の言葉にしばし茫然としたノリコであったが、すぐに嬉しそうな表情になった。
「はい! オオタ・ノリコ! アースで宇宙怪獣を撃滅し、生きて帰ってきます!」
「うわぁ、壮観ですね」
『確かに。これだけ爆撃装備がいると壮観だな』
ユウは通信越しにファン曹長答える。
現在、ユウとファン曹長は乗機を爆撃装備に変えてエデンの周囲で待機していた。ユウとファン曹長の他にも作戦に参加するモビル・トルーパーが爆撃装備となって作戦開始を待っている。
「そういえば少尉は?」
『エデンの艦橋付近を見てみな』
ファン曹長の言葉にユウはカメラをエデンの艦橋方向に向ける。
そこにはストライカー装備のせいでモビル・トルーパー本体が見えなくなったカスペン大佐やキッペンベルク少尉の機体の姿があった。
「うわぁ、すごい装備ですね。本体が見えないじゃないですか」
『あのサイズで機動性は俺らより上らしいからな。開発部の連中はパイロットの肉体的負荷は完全に無視しやがった』
「少尉は大丈夫ですかね?」
『まぁ、なんだかんだ言ってもあの人もトップガンの一人だ。どうにかするだろうよ。それより俺は少尉よりフィーシーズが心配なんだぞ』
「自分がですか?」
ファン曹長の言葉にユウは不思議そうに首を傾げる。それに呆れたようにファン曹長はため息を吐いた。
『お前な、今までの戦闘は少尉や俺が援護してやれたが、爆撃装備になると個人行動も増える。俺もそうだし、少尉に至っては特別部隊に編入された。お前さんは一人で大丈夫か?』
「……あ!」
『フィーシーズ……お前気づいていなかったな?』
呆れ果てた様子のファン曹長もお構いなしにユウはおろおろと焦る。
「ど、どうしましょう曹長! 自分、訓練学校時代は射撃成績は下から数えたほうが早かったです!」
『安心しろフィーシーズ。爆撃装備にはあんまり射撃能力は関係ない』
「そうなんですか?」
『試しに爆撃装備がどんなのか言ってみろ』
ファン曹長の言葉にユウは首を傾げながら教本にも乗っている爆撃装備について語り始める。
「え~と、まずは片方の肩に六連核弾頭ミサイル搭載で両肩合わせて十二本の核弾頭ミサイル。対超巨大宇宙怪獣用のライフルと強襲、離脱を可能にするための超巨大スラスターが背面に装備されています」
『その通り。そして対超巨大宇宙怪獣用ライフルなんて言ってはいるが実質ゼロ距離で撃ち込まないと落とせない代物だ。つまりこれは近接装備。核弾頭ミサイルの威力は日本出身のフィーシーズには語る必要ないよな。これは発射したら即座に離脱しないと自分も巻き添え食って落ちる。最近のは追尾弾頭になったからターゲットをロックしたら発射するればどんな下手くそでも当てれる代物だ。相手も最低でも巨大宇宙怪獣だから外すほうが難しい。どうだ? 射撃能力は必要か?』
「いらないですね」
『その通りだ』
ユウの即答にファン曹長は満足そうに頷く。
『問題は爆撃装備でポーン型に絡まれた時だ。慣れていない奴はつい他の装備の気分で迎撃しようとするが、爆撃装備の時は絶対にやるな』
「何故ですか?」
『爆撃装備は対巨大宇宙怪獣用装備だからな。小型のポーン型との戦闘には向いていない。お前さんは至近距離で核弾頭ミサイルを使う自殺志願者か?』
「あ、納得しました」
つまり爆撃装備はポーン型との戦闘は想定していない装備なのだろう。取り回しの悪い対超巨大宇宙怪獣用ライフルではポーン型の高機動についていけず、核弾頭ミサイルなんか使ったら自分も爆発に巻き込まれる。
『いいか、フィーシーズ。爆撃装備でポーン型に絡まれたら逃げ回れ。爆撃装備以外のモビル・トルーパーが来たらそいつに任せる。それが爆撃装備の基本的立ち回りだ』
「わかりました! 逃げ回るのは得意ですから任せてください!」
ユウの言葉にファン曹長は爆笑した。すると突然にカスペン大佐から通信が入る。
『メンシュハイト・プファイル作戦に参加する全パイロットに告げる。今から三分後に作戦を開始する。特別機動兵器が一撃を加えた後、ストライカー装備の五機を先頭に敵陣に突っ込む。諸君、覚悟はいいか?』
カスペン大佐の言葉に通信越しにパイロット達から雄たけびがあがる。その反応にカスペン大佐は満足そうに頷きつつ言葉を続ける。
『諸君、エデン艦橋前にある特別カタパルトを見たまえ』
カスペン大佐の言葉にユウはカメラをエデン艦橋前の特別カタパルトに向ける。
「でっか……」
『なんだありゃあ……』
ユウとファン曹長は思わず呟いてしまうが、それは作戦に参加する全パイロットの言葉でもあった。
カタパルトからせりあがってきたのは対宇宙怪獣用特別機動兵器『アース』の姿であった。その全長は通常のモビル・トルーパーの十倍以上はあるだろう。通常のモビル・トルーパーはアースの掌サイズだ。
そしてアースから作戦に参加する全パイロットに通信が入る。
『私はアースパイロットのオオタ・ノリコです! みなさん、よろしくお願いします!』
ノリコの挨拶に反応できるパイロットはいなかった。アースの大きさに圧倒され、そのパイロットがまだ子供という事実に驚くことしかできなかったのだ。
『オオタくんだったな。ニワ元帥から作戦開始の狼煙はアースの一撃をもってすると聞いている。できるかね?』
『はい!』
カスペン大佐の問いにノリコは力強く答える。
『縮退炉起動、縮退開始……』
ノリコの操作によってアースの腹部から超巨大な砲身が出てくる。そしてノリコは真剣な表情のまま叫んだ。
『縮退率限界突破! ブラックホールキャノン! 食らえぇぇぇぇぇぇぇ!』
ノリコの叫びとともにアースの腹部砲身からブラックホール上のレーザーが射出される。その一撃は宇宙怪獣の陣にぽっかりと穴を空けるほどの一撃であった。
全パイロットがその威力に茫然としているとカスペン大佐から檄が飛んだ。
『作戦開始だ! アースの稼働限界時間は七分だ! その間に決着をつけろ! 全機
突撃!』
その言葉にまずストライカー装備の五機が飛び出していき、アースもそのあとに続く。
『フィーシーズ! 行くぞ!』
「は、はい!」
ファン曹長の言葉に正気に戻されたユウも機体を前進させるのであった。
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